1-3 元悪役令嬢は父親と朝食を取る
「・・・・・・」
「・・・・・・」
緊迫した空気が部屋を支配する。
誰も口を開かないので、静かな部屋の中でナイフやフォークの音だけが鳴り響く。
(チラッ)
私はこっそり目の前の相手を見る。
といっても、テーブルの端から端に位置しているので、目の前と言うには遠すぎる気がする。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
視線を向けられた相手──私の父親であるオラシオン公爵が反応する。
だが、私は首を横に振って否定する。
前世から彼は私のことに興味がなかった。
敵ではなかったが、味方でもなかった。
一貫して、私に対して無関心な態度を貫いていた。
幼い頃は寂しさのあまり甘えようとしたこともあったが、一向に反応のない様子にいつしか私は諦めていた。
そして、彼の助けを借りずとも生きていけるように、貴族令嬢としての勉強を続けたのだ。
その結果、あの寂しい最期を迎えたわけだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び食卓に静寂が訪れる。
周囲に視線を向けると、使用人たちは緊張した面持ちで立っていた。
これも私たちのせいだろう。
申し訳ない気持ちで一杯である。
しかし、私にはどうしようもない。
「ロータス」
「はい」
父が珍しく私の名前を呼ぶ。
無視するわけにもいかないので、私は顔を上げて返事をする。
目線が合い、しばらく時間が過ぎる。
その間、父は視線を彷徨わせる。
話しかけてきたのに、一体どういうつもりなのだろうか?
「・・・・・・勉強を頑張っているそうだな」
「はい」
いきなりどうしたのだろうか?
私が勉強していることは知っているだろうし、進捗についても報告は受けているだろう。
だが、興味はないと思っていた。
「・・・・・・そうか」
しかし、そこから会話は続かない。
父は食事を再開した。
私も気にせず、パンを口にする。
牢屋で貧相な食事しか食べられず、最期には食事すら与えられなかった私にとって、公爵家の食事は素晴らしいものだった。
思わずお替わりをしてしまった。
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