“魔女狩り”の男、幼き魔女を追い詰めて火あぶりにする
とある一室。
机に座る壮年の上官が、一人の男を呼び出す。
「ダレス君」
ダレスと呼ばれた男は上官に敬礼する。
黒髪に白い制服を着こなし、精悍な顔つきをしている。
上官はおごそかに告げる。
「一つ仕事を頼みたい。“魔女狩り”と呼ばれる君にしかできん仕事だ」
一枚の写真を差し出す。
「この魔女を……ハントしてもらいたい」
ダレスは薄く笑むと、心よくうなずいた。
「お任せください」
黒いコートを羽織ると、ダレスは颯爽と部屋を出る。
「今日こそただでは済まさんぞ……魔女め」
***
町の路地裏に、一人の少女がいた。
長い金髪を持ち、黒いローブを着たこの少女の名前はメリーナ。
まだ14歳だが、れっきとした魔女である。
「また……あなたなのね」
怯える少女の目の前にいるのは――
「久しぶりだな、魔女の少女よ」
“魔女狩り”の男、ダレスだった。
黒いコートを纏い、敵意に満ちた鋭い目つきをしている。
「指令が下った。当局まで連行させてもらうぞ」
だが、メリーナは手に持っている箒を振りかざす。
「そうはいかないんだから!」
「俺に歯向かうか……」
「雷よ!」
箒から放たれた雷撃が、ダレスを直撃した。
並みの兵士ならば、これで戦闘不能になってもおかしくない。
だが――
「無駄だ……」
「なっ!?」
無傷のダレス。メリーナは狼狽する。
「俺のこのコートには対魔法加工が施してある。お前の未熟な魔法など通用しない」
コートを見せつけるように、めくり上げる。
さらに、じりじりと間合いを詰めていく。格闘戦になれば、メリーナに勝ち目はない。
「……くっ!」
メリーナは箒にまたがり、空を飛んだ。
瞬く間に屋根を見下ろせる高度に到達する。
「これで逃げられるはず……!」
安心して、メリーナは後ろを振り返る。
そして、目を見開く。
「甘いな、魔女!」
ダレスが追いかけてきた。
むろん空を飛んでいるのではなく、建物の屋根や壁を足で蹴り、飛行するメリーナに追いついているのだ。凄まじい身体能力である。
「ウソ……なんて奴なの!?」
「俺は“魔女狩り”の異名を持つのだぞ? これぐらいはこなせて当然!」
「くっ!」
メリーナは速度を上げ、ダレスを撒こうとする。が、ダレスとの距離は広がらない。
しばらく空中チェイスが続いたが、メリーナの身に異変が起こる。
「あ、あら?」
メリーナの箒が高度を落としていく。
高度だけでなく速度も衰えていき、メリーナは着地せざるを得なくなった。
「な、なんで……?」
メリーナが着地したのは町外れの川岸だった。
ダレスが追いつく。
「さあ、追い詰めたぞ……魔女よ」
焦るメリーナ。
「なんで? なんで飛べなくなっちゃったの?」
ダレスは笑みを浮かべつつ答える。
「答えはこれだ」
懐から小さな灰色の瓶を取り出した。
「なにそれ……?」
「これは“魔吸壺”といって、魔力を吸収してしまう道具だ。半径五メートルぐらいの距離まで近づければ、相手の魔力を吸収することができる。俺と出会ってから、お前の魔力はずっとこいつに吸われ続けてたんだよ」
「なんですって……!?」
「さあ、覚悟を決めろ」
種明かしを終え、“魔女狩り”のダレスが迫る。
魔力が枯渇すれば、メリーナはただの十代少女も同然となってしまう。
もはや勝ち目はなかった。
しかし、逃げるだけなら――メリーナは再び飛ぼうとする。
「バカ、よせ!」
ダレスが止めるが、メリーナは箒にまたがり川を越えようとする。
が、やはりほとんど飛ぶことはできず、すぐに落ちてしまった。
しかも、この川は決して浅くはない。魔力を使い果たし、泳ぎも得意ではないメリーナは溺れてしまう。
「がぼっ……! あうっ……! ごぼっ……!」
「くそっ! 世話の焼ける!」
ダレスはコートを脱ぎ、すぐさま川に飛び込んだ。
彼は水泳も当然達者である。パワフルなクロールで川を泳ぎ、すぐさまメリーナを助け出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?」
「うう……ハーックション!」
「びしょ濡れだな……風邪ひいちまう。ちょっとこれ被れ」
ダレスはメリーナにコートを羽織らせる。
「ありがとう……」
うつむくメリーナ。
「すぐ火を焚く」
ダレスは慣れた手つきで草木を集め、火打石で焚き火を用意した。
メリーナは炎に手をかざし、柔らかな熱を味わう。
「あったかい……」
「よぉく火で乾かせ」
「うん……」
それを見てダレスは微笑むが、すぐに気持ちを切り替える。
「さて、こっちの用件を済ますぞ。出すもの出せ」
メリーナは「はぁい」と答えると、しぶしぶ自分のバッグを差し出した。
「開けるぞ」
と断ってから、ダレスはバッグ内を調べる。
すると――
「キャンディにペン、ブローチ……。魔法を利用したとはいえ、よくもまあこんなに盗んだもんだな」
「うう……」
メリーナは何も言えない。
「きちんと金は払ってもらうからな。それと今日は当局まで連行して夜まで説教コースだ。未成年だからって容赦せんからな!」
「はい……」
「軽い気持ちでやってるんだろうが、こういう小さな盗みでも店の経営は傾いてしまうんだ。よく覚えておけ!」
魔女メリーナは魔法を悪用して、小さな盗みを働いては通報され、ダレスに捕まるというのを繰り返してきた。
今までは未成年ということですぐ解放されていたが、反省の色がないので、今回はきっちり連行することに決めた。
そして――
「お前の母親にも連絡する」
これを聞いた途端、メリーナの顔が青ざめる。
「ちょ、ちょっと待って! お母さんには言わないで~! 魔法を悪事に使ったって知られたらお母さん、メチャクチャ怒るもの!」
「ダメだ! たっぷり叱ってもらえ! もう二度とこんな追いかけっこはゴメンだしな!」
「うぇ~ん! ごめんなさぁ~い!」
こうして“魔女狩り”ダレスは無事任務を果たし、メリーナもしっかり反省したということである。
おわり
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