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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
82/102

18


「というわけで戻ってきた。」

「お帰り。意外と早かったね。」

 ルキがこちらを見ないで片手をあげて軽く手を振った。俺が戻るまで水門の人と話していたらしい。

「ロナノークちゃんは、あんたと話がしたくてここに戻ってきたらしいから連れてきたぞ。」

「違います!儀式をやり直そうとしただけです!」

 だいぶ俺の事見慣れたらしい少女は結構口をきいてくれるようになった。それでも旧知らしいルキの方が安心するのは当然だろう、駆けていって彼女の後ろに隠れた。エンデはあまり興味がなさそうに部屋から出て行った。神官のところに行くらしい。

「ルキはその子とどういった知り合いなんだ?」

「んー……」

 ルキが微妙な顔をして、それから水門の人が怪訝そうに顔を顰めた。

「巫女は外部との接触を断たれているはずですよ。あなたがその……ポリュデウケスだというのは分りましたけど、それでも例外が認められていいとは思いませんね。」

 水門の人が組んだ腕を降ろしながら不服そうに口を尖らせてルキを見た。室内の雰囲気はそれほど悪くない。事情はあれど、二人は全面的に衝突しているわけではなさそうだ。実際部屋の手前あたりで聞こえていた会話は楽しげだった。

 少し間をおいて、ルキが少女に屈んで目線を合わせた。

「えっとね。ごめん、少し隣の部屋にいてくれる?私怒られないといけないことがあって、恥ずかしいから……」

「うん。わかった。ポリュデウケスをいじめないでね!お友達なの!」

 聞き分けの良い少女だ。それ自体悪いことではないが、どちらかというと指示に疑いなく従うよう教育されているのだろうという印象を受けた。彼女の境遇を考えると少々気が滅入る。扉を開けてやると、駆けて出て行った。

 ゆっくり扉を閉める。音をたてないようにしている時ってなんでこんなデカい音鳴るんだろう。

「この破壊野郎はあんたとも知り合いなんですか?」

 水門の人がルキに問うた。事情の把握のためだろう。……破壊野郎というのは俺だろうか。水門については申し訳なく思っている。

「知り合いだね」

「仲間か?」

 今度は俺に聞いた。

 ルキと顔を見合わせる。

「……いや?違うんじゃないかな。」

 ルキが答えた。概ね同意。目的などを知っているわけではないし、多分エンデの魔法兵器殺害リストに入っているので俺が殺すことになるのではないだろうか。

「じゃあいいか。あんたはこの都市の事情にも詳しくないらしい……ほんとに何者だ?まあいい。この都市を侵略しに来ている魔法兵器がこのポリュデウケスだ。それは良いよな」

「初耳だが」

「じゃあ、そういうことだ。」

 初耳だ……当然か。

「毎回適当に失敗して帰ってたんだ。天のサテライトルクスは私じゃどうしようもないから対立する気もなかったし。」

 立ちっぱなしの俺にルキが座るように示した。色々不審点が浮かんだが、とにかく話の先を聞こう。椅子を引いて座った。

「で、問題はその侵略兵器がうちの巫女様を誑し込んでいたことだ。」

「なるほど。」

 水門の人と俺が同時にルキを見たことで居心地を悪くしたのか、ルキの視線が狼狽えた。

「脱走して帰り方がわからなくなってたのをこっそり送り返しただけなんだ。その時は巫女だなんて知らなかったよ。」

「随分懐きましたね」

 会話からして、ルキは相当頼られているように思える。関係ないことだが、どうやらロナノークちゃんからはルキはイケメンのお兄さんに見えているらしい。頬に手を当ててキャーと言っていた。俺が見ているルキと全然違うので、恐らくルキの本来の姿だろう。今もそう見えているのは不審だが。

「まあ、神官以外で初めて会った存在だからだろうね。」

「本当にそれだけか?」

 俺がそういうと、ルキはムッとした顔をした。

「……いや。何回も会ったよ……。だって、また会おうねっていうんだもの。私だって友達いなかったの。わかる?人間は私のこと出来損ないだの、何だの――あ、ごめん。意外と思い出すと文句って出てくるものだね……」

 ルキが口をもごもごさせている。

「この都市の儀式はどれくらいの頻度で行われる?」

 何となく嫌なことが思い当たって、水門の人にだけ聞こえるように尋ねた。

「頻度はまちまち。周期的なものではない。脅かされたのなら、いつでも提供できるように贄となる少女は育てている。何もなければ巫女として外に出すだけだ。縁起がいいからな。」

 ルキは唇をかんだ。しまった、聞こえているのだった。思い当たって、己を恨んだ。

「言いたいことは分ってるよ。私のせいで生贄が必要になったってことでしょ?……わかってるよ。なのに、あの子に黙っていた。」

 通訳者はルキなのだ。彼女は深くため息を付いた。

神がこの都市を見捨てることを神竜の民が恐れたため必要になった生贄だ。単に魔法兵器を用いず帝国が攻撃をしてきているのであれば必要なかっただろう。

 何か慰めの言葉を、と思ってエンデは自分たちを道具だと言ったのを思い出した。なら起きたことは使用者の責任だ。だが、責任逃れのために言った言葉じゃないだろうから、余計な口は挟まない方がいいようにも思えた。

「あの子を開放してあげたかったんだ。私さえいなければと、そう考えない日はなかったよ。でも私がここを外れるとどうなるかわからないし、外に連れ出して生きていけるほどあの子は強くない。……話してる間、楽しかったんだ。私のこと知らないし、これからのことも知らない。そうしてギリギリまで決断を先延ばしにした。」

 ルキは膝の上で指を組んだ。ふわふわした髪で隠れて表情は窺えなかった。

 巫女も、魔法兵器も処分される予定とともに生まれたものだ。同じような行く末を持つ者を哀れに思うのなら、少なからず己の身の上も不幸だと思っていたのではないだろうか。俺はそれが不憫に思えた。

「巫女についてはわかりました。聞いてしまって申し訳ありません。その、……あんたに悪意があると思ってたわけじゃないんだ。この都市で俺の知らないことが起きているのが気に障っただけで……一市民なんだから、知らないことがあるのは当たり前なのにな。」

 水門の人が困ったように、慎重に言葉を選ぶようにゆっくりとルキに話しかけている。

 ふと、背後で扉が軋む音がした。話していたら気が付かなかっただろう。振り返ってみると、扉が半開きになっている。

「……」

「クレフ、どうしたの?」

 俺は確か扉を閉めたはずだ。静かに閉めようとして大きな音を立てたのが記憶に残っている。

「隣の部屋を確認してくる」

 あまりいい予感はしなかった。


 案の定、神竜の巫女は両隣のどちらの部屋にもいなかった。すぐに追いかけてきたルキは茫然と立ち尽くした。

「行くとしたら?」

「……下層、だと思う。止めないと」

 魂を抜かれたかのようにふらふらと階段に向かって駆けて行ってしまった。

 


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