クラウディア_6
騒ぎの数日後、傷心のシャルリーヌの元にレオナードから一通の手紙が届いた。
内容は、マリサとの娘を「ニコラ」と名付けたということ。
ローラピュアの法律では、両親共に貴族でないと子も貴族を名乗れず、どちらか片方が平民であれば子は平民として生きていかなければならない。
そのため、マリサとの娘はマリサの苗字である「ラフォレ」を名乗ることとなる。
手紙にはその他にも、フランチェスカ家の程近くにあるブランシェット家の別邸にマリサ、ニコラと三人で住んでいること。
フランチェスカ家の援助は受けず、ブランシェット家の家業を手伝い生計を立てていくことが書かれていた。
ローラピュアの法律上、離縁・離婚は認められていないためレオナードは別居を選んだのだ。
そして最後に、月に一度、もしくは2、3ヶ月に一度でいいからクラウディアと会える機会がほしいと書かれていた。
きっと、好きな女との間に子どもが産まれ、少しばかり父性が芽生えたのだろう。
この一文にシャルリーヌは怒りに震えながら大きな笑い声を上げた。
側にいた侍女はどんどんと変わってしまうシャルリーヌに恐怖を抱きながらも、そこから動けず表情を変えられずにいた。
「なによ…、クラウディアが産まれてから今までずっと関心も寄せなかった癖に今更…。絶対会わせてやるものですか、クラウディアはわたくしの手で素敵なレディに育ててみせるわ。今に見てなさい、わたくしではなく、あの平民の女を選んだことを心から後悔させてやるわ。」
これが、シャルリーヌのレオナードに対する感情が愛情から憎悪に変わった瞬間だった。
そして同時に、クラウディアにとって地獄のような日々の始まりだった。
これまでクラウディアに対し何の関心も寄せず、乳母に世話を任せっきりだったが、シャルリーヌは自らクラウディアの躾に参加するようになった。
かつて自身が母親や家庭教師に厳しく育てられたように。
全ては、レオナードに自分を捨てたことを後悔させたい一心でクラウディアを完璧なレディに育て上がることに注力した。
上手くできれば更に高みを目指して鼓舞するために叱り、上手くできなければ何故できないのかと鞭で叩いて叱った。
クラウディアが泣き声を上げても叩くことをやめず、泣き止まないクラウディアを地下牢に半日以上閉じ込めることもあった。
クラウディアの身を案じた乳母や執事、ロータス伯爵が止めてもシャルリーヌはやめなかった。
そして狂ったようにこう言い続けた。
「この子を将来、王妃にするのよ。」
そう、シャルリーヌのレオナードへの復讐はクラウディアを王族へ嫁がせること。
そして王妃の母という確固たる地位を築くこと。
夫が平民の愛人と逃げ、ひとり娘を立派に育て上げた侯爵として自身の地位を築けば、レオナードは批難の的となる。愛人と共に苦しめばいいのだ、とシャルリーヌは考えたのだ。
そのためにも、クラウディアの教育を怠るわけにはいかなかった。
5歳にも満たない子に一日10時間の教育を施した。家庭教師を5人付け、政治・数学・歴史・言語・ダンスにマナーの教育を費やした。
全てはレオナードへの復讐のために。
そこに、クラウディアへの愛情は微塵もなかった。