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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
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 さて、再生能力や魔法にも様々種類がある。例えば、時間に干渉するもの、例えば生命力を活性化するものなど。他にも、自発的な回復に頼らない修復的なもの、認識を阻害して一時的に怪我を無視するもの、怪我を別の何かに肩代わりさせるもの。色々見たことはある。

 引きちぎれた腕が消えたのだから再生の方向性ではない。再生であるならばちぎれた腕が残存するかは関係ない。他、判断材料は都市そのものが傷を修復する点だろうか。靴には毒沼の落としきれなかった汚れが残っている。そして俺がなまじ不健康なせいで治りきってない首の傷。外にいた時点でついた傷などは戻らない。

総合して考えると、今起きているのは「原状回復」という言葉で言い表すのが簡単だろうか。

 それがわかったとて、というのはさておき。俺まで回復することを鑑みるに、「原状回復」は少女の意思によるものではない。回復させているものは何だろうか。自動的に発動する魔法の類か、あるいはどこかで見ている誰かでもいるのか。

 頭まで狙われるようになって、鎌の動きが立体的になった。長引けばさすがに避けきれない瞬間も出てくるだろう。

 原状回復が正しい解釈である場合、この都市に生きる人間は老いるのだろうか。そんな疑問がわいた。長く滞在する予定もない、確かめる術はあるだろうか。真上から降ってきた鎌を跳んで避けて、掴んで追撃を弾いて。この戦いはいつまで続くのだろうか。

 これほど絶え間なく攻撃を続けられるという点からして魔力の減少も復元されるのではないのではないか?補強する根拠として俺が疲れていないことを挙げよう。少女は何を急いているのだろうか。

……冗長だ。高みの見物で場に下りてこない相手が一番嫌いなんだ。面白くない。殺そうとしてきているのだし、別に殺してもいいだろう。あまりにも気に食わず、面倒になって全身が冷えている。事情はよく分からんけれども、相手の真似をするのが人間という存在なのでは?

まあ、いい。なんでも。殺すだけだ。

 

 ――――――――――――


 投擲には結構自信があるもので、俺の間合いは意外と広いかもしれない。剣を投げて命中した。それだけ。

それで、起き上がりそうになるたび絶命させている。原状回復の威力は命にも及ぶようだ。その間に鎌だの矢だのが飛んでこないのでやるのは簡単だが、この後どうしたらいいだろうか。

 ……軽はずみだ。攻撃してくる得体のしれない相手とはいえ、魔法の効力で命が戻るとわかっていない時点で外見10歳程度の少女をムキになって殺害。少女が生きていて良かったと首を絞めながら思う。もうどれくらいの時間そうしていたのかわからなくなってきた。

 いつもこうだ。暴力という手段に甘んじて思考を放棄する。化け物。付きまとったその評価は正しいだろう。何より悪いのは払拭する気がないことではないか。だが、これを選ぶか死ぬ他に、どうすればいいのだ。

「その薄汚い手を放せ。」

「エンデ?起きたのか」

 その声は、確かに聞き覚えのあるエンデのものだった。訛りのようなものだと思っていた発音の違和感は、伝わらない言語を直接対話者の意識を改竄して理解させる調整の過程によって発生するものだと教えてもらった。

「その手を放せ。三度目はない。」

 だが、と口答えするために彼の方を見て初めて何かがおかしいことに気が付いた。

 静かだが明確に敵意に満ちた視線を送り、光輪と魔法を展開しているのはいい。それに伴って質量すらあるのではないかと錯覚する威圧感がこちらに吹き荒れてくるのもいいとして。

「……その髪」

 逆巻く重圧の中心で、魔法によって長い髪がなびいている。知らないエンデだ。伏せられた目がこちらを見据え、細い手指が合図のようにこちらに向けられた。

「ちょ、ちょっと待て。やめろ、エンデュミオン!」

 遠くからルキの大声が聞こえた。俺がこの少女と対峙している間に防壁を超えたのだろうか。入ってこられたということは、この少女がサテライトルクスを発動していた魔法の主か?

「――ポリュデウケス」

 エンデはこちらに魔法を向けたまま静かにルキの本名を口にした。

「エンデュミオン、何のつもりだい」

「こちらのセリフだ。それに、好んで愚劣な肉の身を得ようとは。そうまでして我らの名を穢すか」

 あまり聞いたことのない口調で吐き捨てるようにエンデが言った。差別的な奴がだんだん増えていく……。

「クレフ、ごめん。たぶん見ての通りすごく面倒なことになった。説明は後だよ。いったん逃げようか」

 ルキが言い終わるより先に、エンデの放った魔法が俺の頬をかすめ、すぐ横の壁が抉れた。危うく顔の半分を持っていかれるところだった。魔法はまだ大量に展開している。発動まで一刻の猶予もないだろう。

 緑髪の少女を一瞥し、起き上がらないことを確認しルキのもとに走った。

「俺とお前で逃げ切れるのか?」

「あまり追っては来まい。舐められてるからね!」

 と言ってルキは俺の腕をつかんで先導した。振り返って攻撃が来ないか確認した。無表情に俺のことを視線で追うエンデがいつもの様子と似つかず混乱する。角を曲がり、直線の道に出てもルキの言葉通り追ってくることも追撃が来ることもなかった。

 ただし、空には監視するように目を思わせる模様の魔法がいくつか展開され、俺たちを追尾してきていた。ルキにはそれが何かの判別がつかないらしく、逃げ場所に心当たりがあると言ってそのまま神殿の方にまっすぐ足を止めることはなかった。


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