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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エント
53/102

余談3(2/2)頭痛が痛い幕間


エント編が始まる前の話です。

「珍しいな。外出なんて」

 エント行きが決定してしまったので、買い出しをしておこうと思って町に出た。滅多に機関の城から出ないフェルミが市街地でうろうろしていたのを見つけて声をかけた。

「ゲ、圏外……」

「そのうざい前髪どうにかしろよ。そろそろ。」

 分け目のおかげで目こそ隠れていないが、前髪はほぼ鼻先まで伸びている。試験中に何度もうざったそうにかき上げる動作をしているのを見かけた。なぜか結構人気のある動作らしく、そのたびに客席が色めき立っていた。理解しがたいが、こいつには謎の女性人気がある。

「……お前に言われなくとも、その用でこの私が外に出ているんだ。」

 フェルミは明らかにイラついた顔をして目の前の理髪店をにらみつけた。ああ、あれか。たぶん約束の時間より早くついてしまったから店に入るに入れずうろうろしているやつだ。こいつは妙なところで引っ込み思案というか、なんというか人見知りをするのだ。で、長すぎる襟足にはいくらか鋏を入れた痕跡がある。うまくいかなかったらしい。

「入って座ってろよ。どうせ空いてるだろ」

「声を掛けられたくない。」

「そうか、じゃあまたな」

 こういう時は放っておくに限る。

「待て、貴様にはその辺にいる私に声をかけるか否かクソみたいに悩んでいる人間が見えてねえのか?お前がどっか行ったら絶対話しかけに来る!」

 小声で悪態をつかれているが、その悩んでいる人間から攻撃的な視線の集中砲火を浴びている俺の気持ちも考えてほしいものだ。

「だったら店に入ればいいだろうが」

「……いやだ。すごい早く着いたなって思われたくないことくらい貴様にもわかるだろう。」

「じゃあその辺の飯屋にでも入ればいい」

「用のない店には入れない。」

 面倒だな。

「はあ」

「溜息とはいいご身分だなクレフ・レインハイム!」

 脛をけられた。イテテ。

「じゃあ、俺に飯おごれよ」

「出禁の低賃金らしい卑しい提案だ。悪くない」

 

 フェルミは食うものを決めるだけ決めるとどうにも毎度押し黙るので、俺が奴の分まで注文している。ていうかお前も食うのかよ、と色々言いたいことはあるが。周囲の視線が痛い。さすがに俺ら二人は目立ちすぎる。ゲールクリフ直属なのも知れ渡ってしまっているから、気まずい気持ちになって、ちょっと姿勢を正した。そもそも制服が目立つ。適当に店入って白服いるとビビるもんな。

 ……制服着て散髪に行くやつがいるか?こいつさんざん俺が服持ってないって貶しといて、自分も服持ってねえんじゃねえか?

「なんで制服なんだ」

「仕事中の奴に話しかける人間は少ない。想像に容易いことだ。」

 俺は、何着ててもあんま話しかけられないな……。この間も落とし物拾って追いかけたら命乞いをされたし。


 ――――――――――


 手続きの途中で少し時間が空いた。執務室には私とフェルミドールしかいなくなってしまったから、話しかけようと思ったけれど。

「改めて自己紹介をしてもいいかしら」

 フェルミドールはクレフやゲールクリフといないときは無口な感じみたい。椅子に座ってうつむいている。あんまり人に興味がないのかしら。さっきの会話からしてそうでもないと思うのだけれど。

「どうぞ」

「私はカイエゲルダ。アシュハイム出身よ。これからよろしくお願いします」

「……フェルミドール」

 彼は特に何か作業をしているわけでもないのに一向に目が合わない。機関にいるほかの人に比べればやや華奢だし、黙っていると陰のあるミステリアスな感じに見えなくもないのかしら。クレフといたときの暴言の嵐を見ているとちょっと落差で別人かと疑うだけなのだけれど。

「あなたは魔法に詳しいのよね、教えてほしいことがいくつかあるの。お時間あるかしら」

「時間はあるが、詳しいというほどではない。」

「魔法の試し打ちができる場所とかはあるのかしら。街中で攻撃魔法を放ったら犯罪なのよね」

「機関の地下」

 会話は弾まないけれど、声の調子からしてこれ以上会話を続けたくないという感じでもなさそうだからそのまま続ける。

「あの昇降機を使うにはあの、剣の魔法が必要でしょう?身分証の発行はもう少し先なのだけれど、私どうしても試したいことがあって……。」

「……クレフに連れて行ってもらえ」

 急に声に不機嫌がにじみ出た。――落ち込んでる?いや、拗ねてるのかしら。この人、もしかしたら友達の交友関係が広がるのを見て傷つくタイプかも。幼稚……。

 だめよカイエゲルダ、想像で人のことを悪く思うのは論外よ。よくない癖だわ。

「そうするわ。そういえば、話が変わるけれど。クレフって無口で仕事だけをする人なのかと思っていたの、あなたの前だとよくしゃべるのね」

「ン゛、ヘッヘハハ……。奴が仕事人間に見えたのか?」

 よし、目が合ったわ。私の勝ちね。

「あいつよほどお前にいい顔したかったらしいな」

 フェルミドールのくすんだ濃い緑の目が楽しそうに細められた。

「そうだ、少し魔法史について知っておきたいの、どうしたらいいかしら。」

「何冊か、心当たりの本がある。あいにくつい先日返却してしまったんだ。よければ本屋を案内しよう。あいつほどじゃないが今日は私も少し暇でね、地下演習場にも付き合ってやる。」

 口数が急激に増えた。

「ありがとう!」

 くらえ、イチコロ営業スマイル!

「ッ……な、なんだその、その気色の悪い笑みは、やめたまえよ。笑わせようとしてるのか?私に気を使う必要はない。やめろ!ンハハ!」

 ダメだったわ。どうにも笑顔を作るのが苦手なのよね。

「なんだ、カイエが心配で戻ってきたんだが仲良くなったみたいだな」

「け、圏外!私を助けろ、この女が変な顔をして笑わせてくるんだ」

「フェルミドールくんは、俺以外とまともに喋れたんだな。よかったよかった」

「なんだ?当たり前だろう。」

「痛って!蹴るな!」

 なるほど、フェルミドールは手より先に足が出るタイプと。

「仲良しね」

 見るに堪えない馴れ合いだわ……。あきれて目がつぶれそう。

 少し羨ましくなった。私に、一緒に笑う友達がいたかしら。

 否定はできない、もしかしたら私を友達だと思ってくれていた人がいたかもしれないから。それに私は愛されていたと思う。皆あの計画に加担してくれたのだから。

 ただ、私は途方もない線が引かれているのをずっと、感じていた。

 だから私も線を引いている。人の言葉の裏を読み取った気になって、相手が求めるカイエゲルダを演じて、いい気になっている。自分の心がその輪の中に入らないよう、守っている。

 

 ――――――――

 

「本来は司書殿に伝えて本をもってきてもらうんだが……、ここの司書は別名サボり魔だ、勝手に書庫に入ることができる。な!入っていいだろ!」

 クレフが声をかけるとカウンターの下から手が伸びてきてひらひらした。

 書庫は地下にあって、とんでもなく暗かった。湿気と光による劣化を避けるためかしら。ずっと何かの音がしていると思って聞いたら空調装置というらしい、ほかに物音といえば私たちの足音くらい。なんとなく足音が人数と合致しているか聞いてしまう。奥に進むと魔法灯がついたけれど、あまりにも頼りない。

「なんだかちょっと怖いわね」

「そうか?私は好ましいと思うが」

 さっきまでコソコソしていたフェルミが会話に参加した。

「わからないでもないな。俺も足に何かまとわりついているんじゃないかって思う時がある」

 暗さにも目が慣れてきた。かろうじて立ち読みくらいはできるかしら。

「俺はここまででいいか?少し別の用があるんだ。」

「え、ま、まあ。十分だとも。カイエゲルダ、魔法史の本はあっちだ。だが、私が適当に見繕っておくから、君はその辺で別の本でも読んでいるがいい。悪書もゴロゴロとある、すべてを真に受けるなよ」

「わかったわ、ありがとう」

「……」

 あ、無言モードに入っちゃった。


「あの、すみません」

「ヒヒ、嬢ちゃん、何者だい?あのゲールクリフのダメ犬2匹も連れて……。来賓やらかねえ」

 司書さん、変な人かも。あの地下にいるのがどうにも怖くなって、上がってきてしまったけれど。

 声は聞こえるけれど、司書さんはカウンターから姿を現さない。

「金髪のほうに言っといとくれよ、延滞しすぎだって」

 しゃがれた声から想像していたセリフよりも現実的な苦情が飛んできた。

「わ、わかりました」

「嬢ちゃん、暗いの怖いかい?ヒヒ、顔にそう書いてあるさね……」

 という司書さんがどこから私の顔を見ているのかわからない。

「あの2人って、結局……、なんなんですか?」

「あんたくらいの歳の子、みぃんな、あの金髪に夢中。嬢ちゃんも、その口かい?」

 絶妙に話がかみ合っていない気がする。カウンターの下から急に手が伸びてきて天板に何冊か本がおかれた……本というより紙束ね。

「えっと……」

「私だけを気にかけてくれる闘技場主席」

 はい?

「なんだ、これが目的じゃあないのかい。あたしに話しかけるのは、それらだけだったもんでねえ。創作のお仲間なら、うちに原稿を持ってくるのをやめるように言伝を頼めるかとおもったに」

「今月だけで、5冊。千篇一律の、冷徹で影があるが、実は優しい主席勇者と、偶然魔法が覚醒して機関に取り立てられた女の恋物語。階級試験があったから今月はこれから増えるに違いない。他にも、突然能力が覚醒して機関に取り立てられて不正をバッタバッタと暴き、女にモテる話が10冊。辟易するさね。閉塞が人の欲を収斂させでもするのかね」

「えっと」

「読むが早い。もういい。もってっとくれ。」

 い、いらない……。いえ、読んでみると意外と面白いものだったりする……かもしれないわ。ちょっと興味あるし。

「あ、あの、クレフってどんな人なの?」

「おお、もの好きだねえ。」

 天板に厚みのある本がドスン、と置かれた。クレフの何をどう誇張するとこの厚みになるのかしら。それにしても用意が良すぎるわ。

「あの朝のニワトリ屋長官の調査記録に興味を持つとは下世話さね」

 ニワトリ野鳥館?本の中腹あたりに指をあてて、開いた。な、想像してたのと違ったわ。ページいっぱいに数字が並んでいる。こういうの、表っていうのだったかしら。最初のほうのページに戻る。もくじ、よりも前に戻って……。

『替え玉事件を切り口に、闇に潜む闘技場の不正と、八百長疑惑をデータで暴く!新感覚暴露本!』

 なるほど、こういう感じね。なんでこの本をお勧めされたのかしら。後ろに戻る。羅列された数字は各勇者たちの闘技場での勝率や、ほかにも順位や、そんな色々だったみたい。……ちょっと私にはわからないわ。これ、クレフに関係あるのかしら?

『闘技場の悪夢は、我々に真実の光を切り開く機会を与えたといえるだろう。我々はクレフ・レインハイムという怪物を称えよう』

 と思ったら最後クレフのこと褒めてるし。……褒めてるのかしら?手持無沙汰なふりをして、隣の薄い紙束をめくった。こう、怖いもの見たさというのは、どうしてもある。ゥぉエ!?いきなり濡れ場だった。めっちゃ喘いでる、やばいやばい。急いでページを捲った。

 恋愛小説ね。この薄幸の美少女が主役みたい。容姿が詳細に書かれているこの殿方がきっと恋の対象ね。金糸の髪、薄暗い割れた宝石のような緑の目……長身で細身の。表情に影のある物静かな男性。名前は、ネツヅキ?変な名前ね。闘技場主席、最高執政官の子飼いの部下。

 ……そういえば、あったわね、明らかに私がモデルだろう女性とお付き合いをする話が書かれた自作本を、プレゼントされたことが……。と嫌な記憶がよみがえった。

 どこかにクレフのことが書いてないか探してみる。……あった。

 きょ、巨人扱いされている。カタコトでしゃべってる……。え、一人称オデはさすがにやりすぎじゃないかしら。ちょっと待って、流石に本文の路線と違いすぎるわよ。さっきまでなんだか耽美な感じだったじゃないの。さすがに彼だって錠を素手で破壊したりしないわよ。……しないわよね。

 別のを手に取った。今度は魔法の才能があるけれど虐げら……薄幸の少女が主役ね。クレフは――敵!?あ、敵なのね。え、めっちゃ機関の人殺戮している。しないわよね、殺戮。彼を倒してこの話は終わりみたい。

 ちょっともう一冊だけ、もう一冊。主役は、実は王族の血筋だけれど、……薄幸の少女ね。あら、これはフェルミと恋をするんじゃないみたい。誰かしら。最高執政官!?てことは、ゲールクリフ……よね。だ、だめだ、勝てない、勝てないわ。

 女にモテる方もちょっと、ちょっとだけ。知り合いについて描写されていないか気になって。

 どうやら、クレフは闘技場で4人に分裂するし、4人とも優勝するらしい。それから、剣を研いだ音で敵が恐れおののいて自害するみたい。ジャンプすると、地面が割れるし、機関の城の屋根まで跳ぶみたいだし、カバンから生首が出てくるらしい。闘技場に参加する人の剣がクレフを装備してくることもあるらしい。

 ……なにこれ?

「ゲールクリフも、難儀さね。」

「カイエゲルダ、上にいるのか?本を見繕った……「お゛おおお゛い!?」

 これは、たぶん、絶対にフェルミに見せたらまずい!書き手たちもきっと本人に見られるのは本意ではないわ!カウンターの上の紙束をカウンターの奥に落とした。ごめんなさい本、そして司書さん……。ヒヒと、笑い声が聞こえた。

 

 フェルミの隣を歩くのは危険かもしれない。後ろから刺されかねないわ……。

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