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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エウクライド
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 困ったことに、エウクライドが滅びたのは大体帝国が滅びたのと同時期かちょっと早いくらいで、つまり大体1700年以上は前だ。神竜の民が記述に残っているのは帝国との交流があったからだが、その帝国も何でか知らんが衰退期にはエウクライドとの国交が断絶している。そしてエウクライドは現在に至るまで外部との交流がない。

 何が言いたいかというと、全く言葉が通じないのである。聞いている感じ、体系からして違う。身振り手振りもあまり伝わっていないような気がする……というか神竜の方々はどうも、ものすごく排他的だ。根本差別レベルの無視されている感じが否めない。「気高い」とはなるほどこういうことか、と。

 あんまり覚えてないが、昔のフェルミはこんな感じだった気がする。通り過ぎた後にわざわざ振り返って、嘲笑するようにこちらを見ながらコソコソと話しだす。あまりいい気分にはならない。

そして、フェルミに似ているのだとして、ガキの頃のあいつで懐柔に年単位かかるんだから、この都市の人々とまともな接触は諦めたほうがいいのかもしれないと、半ばあきらめたような気持になってきた。

 事情を知っていそうな頼みの綱のエンデは寝ている。機械が壊れたとき、まずは全ての動作を停止して、それから再度動かしてみるのが良いと技研にいる兄がよく言う。顰に倣ってエンデの胴体から腕やら足やら頭やらを付けたり外したりした(案外簡単に外れる。指とかも外れてどっか行きそうで怖い)。方法が正しくないのかもしれないが、起きる気配はなかった。エンデの発言からして、寝ているのはおそらく魔法の影響なのだろう。術者を探して始末するのが手っ取り早いのかもしれない。抱えて運ぶのが面倒で、バラして鞄に入れることも考えたが、瞼が閉じたままの精巧で美しい人形のような顔を見ているとどうにも、作品は丁重に扱うべきだという意識が湧く。粗末に扱うのは憚られた。梱包材でも持っていればよかった。

 頼みの綱2本目のルキは防壁の外だ。彼女が防壁の中に入ってエンデと同じように寝たらどん詰まりだが、やれることはやってみるほかない。魔法防壁やサテライトルクスを発動させている何か、あるいは何者かを探すことにした。

 無策ではない。そう、俺には先ほど言及した兄の作品である完成版スカウターEX-1があるのだ。探知魔法を全然探知してくれなかったため、エントでぶっ壊れた処分品の方がまだ完成度が高かったという説が俺の中でまことしやかにささやかれている完成版スカウターEX-1があるのだ。

 なんだこのゴミは。

 スカウター越しの視界はかつてのポンコツよりも明瞭であり、情報の表示方法も洗練されている。ただ、エンデが魔法兵器であることしか表示されていないから、という理由で、洗練されている。しかも喋らない。これはダメだ……。失って初めてあの長年連れ添ったガラクタの価値が身に染みる。調節ねじだか、チューナーだかそんな名前の突起を捻って再度覗くがザリザリと砂嵐のようになって何も検知しなくなってしまった。おまけに耳鳴りまでしてきた。何を思ってこれを完成品としたんだ。兄貴め、また備品を盗んで勝手に作ったゴミをひっそり処分するため渡してきたらしい。

「――!」

 悪態を遮ったのは俺の上着の裾を掴んだ何者かだった。誰かが近づいてくる気配はしていたが、足音は小さいものだったし敵意もなさそうであったため放置していた。まさか接触してくると思わず、驚いた。

 スカウターを外すと、そこにいたのは若草色の髪の幼い少女だった。10歳かそこらの愛らしい印象の顔立ちで、大きな深い青の目がこちらを見ている。特筆すべき点があるとすれば、他の神竜よりも角が派手だろうか。鈍い金色の角は両の耳のあたりから生えて後頭部に伸び、額の方に戻るように生えている。例えるならば冠に近いだろう。白い都市と相まって神性に見える。

「……迷子か?」

 伝わるとも思っていないが一応口に出してみた。少女は頷くでも首をかしげるでもなく俺を見ている。しばらく無反応が続いたのち、俺が抱えているエンデに視線をやって、彼の項垂れている頭を愛おしそうに撫でた。跳ね散らかしている灰色の髪が少し落ち着いた。ひとしきり撫でた後、満足したのか少女は手を離した。

 少女の奇行に茫然としていると、少女が再びこちらを見て笑ってどこかに走っていった。革で出来ただろうサンダルをヒタヒタと鳴らして、建物の影に隠れた。手招きされている?

 よくわからないが、行く当てがないのだからついて行ってみるかと決心して一歩進んだところ、少女は路地の方へ姿を消した。あの革サンダル……この都市に入るまでの周辺でまともな生き物は見かけなかった。この都市の中に動物の飼育所でもあるのだろうか。まさか途中で討伐した毒沼によって変異したとしか考えようのない謎の馬鹿デカい両生類は素材にはならないだろう。

 追いかけっこは好きではないが、余分なことを考えていても俺の歩幅なら歩いて追いつけるだろう。路地の陰りに入った。少女は少し進んだところにいる。民族衣装なのだろうか、神竜たちは皆ゆったりしたズボンに首から垂れ下がった前掛けのような上衣を着ている。背中がかなり露出した格好だ。照り返しが激しいからだろうか、これから冬だというのにやけに薄着だと思った。

 違和感のあることに実際温暖で、上着は全く必要ない気温だ。海も、山も近くにはないからそれほど特殊な地形でもあるまい、なぜこんなに暖かいのだろうか。湿度が高いわけでもない。理想的な地域だなと、そんなことを思いながらひと際狭くなった細い路地を体を壁に這わせながら進む。かろうじて正面を左目が捕え、

 目の前に身長よりも大きな弓に光の矢をつがえた、先ほど少女がいることに気が付き、次の瞬間には放たれたその光が目前に迫っていた。



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