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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央3
96/102

 構内図のない政治部門を探索してフィリウスとかなんとか名前が付いていた魔法兵器もどきを探すのは中々骨が折れた。何しろ、フィリウスはこの間の勇者狩りの騒動で押収、処分されるはずだったために、何とか隠蔽しようと棟のあちこちに隠されていたし、検知できるエンデとの意思疎通が別館のプールでしか取れないことが探索にかなり響いた。

 簡易的に構内図を作り上げ、何度も別館と政治部門の棟を行き来してエンデが「多分ここ」という場所にいき、回収して別館に戻って「魔法実験で汚染された粗大ごみだった」などが指折り数えて両手で足りず。また、エンデのように検知できる魔法使いが押収班にいることを恐れてか魔法兵器もどき(フィリウス)が汚染された粗大ごみに隠してあるなども多く、それが汚染された粗大ごみなのか、汚染された粗大ごみっぽいフィリウスなのか、俺にはエンデのもとに持ち帰るまでわからないのが最悪だった。

 粗大ごみは器には出来ないそうだ。ゴミはゴミらしい。

 10往復ほどの間にやや日が傾いてきて、さらに15ほど往復したころには星が瞬き、月の位置がだんだん変わっていくのがはっきりわかった。いつのまにか晴れた。

 どれくらい走ったかわかりやすく説明するために、遺物に基づいて描写すると、別館と政治部門を繋ぐ橋は国土地理院が発行している縮尺5万分の1の地図上で8㎝ある。つまり実際の距離は4キロメートルだ。これを、己の身長よりも大きい粗大ごみを持って何往復もした。我ながら結構頑張ったと思う。

 ようやく、15体魔法兵器もどき(フィリウス)を集めきって各動力プールに配置が完了したときには、別館の中庭はさながら粗大ごみの不法投棄場のようになっていた。粗大ごみが魔法汚染のせいで薄く発光していて妙に明るい。

 昇降機の前に立つだけで勝手に扉が開いてくれる。すごく気分がいい。とても嬉しい。

 地下に到着して、扉が開いた。プール周辺も魔法兵器もどき(フィリウス)でなんだかごちゃついてしまっている。

「これで本当にいいのか」

 エンデの返答を待つ。

「自我が残っている個体には了承を得たよ。他に僕ができることはない。」

 相変わらず声だけのエンデが気掛かりだったが、俺にできることももうない。

 まず、最も汚染が軽微な別館の予備プールで試して、次に実験用プール、最後に主たるあのプールの汚染をどうにかする予定だ。

 約束の0時まであと2時間ほど。カイエは見つかっているが、歌の効果が切れれば汚染の吸収に反発や抵抗が加わり、エンデやヘレネの仕事が極端に難しくなる。

 器は他にない。これが最後の機会だろう。

「エンデ、本当に……」

「しつこい。もとから背負う予定の負担だ。時期が少し早まきになっただけだよ。何かあればよろしく。容赦するなよ。今よりもっと悪いことになるのは確実だからね。」

 伝えられている暴走の合図を復唱する。

「……天輪の回転が止まったら、刺す。」

 天輪がなんのことか知らなかったが、見ればわかると言われてしまった。

「ヘレネ、調子は?」

 エンデが呼びかけると、一体の魔法兵器もどき(フィリウス)がぎこちなく動いた。

「悪くはない……。調子はいいけど気分が良くない……」

 手を閉じたり開いたりしている。かしゃかしゃと音が鳴った。魔法兵器もどき(フィリウス)は器として充分に機能しているようだ。

 ヘレネはカイエの歌を支えているし、カイエを治すという仕事が残っているので、個体として残しておく必要がある。他のプール内他個体と一緒に吸収されてしまっては困るので、一時的に魔法兵器もどき(フィリウス)の1つを占有し移っていてもらうことになった。魔法兵器もどきには顔と思わしきパーツが付いている。見上げて顔を窺う。表情に変化はないが、心なしか困惑気味に見えるのが面白い。

 あらためて魔法兵器は奇妙な存在だと思った。体がなくても思考が持続するエンデ、体がないと思考は停止するが、特殊な手段でトドメを刺さない限り精神は残っている他の魔法兵器。狂ったら、精神はずっと起きているらしい。体を得ると暴走する。

「始めるよ。」

 そういえばどうやって精神を移し変えるのか、と思っていたところで、ヘレネの入った魔法兵器もどきが、言い終わる前に別の魔法兵器もどきをプールに蹴落とした。

「そんなんでいいのか……?」

 プール内を覗く。ガシャガシャと音を立てて、先ほどまで微動だにしかった魔法兵器もどき(フィリウス)がもがき始めた。

「ああ。さっきも言ったけど、それ、多分暴れるから。腕でも足でも頭でもちぎって止めてね。じゃ、頑張って。」

 と、エンデが空からありがたい言葉を述べた。天輪の出番はまだのようだ。エンデの言葉の終わりにかぶさるように、悲鳴にも聞こえる咆哮が響いて、プールの縁をやけに長い腕が掴んだ。

 急いで剣を抜く。

「腕の千切れは動力プールのように漏洩判定にならないのか?」

「まあ、どこか千切れるのは、よくあることだから。」

 答えになっていないと文句を言う前に、縁につかまっている腕を掴んで引き上げて解体した。

「……うわ。なんか……、いや。なんでもない」

 と、げんなりしたような口調のヘレネが、残りすべての魔法兵器もどき(フィリウス)をプールに蹴り落した。

 プール内でガシャガシャとけたたましく人工の関節が鳴った。

 

 _____________

 

 魔法兵器もどき(フィリウス)が主力プールの汚染を吸収するたびに耳鳴りと眩暈がマシになった。俺は汚染に強い方だから何とかなっているだけで、俺にくっついている汚染だけで恐らく数名は発狂するだろうと思う程度に、昇降機をおりて初めて踏み入った時の主力プールからは危険を感じた。

 魔法兵器もどき(フィリウス)最後の一体の胴体を踏みつけ、腕を引っ張って取った。がたがたと、数秒間暴れた後に動かなくなった。

「……これで全部だな。あとはお前の仕事だ。」

 振り返ると、エンデが目をつぶったまま立っていた。しばらく見ていなかったから、長い髪が目新しく感じた。ヘレネはパチパチと手を叩いてから、俺がばらした魔法兵器もどき(フィリウス)を部屋の隅に並べた。

「君を見ていると、何でも出来そうな気がしてくるよ」

 彼はそう言うと踵を昇降機の方へと歩いて行ってしまった。

 残り1時間を切った。

「どこに行くんだ」

 ヘレネが何も言わずに追うので、俺も黙ってついていくことにした。自動で開く扉に新鮮に感動しつつ3人で昇降機に乗り込んだ。

「髪戻したのかい?やっぱりその方がいいよ。そういえばルキはどうだった?相変わらずのおっちょこちょいだったか?」

 ヘレネがエンデの髪束を掬って眺めた。

「少し落ち着いていたよ。」

「あ、指の関節に髪の毛絡まった。どうしよう。」

「何をしてるんだ。全く」

 と言いつつ、エンデが呆れたようにヘレネを見上げ、絡まっている髪を引っ張った。小さく音を立てて髪がちぎれた。

「ちぎれた」

 悲壮感でいっぱいです。僕は世界で一番かわいそうですと言いたげな顔でエンデがこちらを見た。数秒後には何か思い出したように無表情に戻った。

「当たり前だろ」

 どうなると思ったんだ。逆に。「指に髪の毛挟まったままなんだけど」とヘレネが不服そうに手を眺めている。

「……。…………。なんなんだお前らは、間抜けだな。」

 これにカイエどころか、世界の命運さえも託されているのだと思うと、頭を抱えるしかない。

「神の創造物に対してマヌケとはなんだ。私がいなければこの昇降機にも乗れない哀れな生命が何を言う」

「じゃあ、人間の方の親が間抜けだったらしい」

 エンデとヘレネが顔を見合わせた。魔法兵器もどき(フィリウス)に入っている関係でヘレネの背が高く、エンデの首が大変そうだ。

「まあ、私は、父親に対しての悪口なら大歓迎だ。……僕らがマヌケなのは否定できない。人間に受け入れられやすいように、僕らそれほど賢く作られなかった。文句ならマヌケの親の大マヌケに言ってくれ。」

 と言いながら、ヘレネがエンデの髪を直接触らずに撫でるふりをした。エンデがやや不服そうに顔を顰めて、その手を払おうとしたが、ヘレネの手が重かったようで上手くいかなかったらしい。よほど気に入らなかったのか消えてしまった。

「賢かったら反逆してたのか?……ついたな。」

 昇降機が「三階」についた。開いた扉を手で押さえて、ヘレネを先に通す。ちょっと体を傾けて狭そうに扉をくぐった。

「賢くなくても反逆してるよ。私みたいなのはね。ほら、誰も悲しまないように一人残らず海に沈めようというような方法でさ。」

 カシャカシャと音を立てながらヘレネは先に進んだ。

「どこに向かうつもりだ。それほど時間はない」

「天輪が見やすい位置だよ。テラスとかないのかい?空は見えた方がいい」

 この部屋と、倒れている5体の発狂者を見ているとどうにも気分が悪くなる。まき散らされているやけに新鮮な血を踏まない様に足場を選びながら、きもち速足で部屋を出た。

「この棟なら5階だ。空を見たいだけなら、そこの渡り廊下でも良いが。」

 正面の渡り廊下を指差した。窓から廊下の屋根に上がるのが簡単だから、手っ取り早く空を見たいなら適している。

「じゃあ、そこで。」

 とエンデが答えると、階段を上ろうとしていたヘレネがやや挙動不審に戻ってきた。

 渡り廊下に走って、一番手前の窓の縁に足をかけた。体を捻って屋根の縁につかまる。そのまま体を引き上げれば簡単に登れた。ここは階としてはそれほど高くないが、この城は丘に建っているから、都市が一望できる。動力の死んだ都市はただの黒い塊の様だった。空はぐらつくほど高く、視界一杯に広がった。

「……嫌な予感はしたよ。テラスにしないか?」

 と、ヘレネが窓から身を乗り出してこちらに悪態をついた。

「これが引き上げるから。手を伸ばせ」

 いつの間にかエンデが後ろにいて、俺がヘレネを引き上げることになってしまった。

「落としても恨むなよ」

「随分無理な注文を……」

 文句を言いつつもヘレネはこちらに手を伸ばした。風は強くないし、地面までの高さもそれほどではない。屋根から下を覗いても恐怖は感じなかった。

「うげー!!腕もげる」と、笑いながら叫んでいるヘレネを屋根に引き上げた。これが遭遇すれば命はない、容易く都市を滅ぼす恐ろしい兵器の姿か。

「汚染を吸収するのに、プールに近くなくていいのか?」

「溢れた全てを吸収するんだ。場所はどこでもいい。それに、僕の魔法に範囲の制約はない。」

 エンデが宙に何か描いているように手を動かした。俺には何も見えないので、暴走の判断基準となる天輪は見えるだろうかと急に不安になってきた。何も言われないから、……多分大丈夫だろう。

「これが終わったら、あの子を治しにもう一度別館に戻るからね。エンデュミオンは多分動けなくなるけど、ここに置いていくかい?」

「いや。時間的にこれが終わったらすぐに都市に降りるから、後で回収となるとしばらく時間が空くだろう。こいつを放置すべきじゃない。」

「了解。それから、治療に関して。さっきも言ったけど、ぐしゃぐしゃになった精神を戻せるのは発狂が軽微だからだ。治せるのはあの子だけだ。悪いけど、後は手遅れだよ。」

 わかっていると頷く。むしろすべて治療できる場合の方が心理的にまずかった。俺や先行隊は発狂者をさんざん始末した後だ。

「……それじゃあ、始めよう。」

 エンデの合図があって、風が、完全に止んだ。すべての音が止んだ。

 代わりに、深淵から歯車の呻きが響いて落ちてくるような、この世の理が天地を砂時計のようにひっくり返したような、感知してはならない巨大な何かが世界を振るわせているような、曰く言い難い恐ろしさが全身を突き抜けた。

 俺が目を白黒させていると、唐突にエンデが膝をついた。

「大丈、夫……か」

 背後、空に、あまりにも巨視的な天に巨大な鈍い黄金の輪が、浮かんで、ぎょっとするような速度で流れて広がり、星辰のすべてを覆うように、あまりにも美しいそれが、ゆっくり、ゆっくりと、歌うように音を立てて回り始めた。

 背筋が凍る。禁忌を見ているように思えた。

「さっきまでこんなんじゃなかっただろ」

 思わず喚くような調子になってしまった。プールに蹴り落すだけのあれは何だったんだ。

「あれらが吸収したのは汚染のせいぜい全体の2割程度、特に新しく体を欲しがるほど思考が乱れていた部分だ。この都市の動力なんて、その2割で1000年だろうが、2000年だろうが賄える。今しようとしているのは、最早ちょっとした神の復元に近い。」

 天輪はゆっくりと回り続けている。

「なあ、勘違いしてくれるなよ。僕らは好意で人間にとって易いようにふるまっているだけだ。特に、エンデュミオンは。」

 ヘレネは空を見上げたまま言葉を発した。

「……味方でいてやってくれ。あまり失望させないでくれ。そして、僕らが使命だとか愛着なんて児戯にこだわっている内に全てを終わらせた方がいい。」

 静かに、脅しを受けた。

 

 _____________


 城下に戻ってこれたのは0時ギリギリだった。灯りがないから、封鎖以外では誰も出歩いておらず、都市は静かだった。

 眠っているカイエを隔離施設の簡易医務室まで運んで、ベッドに寝かせた。規則的な寝息を立てているのを見て、ようやく本当の意味で呼吸ができたように思えた。

 貰っておいた毛布をかけた。肌寒いが、外よりはるかにマシだ。暖炉にくべてある薪が音を立てている。

「結構、大変だったんだ。今日は勝手にどこか行かないでくれよ。」

 乱れている前髪を撫でて整える。寝顔が穏やかで、思わず苦笑した。

 バチバチと、音を立てて都市の動力が復活した。あちこちからどよめきが広がる。ヘレネはうまくやったようだ。

 背後で乱暴に扉を開け放った音がして、ずけずけと部屋に入り込んでくる足音がした。

「おい、何だこれは!何故灯りがついた。さっきの空はなんだ。」

 フェルミだ。心配していたが、声の調子が元気そうで安心した。

「3本中2本の釘が行方不明だな。なのに昨日まで全く魔物の被害が出なかったのは、汚染と歌の効果だ。だが今は、汚染を政治部門が隠し持っていた魔法兵器もどきで吸収してしまって、歌の効力も切れた状態だ。城は魔法兵器もどきがいるから安全だろうが、都市は違う。」

「……それでどうして灯りが付く。」

「魔法には魔物を寄せ付けない効果がある。釘の代わりに、必要だ。」

 振り返ると、フェルミは思ったより深刻そうな顔でこちらを睨んでいた。

「どうやったか知らないが。まあいい。貴様にしては珍しく魔法に詳しいな。説明の手間が省けた。……灯りの効果について、どこで知った。」

 さっきヘレネに説明してもらったのをそのまま口に出しただけだったのだが、それ以前にも灯りの効果に触れる機会はあった。

「……エントの廃都市だ。それがどうした」

「馬鹿めが、現地に行ったのにおかしいと思わなかったのか?エントが滅びたのは征服戦争の直後、40年前。ローレンツがヴェルギリアで動力や灯りを『発明』し、その功績で執政官になったのが10年前。」

「……つまり、なんだ。」

「執政官代理権限を使って個人的に調べていたんだ。魔法部門最高執政官の出身はエントだ。完成しなかったエントの灯りの研究を引きついて、彼がヴェルギリアにもたらしたものがこれだ。」

 小声だったが、怒りが隠せていなかった。

「動力プールの事故は、意図的に引き起こされた可能性が高い。エントへの立ち入りや介入は今まで徹底的に禁じられてきた。破れば処罰もあった。加えてローレンツの経歴詐称が許されていた。この事態は、この惨状は、機関が引き起こしている。」

「落ち着け。ローレンツ殿の経歴はともかく、その他はあくまで推測だ。」

 そうはいったものの、フェルミはそれなりに落ち着いているように見えた。代わりに俺がじっとりと嫌な汗をかいていた。

「……私もそうであることを望んでいるよ。とかく、汚染の吸収については期待以上の仕事だ。体は大丈夫か?仕事を振るつもりだったが、少し休め。」

「どこに行くんだ」

「釘の捜索だ。もっとも、貴様の話を聞いて、別の作業をするつもりでいるが。……言い忘れていたが、近々貴様に本当に逮捕状が出る。罪状は内乱罪だ。魔法兵器を連れているのがどこからかバレたらしい。どうせローレンツだ。」

 そう投げやりに言って、部屋を出て行ってしまった。

 

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