表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

“魔女狩り”の男、幼き魔女を追い詰めて火あぶりにする

 とある一室。

 机に座る壮年の上官が、一人の男を呼び出す。


「ダレス君」


 ダレスと呼ばれた男は上官に敬礼する。

 黒髪に白い制服を着こなし、精悍な顔つきをしている。

 上官はおごそかに告げる。


「一つ仕事を頼みたい。“魔女狩り”と呼ばれる君にしかできん仕事だ」


 一枚の写真を差し出す。


「この魔女を……ハントしてもらいたい」


 ダレスは薄く笑むと、心よくうなずいた。


「お任せください」


 黒いコートを羽織ると、ダレスは颯爽と部屋を出る。


「今日こそただでは済まさんぞ……魔女め」



***



 町の路地裏に、一人の少女がいた。

 長い金髪を持ち、黒いローブを着たこの少女の名前はメリーナ。

 まだ14歳だが、れっきとした魔女である。


「また……あなたなのね」


 怯える少女の目の前にいるのは――


「久しぶりだな、魔女の少女よ」


 “魔女狩り”の男、ダレスだった。

 黒いコートを纏い、敵意に満ちた鋭い目つきをしている。


「指令が下った。当局まで連行させてもらうぞ」


 だが、メリーナは手に持っている箒を振りかざす。


「そうはいかないんだから!」


「俺に歯向かうか……」


いかづちよ!」


 箒から放たれた雷撃が、ダレスを直撃した。

 並みの兵士ならば、これで戦闘不能になってもおかしくない。

 だが――


「無駄だ……」


「なっ!?」


 無傷のダレス。メリーナは狼狽する。


「俺のこのコートには対魔法加工が施してある。お前の未熟な魔法など通用しない」


 コートを見せつけるように、めくり上げる。

 さらに、じりじりと間合いを詰めていく。格闘戦になれば、メリーナに勝ち目はない。


「……くっ!」


 メリーナは箒にまたがり、空を飛んだ。

 瞬く間に屋根を見下ろせる高度に到達する。


「これで逃げられるはず……!」


 安心して、メリーナは後ろを振り返る。

 そして、目を見開く。


「甘いな、魔女!」


 ダレスが追いかけてきた。

 むろん空を飛んでいるのではなく、建物の屋根や壁を足で蹴り、飛行するメリーナに追いついているのだ。凄まじい身体能力である。


「ウソ……なんて奴なの!?」


「俺は“魔女狩り”の異名を持つのだぞ? これぐらいはこなせて当然!」


「くっ!」


 メリーナは速度を上げ、ダレスを撒こうとする。が、ダレスとの距離は広がらない。

 しばらく空中チェイスが続いたが、メリーナの身に異変が起こる。


「あ、あら?」


 メリーナの箒が高度を落としていく。

 高度だけでなく速度も衰えていき、メリーナは着地せざるを得なくなった。


「な、なんで……?」


 メリーナが着地したのは町外れの川岸だった。

 ダレスが追いつく。


「さあ、追い詰めたぞ……魔女よ」


 焦るメリーナ。


「なんで? なんで飛べなくなっちゃったの?」


 ダレスは笑みを浮かべつつ答える。


「答えはこれだ」


 懐から小さな灰色の瓶を取り出した。


「なにそれ……?」


「これは“魔吸壺まきゅうこ”といって、魔力を吸収してしまう道具だ。半径五メートルぐらいの距離まで近づければ、相手の魔力を吸収することができる。俺と出会ってから、お前の魔力はずっとこいつに吸われ続けてたんだよ」


「なんですって……!?」


「さあ、覚悟を決めろ」


 種明かしを終え、“魔女狩り”のダレスが迫る。

 魔力が枯渇すれば、メリーナはただの十代少女も同然となってしまう。

 もはや勝ち目はなかった。

 しかし、逃げるだけなら――メリーナは再び飛ぼうとする。


「バカ、よせ!」


 ダレスが止めるが、メリーナは箒にまたがり川を越えようとする。

 が、やはりほとんど飛ぶことはできず、すぐに落ちてしまった。

 しかも、この川は決して浅くはない。魔力を使い果たし、泳ぎも得意ではないメリーナは溺れてしまう。


「がぼっ……! あうっ……! ごぼっ……!」


「くそっ! 世話の焼ける!」


 ダレスはコートを脱ぎ、すぐさま川に飛び込んだ。

 彼は水泳も当然達者である。パワフルなクロールで川を泳ぎ、すぐさまメリーナを助け出した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「大丈夫か?」


「うう……ハーックション!」


「びしょ濡れだな……風邪ひいちまう。ちょっとこれ被れ」


 ダレスはメリーナにコートを羽織らせる。


「ありがとう……」


 うつむくメリーナ。


「すぐ火を焚く」


 ダレスは慣れた手つきで草木を集め、火打石で焚き火を用意した。

 メリーナは炎に手をかざし、柔らかな熱を味わう。


「あったかい……」


「よぉく火で乾かせ」


「うん……」


 それを見てダレスは微笑むが、すぐに気持ちを切り替える。


「さて、こっちの用件を済ますぞ。出すもの出せ」


 メリーナは「はぁい」と答えると、しぶしぶ自分のバッグを差し出した。


「開けるぞ」


 と断ってから、ダレスはバッグ内を調べる。

 すると――


「キャンディにペン、ブローチ……。魔法を利用したとはいえ、よくもまあこんなに盗んだもんだな」


「うう……」


 メリーナは何も言えない。


「きちんと金は払ってもらうからな。それと今日は当局まで連行して夜まで説教コースだ。未成年だからって容赦せんからな!」


「はい……」


「軽い気持ちでやってるんだろうが、こういう小さな盗みでも店の経営は傾いてしまうんだ。よく覚えておけ!」


 魔女メリーナは魔法を悪用して、小さな盗みを働いては通報され、ダレスに捕まるというのを繰り返してきた。

 今までは未成年ということですぐ解放されていたが、反省の色がないので、今回はきっちり連行することに決めた。

 そして――


「お前の母親にも連絡する」


 これを聞いた途端、メリーナの顔が青ざめる。


「ちょ、ちょっと待って! お母さんには言わないで~! 魔法を悪事に使ったって知られたらお母さん、メチャクチャ怒るもの!」


「ダメだ! たっぷり叱ってもらえ! もう二度とこんな追いかけっこはゴメンだしな!」


「うぇ~ん! ごめんなさぁ~い!」


 こうして“魔女狩り”ダレスは無事任務を果たし、メリーナもしっかり反省したということである。






おわり

お読み下さいましてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「火あぶり」 うん!確かに火あぶりですね(笑) 物騒なタイトルですが、何故かホッコリお話でした。 でも「万引き」は立派な犯罪です。 メリーナさんはしっかりと叱られて下さい。 ダレスさんは生…
[良い点] 火あぶり?ああ、火力は低いですが、確かにあぶってますね。嘘は言っていないのがなんとも… [気になる点] 盗みはダメでも、町中をほうきで爆走するのはOKなんです? [一言] ダレス氏、お勤め…
[良い点] シリアス系のタイトルからの、ほっこりさせられるお話。 エタメタノール様の持ち味前回ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ