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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
83/102

19

 なりふり構わず階段を駆け下りて転げ落ちそうになったルキの腕を引っ張って引き留める。

「落ち着け、子供の足だ。走ったとしてもそれほど速くはない。」

「そう簡単じゃないんだよ、聖域にはいくつも昇降のルートがあって。下層の入り口に先につかないと……」

 下層への入り口は大きな扉一つだった。あれの前を見張る方が堅実ということか。

「だったら俺の方が早い。俺が先に行くから、道中を探しておいてくれ。」

「……わかった。助かるよ」

 そういうとルキは階段にへたり込んで顔を覆った。

「大丈夫だ。何を聞かれていたとしても、あの子はきっとお前のことを嫌いになったりはしないよ」

「……」

 よくわからないが、だからこそ一度話し合う機会を持たせてやるべきだ。

「ともかく、お前も探してくれ。行先は下層以外の可能性もある」

「うん……」

 

 _____________


「色々と聞きたいことがある。巫女は何人だ?」

 エンデュミオンが神官に問いただした。小さいが確かな声が広間に響き渡った。

「一人です。途中で役目が来なければ、10年で別の巫女に引き継ぎますよ。」

 眉を顰めたエンデと対照的に、神官は腰かけたまま超然と答えた。それが魔法兵器の気分を害さないのは、神官にとってはよくわかっていることだった。

「巫女は1人でも、巫女の候補は何人もいるだろう。得られるか不確かな神の加護のために市井から人は集まらない。候補となる者をこの聖域に無知のままどれだけ閉じ込めている?」

「それなりの人数がおり、不自由なく暮らしています。」

「悪趣味だ。」

 神官は少しばかり表情を歪めた。

「……ご存じでしょう、我々は争いを嫌って、武器を捨てました。危機に対して神に頼るほか手立てを持っていません。これを捨てることは我々の成り立ちへの背信なのです。それに、形式を与えなければ、邪な願いから神を遠ざけるのが困難になります。」

 神官はうめくように答え、エンデは感情表現のために深くため息をついてみせた。

「だとしても手立てが生贄である必要はない。……それからあの少女、似た容姿の誰かがいるんじゃないか?」

「何故それを?確かに彼女は双子です。」

「名前はロナノークではない。違うかい?」

「いえ、その通りですが……彼女たちが何か」

 神官は訝しげに首を傾げた。


_____________


 クレフを下層に行かせたため、ルキはもといた階層に戻って部屋を検めようと考えた。もしかしたら隠れて、部屋の中で笑っているかもしれない。彼女はそういうことをする子供だった。見通しの悪い緩やかにカーブした曲線的な廊下がもどかしかった。とにかく、己の早とちりであれば良いのだと言い聞かせて廊下を駆ける。

「ロナ……ロナノーク」

 彼女は譫言のように名前を呼びながら手当たり次第に部屋を引っ掻き回した。使われていない衣装箪笥を開けてのぞき込み、扉の裏を確かめ、もう一度箪笥の中を確かめて中を手で触るほどに冷静ではなかった。そのような行動を3部屋ほど繰り返すと、水門の番人が別の部屋から出てきて、「戻ってきたのか、この階は後残すところそこの部屋だけなんだが、内鍵がかかっていて開かない。神官を呼ぼうと思っていたところだ」と、親指で左手側の扉を指した。

「鍵なんて!」

 ルキが叫んで扉に片手をかざした。扉と同じ色をした白いドアノブがふき飛ぶ。ノブはくぐもった音を鳴らして、水門の番人の足元まで転がった。番人はノブを拾い上げてようやく、目の前にいるのが魔法兵器なのだと実感した。

扉は鍵となる部分をノブと一緒に抉り取られてしまって、空気の流れに逆らわず、ゆっくりと開く。

暗がりに廊下の灯りが射した。番人はかけられた内鍵から中に人がいるものだと思っていたことから、ルキの背中越しに見える室内があまりにも暗いことに漠然と不気味さを覚えた。ルキは構わず部屋の中に入っていった。目はせいぜい照準器として使う程度で、魔力でものを感知する魔法兵器にとって暗さは全く問題にならないのだ。

「ロナ、」

 ルキがそういうと、暗闇の中で何かが動いた。番人が大きく開けた扉から差した光が、鈍い黄金の角をもって、無表情な笑顔を浮かべて立ち尽くす少女を照らした。


 _____________


 私たちは本当によく似ていた。妹は巫女に選ばれなかったことを悔しがっていたから、私たちは頻繁に入れ替わった。

大母も、母も、私たち姉妹の他に多くいる私たちも、みな冠のような角をしていた。私だけでなく、なんの役割も持たない妹も外に出されないのは、多分生まれた胎のせいなのだろう。

 ある日、妹が聖域の外に行くと言い出した。なんでも流れ星が落ちるのを見たのだそうだ。それは昼間だったから見えるはずがなかった。頑なに昼の流れ星を追いたいという彼女を手助けした。

結局妹は流れ星を見つけられなかったようだ。それなのにすごく満足げだったのをよく覚えている。その後から、妹はひとりになりたがった。誰かと会っているようだったが、私には教えてくれなかった。妹が私の持たないものを持っているのは初めてだった。

 そして儀式が必要になり、私の管理は厳重になった。気づいてしまった。妹は私よりも多くのものを持っていると。外から来た友達だけではない。私には途絶する未来も妹にはあるのだ。

もしかしたら母のように外に出る仕事をする日が来るかもしれない。そう思うと、私の役を強請った妹のかわいいわがままが、急に恨めしく思えてきた。

 だから巫女の仕事と、お友達を一日だけ交換することを持ち掛けた。神官たちは私たちの入れ替わりに気が付いていただろう、気が付いていたとしても些細な事だったのだ。約束は交わされた。

妹は死に、私が得る。それは許されていた。

_____________


全然来ねえな。と心の中でつぶやいた。

 下層の大扉は閉じられていた。俺が結構頑張ってやっと開く扉だ。縄を括りつける箇所がいくつもあるので本来は大勢で開閉するものなのだろう。そうなると、少女が勝手に出入りするのはまず無理だ。

 ここから脱出した時、俺は大急ぎでここを閉めた。誰かが再び開けて、少女を招き入れて再び閉じたのでない限り、少女が中にいることはないだろう。ひとまず安心だ。

 俺はとにかく下層に行きたくない。だが、エンデにどうでも良いといってしまった手前、俺の事情で下層に入らないことは出来ない。ただの意地だ。入らないで済むのなら入らない。

 他にどこか行くとしたら聖域の外だろうか、そちらの出入り口は番兵が塞いでいる。どこかに行ってしまう可能性は低いと判断して、もう少しここで隠れて鉢合わせるのを待ち伏せすることにした。


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