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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央3
91/102

中央3ー1

「船が中々出なかったこと以外はそれなりに順調だったな」

 一昨日の天気は酷かったと空を見上げるが、今は果てしなく灰色の雲が広がっているだけで風もなく穏やかだ。数日前に雪が積もったのか、地面にその痕跡が残っている。

「……。」

 エウクライドを出てから、エンデが姿を現さなくなった。聞いてはいるのだろうと思ってしばしば声をかけているが返事はない。昔の自分を見られたから、もしくは盟約の剣が本格的に彼の脅威になったからなど、出てこない理由はいくつか思いつく。俺に突然刺されるのを警戒しているのだろうかと思うと、彼がそれほど友好的な存在ではないということを思い出して複雑な気持ちになった。

手足は返ってきていて、エンデに反逆する時機としては今が最適なのだ。そして、俺は恐らく彼に対抗しなければならない立場にある。

魔法がもたらす害は、よほど大規模な魔法が行使されない限り表出しない。そして、その害は多くの人間が進歩のために、利権のために敢えて見ない様にしていることであって、魔法を除こうなどと言えば、妄言に取りつかれたと処断されるのは目に見えている。

 俺がエンデのしようとしていることに対してそれほど反感を抱いていないのは、俺が魔法の才に全く恵まれなかった稀有な人間だからだと思う。もっと田舎に行けば違うのかもしれないが、一人で魔法具すら扱えない人間は今のところ俺以外に見たことがない。盟約の剣も、本来鞘に「持ち主だけに抜ける魔法」がかけられているところ、俺だけ「俺以外に抜けない魔法」がかけられている。それも含め、なんだかだいぶ人に迷惑をかけた。

 そしてそれほど労力を割いているにもかかわらず、城内の認証は剣を鞘に納めたままでも行えるので、この間の勇者狩りのようなことが起きる……。極めて無意味だ。

「はは。……俺はお前を刺すつもりはない……死んでくれ……俺は何も選びたくないんだ。」

 その場で蹲りたくなった。やめておいた。

あと数千歩でヴェルギリアというところまで戻ってきた。数えてみると、二週間と少しここを離れていたことになる。あの一通の以降、フェルミから新しい手紙は届いていない。奴は筆まめではないので、まずい状況になったから何も書いていないのか、なにもないから書いていないのかわからない。ひとまず、遠景に見える機関の本拠地たる城から煙などが出ていないことに安堵した。暴動などが起きていれば真っ先に燃えたり爆発したりするのはあの城だ。早朝の白い寒さが身に染みる。

 

 _____________


 珍しく北門に門番がいた。不審に思いつつ近づくと、門番が腕を伸ばして立てた親指くらいの大きさに見える距離で俺に気がついたのか「都市に用なら南門に迂回しろ」と大ぶりなジェスチャーとともに叫んだ。現在地から最も離れた門に案内されたことになる。

「何かあったのか」

「正式な調査と発表を待ってください」

と定型文を返されて、ようやく自分が制服を着ていないことを思い出した。目深にかぶっていたフードを取って、白い剣を鞘ごと掴んで掲げる。

「ああ、あなた勇者ですか。ご愁傷様です。」

ぴしりと立っていた門番が複雑そうな表情を浮かべて姿勢を崩した。急にやつれたように見える。

「何があった」

「詳しいことは私どもには伝わっていないのですが、……おそらく動力プールの事故です。発狂者が闊歩しているので城とその周辺一帯が封鎖されています。」

「いつから」

「4日前です。臨時の避難所は西門、隔離施設は東門の方にあります。対策本部も東門の方ですが……」

「対策本部も隔離か。」

「近づくべきではないです」

 城で汚染が発生したのだから隔離されるのは当然だろう。「なにかまずいこと」で済ますには大事件が過ぎると悪態をつく以外に内心を落ち着ける方法がない。知り合いが無事でいると期待するべきではない。名前も思い出さない、俺は誰とも知り合いではない。

 ……彼女をここに連れてくるべきではなかった。

「わかった。……執政官は?」

「政治部門とその他諸部門の執政官は東門側施設の管理を、勇者部門の執政官は二日前に都市に戻り、避難所の管理と外部対応をしています。魔法部門の執政官は消息不明です。……死亡したものとして対策が進められています。」

「そうか。ありがとう。帰還者に対して何か指示はあるか?」

「4級以下は西門側施設の警備、3級以上は城の封鎖に加わるよう指示されています。」

「わかった。」

「……それから、レインハイムさん。あなたには動力プールの破壊容疑がかけられています。」

 とりあえず南門に移動しようと背を向けたところで呼ばれた。近づきすぎたか、と後悔してからとんでもないことを言われたと気が付いた。

「俺?」

「はい。都市外から監視官の報告がありますので、実行犯でないことはわかっているのですが……容疑者の一人になっています。」

「なんで?」

「知りません。すみませんが、見つけたら拘留するように言われているので……その、ご協力いただけないでしょうか……」

「見なかったことに出来ないか?」

「結構報酬が出るんですよ。あ~、それがちょっとやばそうなので、私もどうしようか迷っているのですけれども」

 と、門番は焦燥したように指を突き合わせた。押せば何とかなりそうだ。門番の肩を掴んでこっちを向かせた。

「俺の仲間の実行犯は?拘留指示を出したのは誰だ?誰が報酬を支払うと言っている?」

「ひい、わ、わかりかねます……!指示は仲間内の伝聞なのです。助け……」

 本当に知らなさそうだ。手を離す。門番は肩を抑えて地面に崩れた。

クーデター、という文字が頭に浮かんだ。意味が分からないことに俺は執政官直属部下なので、ふんわりした理由で逮捕されるのは良くない。今後ふんわりした理由で何をされても文句が言えなくなる。だが、転覆となると、俺と同じように都市を離れていたゲールクリフが無事というのが引っかかる。杞憂か、あるいは彼も容疑者か。

「幾らほしい。口止め料だ」

報酬に釣り合う価格を申し出るはずだ。出どころが知れなくても、幾らなのか分かれば見当の役くらいには立つだろう。

「……い、りませんっ。ごめんなさい……!」

 門番が尻もちをついたまま後ずさりをした。本気で怖がらせたらしい。痛がっているのは演技だと勝手に思っていたので怯んだ。屈むと十代半ばの幼さの残る双眸と目があった。……年長者は都市内に仕事があるのかと思い当たる。

「あの……悪かった。掴んですまない。ともかく額を教えてくれ。」

「じゃあ」

 と言って、門番は周囲を窺ってからこちらにメモを見せた。朝礼で言われたのだろう注意事項が真面目に残されていた。その下に金額とよくわからないメモが書いてあるが……。

「高い。調子に乗るな。……待て、本気でその額なのか?正確に?」

 門番が頷いた。

「なんか怪しいでしょう……?」

 と門番は恨めし気にこちらを見た。今度こそ蹲るかと思った。


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