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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央2
57/102

色々ある

「おいおい、機関の最終兵器が酒場に何の用だよ!」

「……後から入ってきて、なんだその言いようは。」

 突然店に入ってきた情報屋が短躯をズイと店の中にねじ込んで俺の隣に座った。この様子は、二軒目だな。

「おお情報屋じゃねえか!またツケで呑みに来たのか?」

「なんだ、つけ払いとは。出禁になるぞ、俺みたいにな。」

 ウケた。機関で言っても誰も笑ってくれないことを思い出して悲しくなった。

「そうね~そろそろ、検討しなければいけないわ~。」

 愛想のいい酒場の女主人が包丁を構えてカウンターに立った。出禁では済まなさそうだ。

「情報屋がよ……こないだの闘技場のこと覚えてっか!?てめえのせいで大損だよ!」

 遠くから大男が親しげに野次を飛ばした。

「ガハハ!うるせ~!わかってねえな。損を嫌って金儲けしようとは!誰かの勝ちは誰かの負けだ。俺が金を得ると、裏で誰かが負けてんだ。気持ちいいなあ!」

「儲かっているなら、お金をはらって頂戴ね~」

「しかし、まあクレフさんよお、珍しいじゃねえかぁ。女にでも振られたか?」

 やや図星。さすが情報屋。エンデがあの後どっか行って、寄宿舎から遠く離れた場所で一人放られ、カイエに酷いことを言った後悔を忘れたくて、此処に流れ着いたわけだ。そんでなぜか腕相撲やら博打やらをさせられ、酒を奢られ、結果としてネガティブな酔っ払いが出来上がった。博打はまあ覚えのある程度にはやったことがある。当たり前のことだが、適切に数打ってればそれなりに、確率どおりに収束する。まあそんな甘い考えは裏切られるものだが、今回は割とうまくいった。相手がへべれけだったというのもあるだろう。

「なんでもいいだろう。俺だって酒くらい飲む」

「この戦闘狂人が女に興味あるわけねえよ。剣と寝てんだろ。薄汚ねえゴシップ好きのニワトリ屋さんも、見習った方がいいぜ。」

 聞き捨てならない。俺は健康な成人男性だ。変な意味ではなく剣と寝てるのは事実であるため否定できない。

「うるせー俺だって好きでゴシップ書いてるわけじゃねえんだよ。儲かりつつ負けてるってやつだ。しかし結構容赦なく飲んでんな」

 俺も好きで戦闘狂人をやっているわけではない。体が勝手に動いてそれが一番楽しいだけだ。

「恋愛相談なら、聞くぜ」

 そういやこいつの奥さんかわいい感じの美人だったな。強者の余裕を感じる、悔しい……悔しいッ。いや、別にそうでもないな?その場のノリで悔しいふりをするのはよそう。いつか本物になる。

「やだよ。あんたに話したら朝刊の1ページ丸々使って罵倒されそうだからな」

「随分な自信だな。流石のクレフさんでもそりゃ紙の無駄ってもんだぜ」

 返事が面倒で酒を呷った。なんだか知らんが煙臭い。あとは花の匂いがする?こういう時に詳しければ気の利いた事が言えたのかもしれん。俺の人生は夢のようなゴミだ。

「言ってろ。俺をダシに鈍器みてえな本書きやがって」

 どいつもこいつも俺をダシに使いやがって。俺が反撃しないのを良いことに、やたらめったらするのがそんなに楽しいか?

「俺はそんなに扱いの簡単な安い駒か。」

「な、なんだ今日は妙に饒舌だな。クレフさんよ。ちと飲みすぎなんじゃねえのかぁ?てか、致死量だろ、……これは」

「しゃべらない俺の方が好みか?」

 こいつの前でペラペラしゃべると碌なことにはならん。碌なことをしゃべらなければいい。

「なんじゃそりゃ。頼むからこれ以上の暴れ方はするなよ……。」

 薫った店内の空気に、目の覚める外の風が交じった。

「ごめんください!レインハイムさん見ませんでしたか」

 ――カイエだ!……カイエだ。彼女の声はオーケストラのチューニングのように耳に届く。聞き入らねばならない。今は逃げたい。

 俺は椅子の下に潜り込んで隠れた。臆病者め。呆気にとられてこちらを見下している情報屋をにらみつける。

「いるぞ~」

 情報屋はへらへらと手を振って返事をした。

「おい!」

 彼女の足音が近づく。

「……クレフ?」

「あ、あ……。カイエ。すまなかった。邪魔だなんて、違うんだ。俺の言っていい言葉じゃなかった。君がいなければあの時死んでいたんだし……。」

「あなたどこ向いてしゃべってるの」

「すまなかった。」

 壁に向かって話していては不誠実だ。彼女の顔を見上る。

「私も謝りたくて。あなたに理想を押し付けて、わかった気になって、ぞんざいに扱って。思慮が足りなかった。本当にごめんなさい。謝る機会をくれてありがとう」

「ねえ、これ。受け取ってくださる?私、あなたに死んでほしくないの。……私のこと嫌っていないなら、手を出して」

 なんだかわからないまま手を差し出して、彼女の手が俺の手を包んだ。それでも、何も感じられないもどかしさと、嫌な予感がした。

 白亜の指輪が、手のひらの上で薄暗い店の照明に輝いた。

 王家の遺品!魔法兵器の残骸!……ゆ、指輪!

「直してもらっていたのよ。」

「受けとるって、これは」

「あなたは、私をあの舞台から連れ出してくれた勇者様なの。何ならあなたを引きとめていられるかと考えて、私にはこんな卑怯な手しかない。あなたにとって、私がまた不必要になるまで、それまでは、どうか。」

 柔らかに笑う彼女に言葉が紡げなくなってしまった。どうか、その先はなんだろうか。これは、本当に受け取っていいのか?とにかく、今は彼女に嫌われていなかったことに安堵する時間が欲しい。

 

「あ~、なんだ、その。家に帰らずツケで飲んでるようなやつらのことも考えてくれよ……」

「それはあなただけよ~」

 

 ――――――

 

 一方その少し前、機関。

 昨今の騒動を受けて「勇者狩り対策本部」などと適当な張り紙のなされた部屋が設置された。やる気のない張り紙に対して、一堂に会しているのは勇者部門の階級検査上位の4名であるため、おどろおどろしい威圧感が見物しようと近づいた人間を退けていた。

「思うに、やっぱり部隊名をつけるべきだと思うんですよ!本腰を入れて捜査が始まったというのをアピールできますし、そんなことより、かっこいい部隊名ほしくないですか?」

「……。」

 主席勇者のフェルミドールは黙ったまま伏し目がちに事件の資料を眺めていた。

「士気が上がるのであれば、まあ検討してもいいだろう。何か案は?」

 脱線した話題に興味を示さない主席の代わりに口を開いたのは2位のテネブリーズだった。彼はこの部屋の中では最年長で、勇者としても古参の人物である。制服姿にも年季が入っている。

「勇者狩りを討滅する……勇者狩り狩りなどいかがでしょう」

 最初の提案者は3位の「聖女」エルトアであった。生真面目な彼女は無難な意見であると信じてやまない様子で進言した。

「魔法部門のセンス壊滅の伝統は健在というわけか。」

「はい!刑罰ネメシスとか、最終審判ファイナルヴァーディクトとかどうです?かっこよくありませんか」

 部隊名の話を切り出した5位の男が再度口を開いた。提案者だけあり、案を用意してきていたのだろう、手にはメモを持っている。

「どういう意味だ?それは。」

 フェルミドールが耳慣れない単語に顔をあげて口を挟んだ。

「どうせ遺物から引っ張ってきた言葉だろうよ主席殿。おこちゃま方好みだな」

 5位の男は皮肉に気を留めず、次々に別の案を口に出しては、その部隊名を名乗る自分を想像して楽しんでいた。

「円卓もいいですよね~」

「どこも丸くありませんよ」

 対策室の机は空間を囲むようにして四角に配置されている。

「まあ、他にでないんならアルバルトの案でいいんじゃないか。」

 2位の男はにべもなくそう言った。

「お、っすが。テネブリーズさん、分かってらっしゃる」

「我々に何も解決できなかった場合、勇者部門そのものの権威を失墜させることになる。呼び名を与えればそれを助長するだろう」

 話を遮ったのはフェルミドールだ。相変わらず目を伏せたまま資料の読み込み3週目に入ろうとしている。

「変わらず悲観的ですね、フェルミドール様。実際有効打はまだ見つかっておりませんし、慎重になるべきなのは確かです。」

 熟読する主席の様子を見て大した情報は書かれていなかったはず、と疑念を抱いた聖女が資料に再度目を通し始めた。

「今までは殺人者とのいたちごっこに興じていたわけだが、今回の標的は頭だ。わざわざ一級を殺っといて音沙汰がない。碌でもねえ腰抜けだろう。アピールはそれなりに有効だと思うが。」

「そういえば4位の薬物中毒者はどこ行ったんですか?」

「オスローは留置所です。」

「なあ、主席殿。ヤク中が勇者の上位にいるんだ。権威も何もないだろう。むしろこれは回復のための一手だ。執政官殿もそういう意図で我々を呼びつけたんだろうよ。失敗は想定されてないのさ」

「……まあ、いい。アルバルト、命名は一任する。適当に考えてくれたまえ。本題に戻ろう。」


 ――――――


「ということでして、クレフさんにも手伝って欲しいんですよ!名づけ!」

 ベンチで冬に片足突っ込んでいる風に吹かれて凍死しかけている二日酔いの頭には、厳しい。元気がよすぎる。

「……何故俺なんだ。部外者だろう」

「そりゃ機関の最高戦力ですから!クレフさんも部隊に入れておこうと思いまして!というか、部隊なんですが、色々あってすぐ解散するわけじゃなくて。闘技場の上位5名の――」

 この男はなぜか俺のことを贔屓目で見ているが、俺はルール破りの追放者だ。すげえ気持ち悪い。ゲロ吐きそう。

「名づけは良いが、俺を部隊に数えるのはやめておけよ。テネブリーズあたりが反対するだろう」

「いや、あなたを入れようって提案したのは彼ですよ。」

 意外だ。彼は俺のことを嫌っていると思っていたが、何か打算でもあるんだろうか。名前付き(ネイムド)とか、どうだい?見たところ、君たちしか名前は付けられていないようだからね。……前触れなく脳内でしゃべってくるな~。俺の気が狂ってるのか、そうじゃないのかわからんからやめてほしい。「ごめんよ、君は人間だものな。控えるよ。」

 話を終えたアルバルトが満足げに去って行って、俺は握りしめていた指輪を光にかざした。それは毅然と輝いた。

 ――受け取ってしまった。意気地なしめ。



補足すると

3位の「聖女」は魔法部門の主席です。

部門の力関係を明確化するための生贄じみた出場、とかではなくて、レギュレーション上どちらに所属するか不明だったためにどちらにも出場しているだけです。

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