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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央2
64/102

情報屋

 ルキが逃げ込んだのは神殿じみた建築物の中だった。彼女は構造に心当たりがあるのか、迷わずに進む。そしてたどり着いたのは幾つもの階段を降り、迷路じみた廊下を通り抜けてたどり着いた、閂の壊れたおんぼろの扉の部屋だった。

「結構移動したけども、現状について何が起きたか、整理はできたかな?」

 ルキが壊れた扉にもたれ掛かるようにへなへなと座りこんだ。部屋の中は扉から想像されるものよりははるかに清潔だが、何か調度品がおかれているわけでもなく、何の部屋なのかはいまいち掴むことが出来なかった。閉ざされた大きな窓がある。

「そうだな。エンデの様子がおかしいこと、サテライトルクスの動作が止まったことくらいは」

「あんまり整理できてなさそうだね。そ。外の魔法は止まった。だから私も入ってこれた。まさかこんなに早く入れるとは思わなかったよ。」

 俺もまさか目的物が自らやってくるとは思っていなかったが。僥倖だ。特にルキも止めないため、木でできた窓を開ける。神殿の下層階は都市の中央に開いた大穴の中にある。外を見ると、穴の壁がくり抜かれており、そこには地下都市のようなものが広がっていた。魔法だろう明かりに照らされた薄暗い白の地下都市。

「エンデは。何だろうな洗脳でもされてるのか?いつものあいつだったら警告とかせず魔法をぶっ放してヘラヘラしている。」

 なんだかいつもより良心的だった。

「……私はここの外であの子を見たときに丸くなったなと思ってたんだけど。そうじゃないみたいだね」

 ――丸くなった?不穏すぎる。つまりトゲトゲしていた時期があるということになる。そしてさっきのエンデはなんだかトゲトゲしていた。

「まさか、都市の原状復帰効果で昔の性格になってるとか」

「原状復帰か、変な表現をする。性格についてはご明察。それにしてもあの子、私たちの中でも一番強いのだから安定していてほしいものなのだけど。かわいそうに長く封印の依り代になってたせいで、精神壊れちゃったから……」

「魔法使いの癖に、魔法に耐性ないのはそのせいか?」

「もうちょっと複雑だけど、概ねそうかな。魔法の効果を強く受けすぎてしまうみたいだ。私もこの都市の影響は受けてるし、あの子がああなるのも納得する程度には自分の変化を感じるけど、自我は保てているよ。」

 クレフほどじゃないけど、私も魔法の感度が低いからね。とルキは付け加えた。

 窓の外は地上とはまた異なる雰囲気だが、それでも活気のある都市だという評価に変わりはない。

「この都市は何なんだ。何が起きている?……エウクライドは滅びたはずじゃないのか。」

「さあね。悪いけど、私じゃ魔法についてはわからないよ。確かにエウクライドは滅びたと伝わっている。でも今ここにこの都市がある。わかるのはそれだけ!」

 つまり俺と同じく何もわかってないということだ。俺の独り言じみたつぶやきを拾って、ルキはからかうように笑った。

「言った通り、私は出来損ない。最弱なんだ。」

 魔法兵器にも色々あるみたいだ。興味がないわけじゃないが、深堀りしようにも振り返って見えたルキの表情からは聞いてくれるなという雰囲気が漂っている。

「なんだ」

 彼女の薄茶色の目がこちらを凝視している。

「君はエンデュミオンからの祝福に耐えているようだね。選ばれた人間というわけか。」

 ……祝福?俺は魔法を使えるようになっていないが。急に使えるようになったものといえば、死んだときに見るあの夢くらい、……あれか!あれ祝福なのか?!ありがたいが、ほぼ呪いみたいな……なるほど。あれエンデのせいなのか。

「あの子の祝福、めちゃくちゃ重いでしょ。見た感じ慣らしもしないで、急いでたみたいだけど。よく耐えたね」

 慣らしとかあるんだ、というか、そういうの見て分かるのか。最初に死を回避した時にエンデ自身が驚いていたから、あの夢が発動したきっかけにあいつはあまり関係ないと思っていた。ご婦人に殺される寸前、一か八かで発動したものだったりするのだろうか。だとしたら自分の知らない自分が授けた祝福だということになって驚くのもわからないではない。なら、エンデは命の恩人ということになるのか……。あんまり悪用しない方がいいかもしれない。

「呪いになるどころか、下手すると死んじゃうんだ、祝福って。私は怖くてやる気にならないね。相手が大事ならなおさら。あの子もそんなこと言ってた気がするけど。」

 ルキの語調が弱くなった。誰か祝福しようと思った相手がいるのだろうか。そういえば中央で会った時にご主人という人物に言及していた気がする。それは誰なんだろうか。この都市にはいないだろう。

「ルキ、今後どうするか考えたい。俺がこの都市に来たのはエンデに盗られた手足の感覚を返してもらうためで、ここで何をすればいいのかなどは見当がついていないんだ。古の怒りに見えろとは言われたが、それが何なのかも全くわからん。」

「……うーん。フフ。一緒に行動するかい?通訳くらいしかできないけどね。」

 そういってルキはいたずらっぽく笑った。そして耐えきれなくなったようにその顔を泣きそうに歪めた。

「ごめん。本当は全部わかってるんだ、でも、もう少しだけ時間が欲しい。こんなに生きて、まだ死にたくないみたい。だから、ほんの少しだけ。君が飽きたら全部説明するよ。……お願い。」

 そういうと俯いて黙り込んでしまった彼女を見て、魔法兵器というもののあり方がかわいそうに思えた。

 人間よりもはるかに強い、人間の道具であると名乗る存在。人を祝福し、力を与えるが、魔王がいなくなれば用済み。壊れながら人のためにと語る。嘘が付けない。ひどい運命だ。

「一緒に行こう。俺も情報屋をやってみたかったんだ。都市に潜む謎を解き明かす情報屋なんて楽しそうだからな。君は今回の仕事の上では上司か、よろしく頼むよ」

 彼女と俺で真実を暴くロールプレイをしよう。その間はもしかしたら魔法兵器ではなく、ルキとしての時間になるかもしれない。こんなの、慰めにはならないだろうが。

「あ、え?……あ。フフ。着いてきたまえよ!クレフくん、情報屋のお仕事体験を楽しませてあげよう!」

 そういうと、ルキは腰に手を当てて自信ありげに笑った。

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