クラウディア_3
自室の窓からレオナードが馬車に乗り、屋敷を去るのを見送ってクラウディアは深い溜め息を吐いた。
そんなクラウディアを侍女のソフィーは心配そうに見やった。
「お嬢様、わたくしはまだ先ほどのお話が信じられませんわ…。帝国に行かれるなんて…。」
「心配することはないわ。きっとここよりはマシな国よ。」
「誰か、侍従はお付けになるのですか?まさかお一人で行かれるわけではありませんでしょう?」
ソフィーが更に眉間の皺を深めると、クラウディアはソファーに深く腰掛けた。
「陛下からは、フランチェスカ家から数名連れても良いと仰せつかってるわ。そこでソフィー、あなた一緒に帝国に来ない?」
クラウディアからの思っていもいない提案に、ソフィーは目を丸くした。
「わたくしがお供してもよろしいのですか?!」
「もちろんよ、あなたとは幼いころからの仲じゃない。正直、気を遣わずに話せる相手はあなたくらいだもの。わたくしとしては是非一緒に来てほしいわ。」
クラウディアがそう伝えると、ソフィーは嬉しそうに頬を染めた。
ただ…、とクラウディアが続ける。
「帝国とローラピュアではしきたりや文化も違う。戸惑うことも多いと思うわ。それに、あなたの年齢を考えたらここに残って、良い縁談を見つけて誰かに嫁ぐ方が幸せだとも思うの。もし、ここに残るのであればわたくしが必ず良い縁談を見つけるわ。どうする?」
ソフィーは今年22歳になる。ローラピュアではすでに結婚の適齢期を過ぎており、中々縁談も来ないような年頃だ。
これまで不遇だったクラウディアの傍を離れまいと長年クラウディアに仕えてきた。もちろん、ソフィーの答えは決まっていた。
「お嬢様、愚問でございます。もちろんお嬢様と共に帝国へ参りますわ。この歳で新しい世界を見せていただけることに心から感謝いたします。帝国でも、お嬢様をしっかりとお支えいたします。」
ソフィーはしっかりとクラウディアの目を見て答えた。
その答えに、クラウディアも柔らかい微笑みを見せ、ありがとうと呟いた。
帝国への出発まで残り半月を切っているが、やることは山のようにある。
新しいドレスの仕立てや嫁入り道具の手配、帝国に関する情報収集。
妃教育の過程で帝国の基本的な知識は得ているものの、ローラピュアとは文化が異なることも多いため作法や食事、身だしなみや流行など、改めて勉強する必要がある。
基本的な礼儀作法やテーブルマナーなどは変わりないが、これから社交界で多くの貴族と交流を持つことを考えると、身だしなみに関する流行をいち早く抑える必要があると考えた。
ではければ、「これだからローラピュアは」と言われるに決まっている。
翌日、早速商会から帝国のドレスカタログを入手しローラピュアとの流行の違いを確認する。
ローラピュアでは、パーティーや国の行事の際には髪をまとめるのが一般的だが、帝国にはそのような決まりはない。
ドレスに関しても華やかな色合いや大判柄が目立つが、対してローラピュアは控え目な色味や柄を押さえたものが多く、帝国では地味な印象を与えるようだ。
「ソフィー、商会にこのカタログを見せて取り急ぎ10着はドレスを新調して頂戴。もちろん、ドレスに合う靴やバッグ、手袋、扇子もよ。」
「かしこまりました。」
「帝国に着いたら追加でドレスの新調をお願いしましょう。あと、髪飾りやアクセサリーも帝国に合ったものをいくつか見繕いたいから、商会を呼んで頂戴。」
「かしこまりました。午後には来ていただくようにいたします。」
クラウディアが忙しなく動く中、自室の外で騒がしい音が聞こえてきた。
「なりません、二コラ様!」
執事の制止を振り切って、クラウディアの自室の扉がノックもなしに勢いよく開く。
「お姉様ったら!!帝国に行くんですって!!?」
甲高い女性にもなっていな少女の声に、クラウディアとソフィーは頭を抱えた。