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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央2
60/102

椅子

 街に来ていたエント征服戦争の英雄に憧れた。高値で売れると笑って、彼はよくわからない分厚い本に何か書いて渡してくれた。売り飛ばして、金を得て、その金で頼み込んで教会に下働きとして身を置いてもらうことができた。教会には学者がたくさん出入りしていた。殴られ蹴られしながら、奴らの書き損じを拾って文字を勉強した。彼の活躍を書き記した本が読めるようになりたかった。文字が読めるようになった頃、俺が売った本には彼のサインがされていたのだとわかった。

 ゲールクリフに認められる人間になりたかった。彼と同じ勇者になろうと思った。名前も持たない自分は勇者にはなれないのだと知った。

 泥を啜って、進んだ。善人に見えるように努力した。ゲールクリフは平民出身だと知った。彼の隣には、同じく平民出身のローレンツがいた。彼らは、俺の希望だった。

 俺は運がよかった。その当時、聖職売買なんてのが横行していた。俺は身分を買った。ラハシュという苗字を得た。名前も自分で決めた。

 テネブリーズ・ラハシュ。それが俺の新しい名前だ。

 教会に身を置いて、少しでも金を得るために、金にならない人助けなんかをしていたら、勇者より勇者らしいなんて言われるようになっていた。誰も俺が機関に入ることを望んではいなかった。貴族の放蕩息子から勇者の認定試験の問題を不正に買って、それで必死に勉強した。

 俺が機関の試験に合格したと知って、周囲の人間は俺を中傷した。結局は金や地位が大事かと、俺を笑った。

 勇者になった。ゲールクリフに会うことは到底できなかった。彼の演説を聞くのだって、仕事があって難しかった。がむしゃらに手柄を立てていれば、いつか届くと信じて、死地に身を置いた。どんな困難な依頼もこなしてみせた。俺はその時まだ20も半で若手の括りだったが、幼稚舎なんてところから上がってくる血統に無駄な対抗心を燃やした。誰よりも、勇者らしく。姿勢を正して、人に寄り添い、努力もしないで嘆く声に、耳を傾けた。

 いつだか、闘技場なんて建物ができた。そこはゲールクリフが俺に本をくれた広場に場所が近かったように思う。階級検査が始まった。初めて開かれた検査で、一級の首位に立った。

 表彰があった。ゲールクリフが、本は役に立ったかと聞いた。夢のような瞬間だった。物語の主人公にでもなったような気分だった。少し時間が経って、俺が不動の、最強の座を維持している時期に、次の検査で闘技場の主席と、次席がゲールクリフの直属の部下になるという決定がなされたんだと聞いた。誰もが、俺のために用意されたものだなと言って笑っていた。同時期、幼稚舎に化け物がいる、次の試合に出るらしいという噂が流れていた。負けようもないという自信の一方で、途方もない不安が心を支配した。未知の、顔も知らない少年に殺意を向けて、呪った。ただ、部下の座は二席あるということが俺の心の支えになった。

 それで天罰でも下ったんだろうか。

 俺は、幼稚舎上がりの何も考えていなさそうな金髪に負け、そいつはあっけなく狂気的な茶髪の少年に負けた。

 化け物は二人いたのだ。席は、はなから彼らのものだった。上層が、手に負えない彼らを厄介払いするための席だと後から知った。

 祝福の視線は、見てはならないものを憐れむようにそらされた。

 

 ――――――――


「それじゃあ、首尾よく頼むぜ」

「ええ、あなたのご協力に感謝いたします。ラハシュ。これで、勇者部門はおしまいです。」

 政治部門がどういうわけか隠し持っていた、魔法兵器の模造品を出すことになった。それから、なんだか知らんが執行部隊という暗殺集団も出てきた。俺はそれの指揮官というわけだ。

 やることの大まかな内容はこうだ。まあ、作戦と呼ぶかも微妙な手だが、まず適当な勇者を殺し、その現場にクレフを呼び出す。そして、魔法兵器プローディトーレもどきを使って奴を始末する。だめだったら執行部隊を出す。勇者狩りはレインハイムが狂気に落ちたということで片づけられ、俺が奴にとどめを刺したことにする。まあ無傷じゃ怪しいんで俺も腹でも刺して被害面する予定だ。木っ端は彼を昨今の勇者狩りすべての犯人ということにしたかったらしいが、それは物理的に不可能であるため却下した。魔法兵器もどきについてはターゲット機能と動作に時間の制限があるとテスト済みだ。恐ろしいものを隠し持っていたものだ。政治部門の明かしてはいけない切り札が手元に回ってきた。上々か。

 フェルミドールの方については、木っ端が対応するらしい。なんでも、クレフがエントから連れ帰ってきた捕虜の尋問を行ったのは彼だったそうで、その捕虜……オルストネストだとかいうやつは動力プールに落ちて死んでいる。聞いた話だとフェルミドールは関係なく、精神汚染でプールに落ちるよう仕向けたらしい。今朝だかに4回も鐘が鳴ってあわただしかったのはそれだったというわけだ。フェルミドールが精神を病ませて死に追いやったと情報屋にリークを流す。死人に口なし、と木っ端は言った。笑いがこみあげる。

 勇者狩りは、金に目がくらんだ勇者の仕業、クレフ・レインハイムはそれに乗じて勇者を狩ろうと試みる狂人、フェルミドール・アレルシュタルトは相方の暴走を止められず、さらには捕虜の扱いに関する規定に違反した犯罪者ということになる。

 政治部門は、役に立たない勇者狩り部隊の代わりに、自分たちが独自調査で勇者狩りに参加した勇者を暴いたという手柄を用意するらしかった。それはまあ、どうでもいい。

 

 地面に転がっているアルバルトを見ても、奴は顔色ひとつ変えなかった。

「こういうわけだ。クレフ・レインハイム。死んでくれ」

 のこのこやってきたクレフを暗殺部隊の数十名が取り囲んだ。俺の後ろには魔法兵器が控えている。

「あ、僕人質になるんだ。」

 人払いは済んでいる。予定外に灰色の髪の、……たぶん少年、が巻き込まれてしまったが、大した問題ではない。少年は暗殺者に簡単に拘束された。

「それは、なんだ。魔法兵器か」

 レインハイムが口を開いた。怒りでも、悲しみでもない純粋な疑問を述べたといった様子だ。

「なんでもいいだろうよ。フィリウス、クレフ・レインハイムを殺せ」

 フィリウス、それがこの兵器の名前だ。

 ……。魔法兵器もどきはうんともすんとも言わない。おい、肝心な時に壊れたか?ロックは解除した。2回確認したし、命令の手順も問題ないはずだが。

「……動かないな。」

「あ~動かないな。なんでだ。」

 気まずい沈黙があたりを支配した。それを破るように口を開いたのは灰色の少年だった。

「その正気を疑う悪趣味なガラクタ、動くのかい?あ。ごめん僕の魔力に反応してるな。僕が主導権取ってるよ、これ。……ちょっと待ってね、命令は勇者くんを殺すであってるかな?」

 フィリウスの目のようなパーツが光った。……うんざりするようなことが多すぎる。

「茶番は終わりだ、クレフ・レインハイム。死んでくれるかい?」

 と、灰色の少年が言った。それはお前のセリフじゃないぞ。

 眩暈がするような量の魔力が放出された。暗殺部隊が一斉に引き下がった。俺も撤退する。

 時を待たず、紫の光が閃いた。爆音に耳をふさぐ。待て、知っている威力ではない。建物の影から薄目で様子を窺う、奴が、役立たずの鈍らを構えている。盟約の剣、あんなに白くて、美しかっただろうか?

「なんのつもりだ!テネブリーズ、エンデ!いい加減にしろ!」

 クレフが珍しく声を荒げた。

「僕は何にも知らないよ。」

 そりゃそうだよ、誰だよお前。まずい、理由はわからないが、想定よりも魔法兵器の攻撃の威力が上がっている。街に被害が出かねない。人払いはしたが……。

「ハハ、別の切り札を用意済だったか。此処までクレフ・レインハイムを恨んでいたとはな。君は我々の友人ではないのではと勘繰っていたのだが、安心したよ、テネブリーズ君。」

 暗殺者の中に紛れて政治部門の奴が俺を監視していたらしい。

「もちろんですとも」

 よくわからないが、信頼を得たらしい。俺は適当に返事をしながら器用に光線を避けるクレフの足を見ている。あれで、感覚がないというのは本当なんだろうか。

「アレにレインハイムは殺せるのかね。」

 老人は訝し気にそう言った。

「ご心配なさらず、あれが殺しきれずともこれだけの魔力に曝されれば消耗するのは間違いありません。その後は俺の手に負える」

 

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