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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
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「エンデュミオンはどうしようね、下手すると、ここを出るまであのままなんだけどさ。」

「あの少女に危害を加えなければ見逃してくれるんじゃないか?」

 再び神殿の外、地上に向かうため、廊下を進む。神殿の中も白く、改めて考えるとさっきまでいた部屋は窓に木材が使われていて異質だった。先導するルキはうーん、と曖昧な返事をした。

「お前はこの都市に来たことがあるのか?」

 方向感覚にはそれなりに自信があるつもりだったが、神殿の中はずっと同じような内装が続き、今どちらを向いているのかわからなくなってきた。ルキの先導なしに先ほどの部屋にたどり着けると思えない。

「魔法兵器なら必ず来たことがあると思うよ。何しろここが生まれだからね」

「そうなのか。帝国生まれだとばかり」

「あの子はあまり自分のことは話さないものね。私たちはここで作られて、帝国で育った。そんな感じかな。」

 綺麗なところで良いなと言いかけて、なんとなく複雑な事情があるのではないかと勘繰り、口に出すのはやめておいた。

「エンデュミオンが話したがらない話でもしようか。あの子はね、……父さんのお気に入りだったんだ。」

「父さん?」

 ルキは頷いた。

「いつでもエンデュミオンを傍に置いていた。あの子はすべてにおいて一番出来が良くて、特別な寵愛を受けてた。父さんが私たちを裏切った時、あの人はあの子が自分に付くと思っていたみたいだ。」

「裏切った?」

 ルキはよくぞ聞いてくれた、というように鼻を鳴らして続けた。

「神を欺き、私たちの力を掌握しようとした、のだと思う。父さんには賛同者も多くてね。表向きには神の手に依らず人間の力だけで魔王を討つ必要がある、みたいなことを言っていたらしいよ。それが本心かはわからないけどね。神はそれに怒って人間と手を切り、魔王討伐への協力をやめた」

 そういえばエンデも対峙した時に裏切りがあったと言っていた気がする。これのことだろうか。

「私たちはそれを知らず、魔王と対峙した。理由もわからないまま、得られるはずの神の助力が得られず、勇者は殺され、失敗した。だから、魔王は仕方なくみんなで封印することにした。父さんは私たちが抵抗できなくなる、その時を待っていたみたいだ。」

 なんだか随分ひどい話だ。

「結局目論みは潰えたから、父さんがそのあと何をしようとしていたのかまでは分らない。お気に入りの子供が魔法兵器を全員バラバラにして転移させ、手出しできない状態にしちゃったから、父さんものすごく怒ってね。いい気味だったよ」

 いい気味、というには被害者が多すぎると思う。

「待て、バラバラにする必要があったか?転移させるだけで良いように思うんだが」

「バラされているあいだは意識がない。意識がなければ狂わない。もし不測の事態に目が覚めて、狂っても、動けないから被害を出さない。それは私たち皆の結論だよ。でも、エンデュミオンはどういうわけか体が壊れていても意識を保てる。中途半端に起こされた子たちによって私たちが狂うずっと前から眠ることもできず、他の子に意識が流れないように色々押し殺して助けも求めず、動けないから狂っていく誰のことも助けられず、今この瞬間に至るわけ」

 

 人間が再起動さえしなければ、彼らは平穏な眠りの中にいたのではないか。人間の行動は魔法兵器の犠牲を鑑みない酷いものに写っているのではないか。事情を知らず、なおも彼らを利用しようとする俺たちを、彼らを襲い来る悪意だとしか思っていない俺たちを、魔法兵器はどう思っているんだろうか。ふと、全てがどうでもよさそうにしているエンデの顔が思い浮かんだ。答えを確かめる気にはなれなかった。

随分ひどい話だった。そういえば、これだけ苦痛を味わって、耐えてあれが得られる成果は死なのか。その後に続く世界は享受できない俺に殺せと懇願するのは、むしろ苦痛から逃げたいだけなのか?結構、あんまりじゃないか?

「君ですらそういう顔をするか。だから話したがらないんだと思う」

「ルキも封印の一部なのか?」

 先を行くルキの動きが一瞬止まった。

「私はねえ。違う。弱すぎて魔王討伐にも連れて行ってもらえなかった。存在意義を否定されたに等しいんだ。当時はすごく自分も、他のみんなも、一番すごいエンデュミオンも呪うほど……嫌いでね」

 階段を上りながらルキは語った。さっきの話も現場にいたみんなが見たものを喋っているだけで、自分で見たわけじゃないんだ、と。笑いながら語る。

「あの子は私を置いていくとき、君は切り札だから来ちゃいけないって言ったんだ。ひどい誤魔化しだと思った。でも皆が砕けて、一人ぼっちになったと分って、ひどい采配に気づいた。私には別の役があったんだよ。まあ、今ここにいる理由とは関係ないけどね。」

 とルキは後ろを向いた。俺を見ているのではない、視線の先はもっと後ろだ。

「あの、どうした?」

 何かが舐るようにこちらを見ている気がする。ルキは変わらず俺の後ろを見ている。

「来たんだよ。理由が。きみ、絶対に後ろを振り返ってはいけないよ。」

「……何故?」

 ひた、ひた。

背後を、足音にしては弱く、か弱い肉を叩きつけるような音がした。ペタペタ。音は、二対の移動手段を持っていることを示していた。

 ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。

 2対ではない。もっと多い。それは、何十にも、何百にも、絶え間なく、続いた。音の間隔は狭まっていく。心臓が痛い、今立っている場所が唐突に支えを失ったような不安が襲う。背筋が凍った。竦む足が、少し早く前に出た。

「精神を吹っ飛ばされるから。」

 俺の後ろに、何がいる?

「……走るよ!」

 ルキがそういって、走りだした。音はそれにつられたように、先ほどとは比較にならない音を立てて、こちらに向かってきた。

ぺたぺたぺたぺたぺたが、びたびたびたびた!になった。……擬音語で表現するならこうだ。

「き、聞いてない!聞いてないぞ!やめてくれ!」

 肉が這うみたいな音が後ろから聞こえる。音はまっすぐこっちに向かってきている!

「おや、こういうの苦手なの?意外。見えてないんだからそんなに怖くないだろうよ」

「そういう問題じゃない!……なお悪い!」

 人ではない何かに追いかけられるのは常だ。だが、視界におさめて冷静に刺せば皆死ぬ。これは違うらしい。

「あはは、声が裏返ってるよ」


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