クラウディア_4
「ノックもなしに人の部屋に勝手に入るのはいかがなものかしら。」
「ねぇ!クライシス様の婚約者は誰になるの?!」
「わたくし、あなたを屋敷に招いた覚えはないのだけど。勝手に侯爵家に入り込むなんて、不敬よ。」
興奮した様子の少女・二コラに対し、冷徹な瞳を向け淡々と言葉を紡ぐクラウディアに執事や女中たちは身を潜める。
「そもそも、なぜこの子を屋敷に入れたの?」
「も、申し訳ございません…。二コラ様が護衛を突っ切ってしまい…。」
「…あなた達もこの子に手出しできないのはわかるけど、これでは侯爵家の警備が心配だわ。見直しが必要ね。」
執事の返事にクラウディアがそう突っぱねると執事も女中たちも居たたまれなくなったが、下がれと言われていない以上立ち去ることもできず、ただひたすらに謝罪を続けた。
「お姉様ってば!!わたしの質問に答えてよ!!!」
「騒々しいわね、クライシス様の新しい婚約者なんて知らないわ。」
「でも!昨日まではお姉様が婚約者だったんだし、陛下から何も言われてないの?!」
「わたくしが陛下とお話をしたのは婚約の白紙と帝国に嫁ぐための詳しいお話を聞いただけよ。あなたが知りたいような情報は聞いていないし、聞いていたとしても陛下の許可なくあなたに話すわけないでしょう。」
わかったならお帰りなさい、とクラウディアが告げると、二コラは気が済まないと言わんばかりにクラウディアに食って掛かる。
「お姉様が婚約者じゃなくなったのなら、妹のわたしが婚約者に選ばれるかもしれないでしょう!?」
興奮が冷めやらない二コラはそう言ってクラウディアに肯定を求めた。
クラウディアは頭を抱え、深い溜め息を吐いた。
「これだけはハッキリ言うわ、”貴族ではない”あなたが何故王太子殿下の婚約者に選ばれるはずがないでしょう。いい加減、夢を見るのはやめなさい。」
クラウディアがそう冷たく言い放つと、二コラは徐々に顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。
「なによ!!!お父様は貴族なんだから、わたしも貴族みたいなもんでしょ!!お父様は侯爵なんだから!!!」
その言葉に、今度はクラウディアが眉間の皺を深くし二コラを睨みつけた。
「お父様は貴族でもあなたの母親は平民でしょう。この国では両親ともに貴族でないと子は貴族になれないのよ。そんなこともわからない?それに、侯爵はわたくしの母であってお父様のご実家は子爵家よ。もしこの国の法律が変わってあなたが貴族になれたとしても、あなたは子爵よ。」
改めて事実を言い放たれ、二コラは真っ赤にしていた顔を更に赤くし目を涙で潤ませた。
「何よ!!!お姉様は自分が貴族だからってそうやってわたしに意地悪を言うんだわ!何て意地汚いの、鬼!悪魔!」
仕舞には、さっさと帝国に行って痛い目を見ればいいと言い放ち、走って屋敷から出て行った。
一騒動終えるとクラウディアは深く深く溜め息を吐き、ソファに腰を掛けた。
「疲れたから、一度みんな出て行って頂戴。ソフィーも、先ほどの続きをお願い。少し休むわ。」
各々が部屋から出ていくと、カップに入った冷めた紅茶を一気に飲み干した。
事前に忠告したにもかかわらず、なぜ二コラに情報が漏れたのか、クラウディアは父親の顔を思い浮かべ余計に苛立ちを募らせた。
自身でポットから紅茶を注ぎ、一気に飲み干し自身の心を落ち着かせた。