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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
84/102

20

「ロナ……だね。こっちにおいで」

「……」

 巫女の少女は呼びかけに応じず、瞬きもしない大きな青い目をルキと水門の番人の方に向けていた。

「ロナ、どうしたの」 

 ルキが暗がりの中に立ち尽くす少女に近づく。

 部屋の中に気配は二つあった。感知はできてもそれがどのような姿をしているかまでは肉眼を使わなければ見えないルキには、近づくまでもう一つの気配が一体何なのかわからなかった。暗がりに視界が慣れると、彼女は少女と同じ角を持ち、同じ髪の色をした少女が床に横たわっていることに気が付いた。

「ロナをどうしたの。その姿は何。」

 ルキは小さく右手を宙にかざして、槍には満たない光の棘を出現させた。水門の番人は中の様子は知れなかったが、ルキが左手で離れろ、と合図を送ったのを見て扉を開けたまま少しずつ後ずさりした。助けを呼べないかと室内から視線を逸らした瞬間に、部屋の中から巨大な鎌が飛んできて扉の枠に阻まれて突き刺さった。

「お、おい大丈夫か!?……やべえな」

 一般人の自分が突入しても死体が増えるだけだと水門の番人は顔を引きつらせた。誰に助けを求めるべきか思考がめぐる前に逃げ足が動く。室内のルキから返事がない。

 あれは神官でどうにかなる存在だろうか?番人を追尾するように無機質な白い廊下にけたたましい音を鳴らして矢の雨が降り始めた。それがルキが無事ではない証拠のように思えて番人の焦りを掻き立てた。だが、部屋を離れると雨は止んだ。遠ざけるためのものだったようだ。急に訪れた静寂に腰が抜けそうになるのを何とかこらえて番人はもう一度走り出した。

 対暴力として役に立ちそうなのはヴェルギリアとかいうところから来たらしい男と、ルキじゃない方の魔法兵器か。前者は下層、後者は確か、神官のところに行くといっていた。神官のいる広間の方が近い。そうルートの検討を立てて、番人は進路を中央階段に変更した。

 中央階段は聖域の中心的な機能を担う階にのみ出入口を持っている聖域内側の階段である。外周に近い階段よりも圧倒的に短距離で昇降することができ、神官も移動するならばこちらを使う可能性が高い。仮に彼らの助けを借りるとして、入れ違いになる確率もこちらの方が低い。

 番人は外周の階段で一階層下に降りて、踊り場から再び廊下に飛び出し、中央階段の入り口を探した。水門の管理者には聖域内の流水管理設備に心当たりがあった。その施設の点検のために聖域と中央階段を使ったことがあるからである。

「あたりッ。」

 番人は小さく声に出して設備室を確認し、その横の仰々しい扉をあけ放った。危うく目を回しそうになる螺旋階段が延々と上下に渦を巻いている。かなり下、恐らく5階層以上は下だろう、に神官と話している様子の灰色を見つけて、番人は柵から身を乗り出して叫んだ。

「た、助けてくれ!」

 灰色が気付いて、上を向いた。首をかしげて消えると、次の瞬間には番人の背後にいた。

「落ちそうというわけではあるまい。迷子かなにかかい?」

 灰色の魔法兵器は呑気に声をかけたが、まさか後ろから声をかけられると思っていなかった番人は本当に体を宙に投げそうになった。


_____________


「ポリュデウケスが私を殺した人間の手を取って逃げた。私を騙る姉に気が付かなかった。私を化け物扱いした。だそうだよ、ポリュデウケス、弁解の余地はあるかい?」

「……何もありません。」

「君はとちりすぎだ。それだから出来損ないだのなんだのと言われるんだ。」

「……」

 急にエンデが頭の中に話しかけてきて呼び戻されたので戻ってみたら、ルキがエンデに説教されているところだった。ここには機関と違って昇降機がないらしい。庭を浮かすくらいだったら昇降機を作ってほしいと思った。

 俺と同じように釈然としない顔をして壁にもたれ掛かっている水門の番人に何があったのか聞いてみると、俺が下層に向かった後、内鍵がかかった一室があったのでこじ開けたら巫女の少女が二人いた。そのうち一人がルキに攻撃を仕掛けたので、エンデに助けを求めた。戻ったらルキが号泣していた、らしい。全くわからない。

「まあ、とにかく全員無事だから……良いんだが」

 と、番人は不可解そうに首をかしげている。

 渦中の二人にも話を聞いてみるか、と番人に適当に会釈して、エンデとルキの方に足を向けた。2,3歩進んだところでエンデがこちらに振り返った。

「ああ、人間。階段上りお疲れ様」

「この状況はなんだ。なんでロナノークが二人いる?」

 目で部屋の両端で体育座りをしている二人の少女を示す。一人はこの都市を訪れたときに襲撃してきた方だろうか。

「双子。ロナノークとレナノーク。安直だね。巫女は姉のレナのほう。ルキと友人だったのがロナの方だ。」

「どっちがどっちだ?」

「全然わからん。喋らない方がロナだ。薬で喉を焼かれている。」

 思わず顔を顰めた。12の子供だ。誰がそんなことを。

「どうしてそんなことを?ルキは双子だということを知っていたのか?」

「儀式に盃を使うのは聞いたかい?あれの中身がその薬だ。祈っても届かない様にするためらしい。ルキはロナとしか面識がなかったみたいだね。」

 エンデは双子の方を見ながら淡々と質問に答えた。

「……つまり、ロナがレナと入れ替わって儀式を実行して、レナの方はロナを装ってルキに近づいた。」

「そうだ。双方の合意の上でのなり替わりだったようだが、レナの方が生贄について知らなかったのか、伏せたのかは……まあ」

 エンデは曖昧に濁した。

「あの少女にデカい鎌で襲われた。恨みを買った覚えはない」

 どちらだかわからないと思ったが、俺を睨みつけている方がロナだろう。

「ただの勇者嫌いかも。」

 ルキが膝を抱えたまま口を挟んだ。

「魔法兵器を倒すために勇者がいるって話をしたらロナがだいぶ怒ってしまってね。聖域の剣全部折るとまで言い出したから、多分盟約の剣に見覚えもあるのだろうし……。」

 殺意が、高い……。あれだけの純粋暴力が単純な動機で出来ていると思うと子供というのは恐ろしいなとそんなことを考えていると、エンデが理解に苦しむと言いたげな物凄い形相で俺の方を睨んだ。

「何故少女にあんな力があるのかも問題じゃないのか。入れ替わってたんだとして、その子が下層から出てきているのも妙だし……」

 後ろから歩いてきた水門の番人が会話の輪に加わった。

 番人は俺が下層の扉を開けたことを知らないだろうから、巫女に脱出の機会があったことも知らないのだろう。だが、入れ替わりの件を加味すると、俺の行動は巫女の脱走とは無関係だ。俺が下層の扉を開ける前から、下層で毒盃を飲んだはずのロナが聖域の外にいたのだから。

「ロナは、まだ下層にいるよ。今ここにいるあの子は、抜け殻みたいなものだ。」

 そう言ったのはルキだ。抱えた膝に顔をうずめたまま、体を小さくしている。

 何を言っているのかよくわからなかった。抜け殻と呼ばれたロナは、じっとこちらを青い目で睨みつけていた。


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