ちょっとしたその後の話
聖域が地の底に落ちた。叩きつけられた衝撃によって、あちこち崩落した。いや、崩落していたのだ。1700年も前に。
「……お前といると、余計によく落ちるな。」
頭を振るとパラパラと瓦礫の小さな破片の落ちる音がした。悪態に返事がないのを不安に思って周囲を窺う。灰色の髪を瓦礫の隙間に見つけた。急いで瓦礫をどかすと、エンデは衝撃でバラバラになってしまったらしく、腕や足があちこちに散らばっていた。慎重にかき集めて、つなぎ合わせる。暗い中での作業は心もとなく、一秒でも早くここを出たかったが、後でパーツが紛失していることに気が付くよりは今つなぎ合わせてしまった方が良いだろうと判断した。何よりも、早くエンデに喋ってほしかった。なんとなく、今はそれが一番不安を取り除いてくれるもののように思えた。
崩落の前に突き飛ばされたような衝撃を受けたのを覚えている。もしかしたら、俺を突き飛ばして下敷きになってしまったのかもしれない。これに俺を突き飛ばせるほどの腕力があるかは怪しいが、他に実行できる者はいないから、彼だろう。ロナノークの痕跡は全くなかった。
「寝ないんだろ、お前は。聞こえてるのか?」
エンデの上体を起こして背中を腕で支える。彼の目の前で手をひらひらさせてみる。目は開いているが反応はない。脱力している全身を支えても、これは人間ではないと直感に訴えてくるほど軽く、ただの人形になってしまったように思えて目の前が暗くなった。
意味もなく視線を左右に動かして周囲を窺う。……もう何もできることはない。ここに入ってきた時のシャットダウンと同様に、しばらくすれば回復するだろうと楽観的に考えるしかなかった。
エンデを抱えて立ち上がる。髪が長いままなのと、よく見れば足に広がっていたヒビや黒い浸食のような何かが消えているのが気になった。都市の魔法で体を修復することもここに来た目的だったのだろうか。
俺が動くわずかな衝撃がさらなる崩壊を起こすのではないかと、天井や塞がれがちな通路を警戒しつつ上層に向かった。聖域の外に出られる経路を確認してから、中に残してきたものを思い出して戻った。
ルキと別れた上層の部屋に戻ってみる。扉越しに話し声が聞こえることはもうなかった。エンデを一旦降ろして、扉に向き直る。意を決して押すと、崩れはすれどもこの都市の白い建築材料は朽ちていないようで、扉はあまりにもすんなりと開いた。灯りのない聖域は青く、暗く、数時間前よりもずっと静かで、冷えていた。
部屋の中を見回すと壁際にルキが項垂れて座っているのを見つけた。顔をあげて悪戯っぽく笑ってくれるのではないかとほんのわずかに期待した。そんなことは起こらない。
軽く揺すってもなんの反応もない。冷たい体が傾いたのを支える。良い夢を見ているように、微笑んでいた。体は残ったようだ。これで良かっただろうかと、自問自答する。答えが出ないので、きっとご主人と呼ばれる人物がルキを探しているはずだ、と別の懸念事項のことを考えることにした。他に何か彼女の痕跡がないか探す。
ルキの体を持ち上げたその時、カツンと固い物が落ちたような、くぐもった音が聞こえた。しかし、足元には何もなく、ルキから落ちたわけではなさそうだった。振り返ると、先ほどまでは何も落ちていなかったはずの床に、鈍い金色の冠に似た何かが落ちている。静かに存在を主張しているそれには見覚えがあった。あの少女の角だ。1つしか落ちていない。片割れはどこに行ってしまったのだろうとあたりを見ても何もない。心のどこかに、もう1つが見つかることはないだろうと事実めいて見える直感が首をもたげた。
どうすべきか判断しかねたが、なんとなく「連れていけ」と言われているような気がして、それを信じることにした。
監視官は別の部屋の隅で怯えていた。混乱していたが正気ではあったので、エンデを預けて、俺はルキを抱えて聖域を出ることにした。監視官は、酷く魔法を浴びたことによる酔いの症状もマシになったようで、この都市を出られるだろうという俺の説明に心底安堵し段々口数が増えて行った。
出口が近づくにつれて、冬に戻ってきたと痛感した。耳に痛い静けさも、寒さも、人がいなくなったことだけが原因ではなかったのだ。
外は白い屋内に比べて空が広く暗かった。指先が悴むほど空気が冷えていて、よく晴れているから高くに星が見えた。吐いた息が白く視界に広がった。ルキも、エンデも息をしていないし、暖かくもなかった。
そんなことに気を取られていて、聖域と街を繋ぐ橋に黒髪の男が立っているのに気が付くのが少し遅れた。暗くて詳細まではわからないが、橋の中腹にいるのは無骨で愛想のない、暗い雰囲気の男に見えた。特徴の一致する知り合いは思い出せなかった。
「クレフ・レインハイムだな。」
困惑していると、男が口を開いた。声も聞いたことがない。やはり知り合いではないだろう。黒髪に赤い目で、背が高く体格も良い。恰好もそれなりにきちんとしている。警戒すべき人物なのは立ち方からして明らか。男が鞘から見覚えのある白い剣を抜いた。機関の人間か。だが、機関の人間はよほど武器に窮していなければあの鈍らを抜かない。鞘は正規のものではない、盗品か。だが、俺が誰なのか知っているのなら、盟約の剣の権威が脅しにならないこともわかる筈だ。
得体がしれない。
「……」
監視官に離れておくように手で合図を送った。
「22歳。勇者部門最高執政官ゲールクリフの直属部下。19年前にレインハイム領を魔法兵器の襲撃によって両親とともに失い、機関に一時保護される。その際、当時10歳の兄が技研の研究員に才能を買われたことを足掛かりに、ヴェルギリア在住の叔母を頼って兄とともに移住。」
男が剣を抜いたまま唐突に語りだした。一体何を言っているのかと首を傾げたが、反芻してからようやく俺の来歴だと気が付いた。
「あんたのことはよく知っている。ヴェルギリアでの交友関係が比較的狭いことも、本名を名乗ったり、身分を明かしたりするのを嫌っていることも。それから、今はいないようだが、あんたが最近連れていた女の名前はカイエゲルダで、アシュハイムの元舞台女優だというのもわかっている。公表されていないが、彼女が政変で滅びたアシュハイム王家の遺子なのは明らかだ。」
男は滔々と続けた。俺のプロフィールなんかその辺に落ちているだろうが、カイエはそうじゃない。単なる俺のストーカーではなさそうだ。
「……あんたが『ご主人』か」
ほかに事情通に心当たりがない。
「ルキをどうした。」
俺の言葉を聞いて、こちらがルキの事情に関与していると確信したのだろう。男の語気が強まった。俺が抱えているルキには目もくれず、俺を睨みつけている。ルキがどういう状態なのかわかっているに違いなかった。
「いや。いい。……殺す。」
男が剣を構えて姿勢を低くした。相手は説明を求めていない。やり場のない感情の爆発にルキを巻き込まないように男を視界におさめたまま、ゆっくり動いて彼女の体を端に置く。
「――!」
が、俺の配慮に構わず、ルキを抱えたままの俺に切りかかってきた。咄嗟に振りかぶった剣が直撃を逸らしたが、さらに死角から剣がまっすぐ伸びてきて、視界にとらえたときには切っ先が右頬をかすめていた。鋭い痛みが走って、頬を伝う血がやけにゆっくりと、熱く感じた。
まずい、強いぞ。こいつ。
「ちょっと待て、あんたは!……何故ここにいる?監視官たちが何年も骨を折って、結局隠蔽した……」
監視官が何やら驚いているが、構っている余裕がない。ただでさえ足場が怖い。崩落の可能性は低そうだが、そもそも狭い橋は戦闘用には作られていない。白い切っ先が滑らかに尾を引いて、男の懐に滑り込んだ俺の頭上を横に薙ぎ払った。僅かの差で頭に当たらなかった剣がそのまま切り返される。
「……ッチ。」
振り下ろされるより先に、無理やり体を捻って短剣を足首めがけて振りぬいた。が、距離を置かれて当たらなかった。機関にいれば確実に一級上位だ。正直フェルミと互角くらいだと思う。ので、やらかさなければ勝てる。
慎重になるために事態の整理を試みた。これだけ強いが、俺は見たことがない、つまり今機関には所属していない人間。だが、盟約の剣を持っていて鞘は正規のものではない。
「職権を剥奪されている元勇者か、勇者狩り。」
「8年前、正当な勇者の血筋だとされている人間が突然機関から失踪した。そいつがそれだ!」
俺のつぶやきに反応したのは監視官だった。男はそれにはあまり反応せず、静かに剣を構えなおした。
8年前なら、俺は知らない。まだ職を得る前だし、あまり情報を得られるような環境じゃなかった。
「名前は」
「……」
「知らない!名前の消去された噂の中の人間だ!」
男が答えない代わりに、監視官が叫んだ。勇者の血筋。つまり魔王を倒した者の子孫を自称する家系だ。また、うさん臭いやつが出てきたものだ。俺はもし自分が勇者の血筋でも職業勇者にならないな、とぼんやり考えた。なんか嫌だと思う。むしろ、「勇者」の子孫がいるなら職業「勇者」のほうは名称を傭兵とか、兵士とかに変える配慮をすべきだったのではないだろうか。監視官がエンデを起こそうとしているらしい声掛けが後ろから聞こえる。冷たい風が深刻に頬を刺す。首筋まで伝った血が不快だ。
「東部フロンティア情報屋の……ドンさん。武器を捨てろ。」
ご主人と呼ぶのはなんだか憚られた。言葉に応じる気配はない。一応、彼が本当に離反者ならば規則的に戦って全く問題ない。「機関の敵は人間ではない」ので、最悪殺害してしまっても恐らくお咎めはないだろう。
「……お前は笑っているのだろう?内心に潜む獣を俺は知っている。」
男が囁くように呟いて、間を置かず流星のような刃がまっすぐにこちらに向かってくる。その剣の動きがあまりにも自在で、人間が襲ってきているというよりも、剣が襲ってきているのに近いように思えた。感嘆するとともに見ていると気持ち悪くなりそうだとも思った。
「……お前だけは。……もっと早く、死ぬべきだった」
光よりも直線的なんじゃないかと思える剣が、次の瞬間には弧を描いている。肌で感じるほど殺意を向けられているが、それで攻撃が鈍ることはなさそうだった。挑発する意味はない。あまりにも手馴れている。避けていては連撃に当たる。防ごうにも的確に先手を取ってくる。隙が無いので攻撃に転じるのが難しい。防御のことだけ考えている分、観察している余裕はあった。
何を思って情報屋になったんだろうと、受け流しながら考えた。剣技の精彩さと反して、使っている剣が鈍らなのが幸いか?それでも切られた頬は痛む。まともに喰らったら、鋭い剣より悪いことになるかもしれない。
軌道の滑らかさが、重い衝撃と齟齬を生んでやりづらい。俺の受け流しにほつれが生じてきた。ほんの一瞬、反応が遅れる。それがだんだんと重なって大きな隙になる。
――押し切られる。ふと、そんな直感が頭をよぎった。
余裕をかましすぎていたらしい。速さと正確さで負けている。攻撃は仕掛けられない。ここから持ち直すのは、相手が手を滑らせでもしない限り無理だ。矢継ぎ早な金属音が危機感を煽る。眼前や体すれすれの攻撃に対応するために無理な動きを要求されるのも、次の攻撃への対応の遅れを助長した。
目の前の男も、「押し切れる」と、そう思ったのだろう。相手が強く踏み込んだのを見て後ろに飛び退いた。熱に浮かされた確信は判断の毒だ。
白い星が尾を引いて橋に落ちる。トドメのはずの一撃は、次に備えていない。体勢を崩した男が呻った。今まで一歩も俺が後退しなかったので、やらないと思ったんだろうか。久しぶりに楽しい。
漸く訪れた攻撃の機会だが、何かが近づくなと警鐘を鳴らした。まっすぐこちらを睨んでいる男の、その目が妙だと思った。焦り、怯え、後悔、諦観、様々感情は読み取れたが、どれもわざとらしくて妙だ。濁流の底に悲しいほど重石が沈んでいる。まだ何かある。俺を殺す計略はまだ動いている。
俺が踏み込むふりをして脇に逸れたところで火薬の爆ぜた音がした。警戒していなければ避けられなかった。知っている音だ。以前は違っただろうが、もはや魔法の方が圧倒的に安価で効率が良い。
「……避けたか。化け物め」
速さだけが他に勝る、旧時代の遺産。情報屋が片方の腕に隠して小型の火器の口をこちらに向けていた。ほどなくして、火薬のにおいが漂った。……まだ何か、他に音がする。
「ヒイ!」
後ろで監視官が悲鳴を上げた。振り返ると聖域の壁に埋まった弾丸を中心に魔法が展開していた。そこから稲妻のような何かが昼の空のように閃いて、すぐさま何かがはじけた。雷の跡を追随して連鎖するように小規模の爆発がこちらを追いかけてくる。長い橋だ、爆発の速度はゆっくりだが、退路は断たれた。
「橋を落とすつもりか。あんたも助からないぞ」
「……」
男は返事をせず、剣を構えなおした。空いている右手に魔法が展開された。何が出るかはわからない。
「監視官、走れるか。そいつは死なん。置いていけ」
俺が言うより早く逃げる算段をつけていた監視官は、エンデを心置きなく手放して俺たちの横を全力疾走していった。生き汚くないと監視官にはなれないという噂は本当かもしれない。
再び正面の男を見る。監視官の逃亡は見逃してくれるようだ。
「ルキは、あんたとまだ話したいことがあったと言っていた。」
「だが、去った。」
苛烈な音を立てて、地面から緋色の棘がこちらを串刺しにせんと天を穿った。結晶化した血の棘だ。エルナリンドの魔法……勇者の末裔が?だがそもそも、勇者が例の勇者なら1700年前の人物だ。それの末裔はもうほぼ関係ないだろ。
槍は橋を埋め尽くすように波状に広がっていく。剣を構えたのは俺の接近でこれの発動を邪魔されないようにするためか。背後からの炸裂音も近づいてきている。こういう時、ロナノークが操っていたようなデカい鎌があったら棘を刈り取って楽に正面突破できるんだろうな。
「はあ。」
……いいこと思いついた。大剣を出す。そのまま、俺が回転する、ぶん投げる。大剣は水平に回転しながら飛んでった。血の魔法は当たると持続的に悪影響がある一方、物理的には脆いというのが通例だ。それに漏れず、棘は脆かったようで、回転する大剣に根こそぎ折られて吹っ飛んでいった。一本拝借。触ると痛い。
男は自分が生やした棘でこちら側に何が起きているのかよく見えていなかったらしい。飛んできた大剣に驚いた表情で一瞬動きが止まった。
「俺のことよく知ってるらしいが、甘いんじゃないか?」
プロフィールはよく調べてくれたようだが、あまり戦闘には活かせないのではないだろうか。……あんまり人に武器を投げたことはなかったから、対策していなかったのだろうか。
男が飛んできた大剣を盟約の剣で弾こうとして失敗し、大幅に体勢を崩した。やたら耐久性が高いとは言え、装飾過多の細身の剣では勢いを殺しきれなかったようだ。減速した大剣の柄を俺が捕まえて、そのまま柄先で胃のあたりを殴打し、剣を捨てて、襟元を掴んで押し倒し、血の棘で左の手のひらと右腿に刺した。この人は左利きだ。そして、軸足は多分右。それなりに効くだろう。
本人に血の状態異常は罹らないらしいが、深々と刺さればまあ、痛いだろう。脚は棘が栓になってそれほど出血しなかったが、左手のほうはだんだんと血だまりが広がっていった。男はその後もうめいて暴れたので、痛そうで目を背けつつ、蹴り飛ばした。静かになった。脈はあるので死んではいない。
橋が限界だ。このままでは爆発に巻き込まれてしまう。
俺が放置したルキの体を抱えて、その辺にほったらかされたエンデの……髪を引っ張ったら頭が取れてしまった。頭と胴体別で運ぶのも、くっ付けるものも無理だ。投げとくか。対岸には流石に届かないだろうが……。
「監視官!それ拾っといてくれ!」
叫んでおいた。聞こえているだろうか?
心苦しいがルキの上にエンデを積み重ねて、情報屋を開いている方の腕で拾って走る。俺と背丈が同じくらいの、多分俺より重い男を持って走るのは骨が折れる。寒くて良かった!暑かったら置いて逃げていた。
「おはよう勇者くん。……僕の頭どこやったの?怒るよ」
急に声が響いた。爆発の中でもはっきり聞こえるので、恐らく頭の中に響いているのだろう。頭がなくてもしゃべれるのか……。
「もうちょい早く起きてくれ。」
「僕の足が遅いの、知ってるでしょ。それにしてもよく動けるね。」
エンデが呆れたように笑った。……現状のことを指しているのだろう。
「普段から大剣背負っている。いつもとあまり変わらない。」
重量的には大剣の代わりに情報屋を抱えているようなものだ。このままだと捨ててしまった剣は回収できなくなるが、今はそれに構っている場合ではない。そんなことより情報屋が俺を刺さないかが一番の懸念事項だ。
「気を失ってるみたいだよ。君が頭をもぎ取ってくれたおかげで僕は姿が消せない。そのまま運んでくれよ」
一安心。気を使ってくれたらしいが、今運んでいる中でエンデが一番軽いので、彼が消えてもあまり負担に差はない。
「機関を去って、何故あの剣を下げてるんだろうか。」
答えてくれるかと思って、疑問を口にした。白亜の剣、魔法兵器と不死への対抗手段。ルキに対しても致命的な性能を持っていたはずだ。
「さあね。知らないよ」
と、エンデは興味がなさそうに答えた。
橋を渡りきったところに、監視官がエンデの頭を持ちながら怯えているのが見えた。もうすぐ渡りきる。背後の爆発に何かが崩れる音が加わった。焦らなくても渡る分には十分に余裕がありそうだが、なんだか、色々なことがようやく終わったような気がして、爆発っていいなと思った。
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都市の外に出て、フロンティアの監視拠点に戻った。そこでなら、俺が情報屋に負わせた負傷もある程度治療することが出来る。
監視を振り切った時点で俺が離反扱いになりかけていたらしく、大ごとになるところだったんだと監視官から一通り叱られた。まあそうなってもフェルミが何とかするだろうと思っていたが、実際何とかしてくれているようだった。
拠点の人員がほとんどエウクライドの探索のために出払ってしまったので、人員の不足分を補うことを条件に滞在を許された。あの都市には一日しかいなかったが、とても長く感じた。実際、やや時空が歪んでいたらしく、4、5日ほど経過していた。やたらと寒さが厳しくなっていると思ったのだが、そのせいもあったようだ。
ようやく一息つけたと思ったところで、少し冷静になったらしい情報屋が俺に手紙を渡してきた。監視官が俺を追ってエウクライドに行ってしまったから、彼に渡る筈の手紙が情報屋の手に渡ったらしかった。本当は情報屋も俺に対しては手紙を渡すだけのつもりでいたのだそうだが、なにか複雑な事情か心情であんなことになったらしい。
便箋も署名も不明な人物だったが、やたら読む気の失せる文字で送り主がフェルミであることが分かった。内容は「なにかまずいことになったかもしれない。なんでもいいから早く戻ってこい」と、だけ書かれていた。
いつもなら長々と詳細が書かれているはずなので、可能性の話をしていて、フェルミ自身何が起きているのか把握しきっていないのだろう。そして稚拙な文面から、外部に漏れるべきではない事情なのではないかと深読みして顔を顰めた。日付は一週間前だ。
「放っておいた方が却って良いこともある」と、情報屋が暗い顔をしていた。
今回の章の反省を生かして、次の章は全部完成してから投稿することにしました。
つまり、結構時間がかかるということです。
何の責任も負っていない連載なので、気楽に書きたいものをかけます。うれしいね。




