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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
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狭間の地

 小鳥の高い囀りが聞こえる。コマドリだろうか、上機嫌に歌う小鳥たちの声に耳を傾けながら靄のかかった思考をゆっくりと回す。濡れた草と石畳の匂いがする。やわらい風が頬を撫でた。その心地よい冷たさで眠っていたのだと気が付いた。目を開けると、早朝か、黄昏のような微睡んだ薄明りが世界を照らしている。

 いつの間に眠っていたんだろう。俺は芝生の上で寝転がっていた。先についた水滴を何となく撫でてみると、指先につつかれて張力を失った水が流れ落ちていった。ずっとこのままぼうっと意識を放っているのも好ましいが、濡れた場所で寝ていたら風邪をひいてしまうだろう。意を決して体を起こす。既に上着が湿っている。長く居すぎたあとだったかもしれない。

 後ろを振り返ると、ぼやぼやした城郭があった。ここは、城の中庭か?正面に向き直った。

 石畳の真っ直ぐな小道があり、その脇には白い石のベンチが置かれている。中庭の周囲は背丈の低い木が木陰を作っている。さわさわと、風に葉の揺れる音がする。

 石畳の先に最近もう滅多に見ない神殿めいた建物が見える。こんな場所来たことあっただろうか?小さい白い花が沢山咲いていて可憐だ。

 小道を進むと神殿の手前、左手側に小さな小屋があることに気が付いた。木で隠れていた物置のようなこじんまりした小屋は、小さな窓と煙突があった。煙突からは煙が出ている。中に誰かいるのだろうか。

「ごめんください、誰かいますか?道に迷ってしまって」

 小さくノックをする。


「おや、この棄てられた地にまた人が来るなんて。」

 背後から声がかけられたので、振り返る。そこには俺と同年代くらいに見える男が立っていた。白く長い髪を後ろに縛った、人当たりのよさそうな青年だ。姿勢が良い。こんな小屋よりは騎士の寄宿舎に居そうなものだが。

「初めましてだが、入っていって。話し相手になっておくれ」

 彼は俺を通り越して小屋の扉を開けると、そう言った。

 言われるまま屋内に足を踏み入れた。中には武器や調度品などが乱雑に置かれていて、ただでさえ小さな小屋のスペースを圧迫していた。

「すまないね、散らかっていて。ずっと誰も来なかったから」

「お構いなく」

 俺がそう言うと白髪の男は椅子を引いて座った。飲みかけだったらしい茶に口をつけた。

「この夢はもうすぐ壊れる。君も見ただろう?あの神殿からの呼び声を」

 俺には思い当たる節がなく、どう反応していいかわからない。怪訝な顔をしているのがばれたか、男は俺を見て目を丸くした。

「見えていないのかい?本当に?今も?」

「あ、ああ。」

 俺の返事を聞いて男は深いため息をつくと、手で目を覆った。

「俺ももう駄目かあ。あ、君魔法に鈍かったりしない?」

 見えている口許が自棄気味に笑った。

「よく鈍いって言われる」

「は、そうか。ならまだ大丈夫かもな」

 と言って神殿のある方向を見た。俺も何となく目線を追いかけたが、窓から白い壁が見えるだけで何もわからなかった。こんな時カイエだったら何かわかるんだろうか。

 男が黙ってしまったので、部屋の中を見渡した。奥に別の部屋があるようだ。

「ああ、ごめんよ。あまりに久しぶりだったもので、何を話せばいいかわからないんだ。何か話題はないかな?」

「じゃあ、俺から質問させてもらおうか」

「どうぞ」

 男はカップを揺らして茶を攪拌した。

「ここはどこなんだ」

「棄てられた夢。狭間の地。そんなところかな」

 らしい。

「崩壊、魔王、それから願い、これらの単語に聞き覚えは?」

「懐かしい単語だ。……もしかして君エンデュミオンに会ったかい?」

「エン……?」

 俺が困惑しているのに構わず男は独り言を続けた。

「ああ、そうか。この場所に人が来るんだったら、あれが関係しているのか。会わなかった?灰色の髪の魔法使いだよ」

 心当たりはあるが。

「もしかして違う名を名乗っていたかな。あれは自分の名前が嫌っていたから。あれは元気だったか?」

「あ、ああ。」

 どことなくこの男とあの魔法使いの口調が似ているような気がしていたが、接点のある人物だったか。

「崩壊に、魔王ね。魔物と夢の話は聞いたかい。」

「魔物の存在そのものの湖だという話だったか」

 男は頷くと茶を口に含んだ。欲しいというわけではないが、俺には茶はないんだろうかと、何となく思った。カップは空になったらしい。

「崩壊が起きると、現実が破れて夢の領域が流れ込んでくる。昔は夢の領域に魔王もいたんだ。いや、夢の王だったというべきか。それは強大過ぎたからやっとの思いで、ああ。えっと……」

 男は神殿の方を一瞥して溜息をつくとこちらに視線を戻した。

「破れた現実は裂け目の修復のために新しい現実を生むんだ。服が破けたらどこかから糸を持ってきて繕うだろう?その糸はもともとの服に使われていたものではないよね」

 雑然とした室内に放っておかれているパッチワークを指さした男だったが、自分の出した例えとやや異なると思ったのか、自信なさげに呻いた後「まあいいか」と言って続けた。

「大きく破ければ破けるほど、使う糸は増える。現実に異物が混じる。その異物が願いだよ。現実は少し書き換わって、新しい現実が受容される。」

「そんなうまく修復部分に意志をねじ込めるものか?」

 男はやや焦ったように視線を彷徨わせた。男はカップを手に取ろうとして、中に何も入っていないことを思い出したのか、のばしていた手をウロウロさせた。おそらく俺の質問への答えを失念したか、実は詳しく知らないか、そんなところだろう。少し間をおいて話が続いた。

「修復も夢が使われるんだ。破れた部分はこうだっただろうという皆に共有される夢が。その際に参照されるのが全ての夢ではなく、その場にいる人間から適当に選ばれた夢だったりするために、その人間がつよく『現実はこうであった』と認識していると、そういう風に現実が書き換わってしまうんだ。だから強い願いは、現実になってしまうのさ。裂けていない部分まで縫ってしまったりもするんだ。」

 現実は裂けているだけで何かが失われたりしている訳ではない、はずだ。じゃあ、黄金のエルクや他の土地が消失したのは巨大な災害が起きたことで、その場所が無事ではないという予想が立ったため、無くなったという結論で現実が対応したということか?ちょっと雑じゃないだろうか。

 その場にいた人間が、自分が死んだと思ったから、それを反映してすべて無くなった、とかだろうか。

「崩壊の他の効果として、流入した夢が現実に取り残されてしまうということがある。このとき現れるのは魔物の存在のコピーではなく、魔物本体なんだ。だから強力なんだが、倒せば核が得られる……。この話は君には関係ないかな」

「崩壊と魔王はどう関係があるんだ」

「う、うん。それがちょっと難しくてね。俺はあんまりわかってないんだ。」

 誤魔化すようにアハハ、と笑って男は頬を掻いた。

「いままでに夢が二種類でてきたのはわかったかな……。」

「現実の外側にある夢、魔物の存在の湖と、現実の内側にある夢、崩壊の修復に使われる人の世界に対する認識。この2つであっているか」

「ああ。その通りだよ。」

 男は嬉しそうに頷いて続けた。

「崩壊によって現実の内側に入り込んでしまった夢は、現実として人々に認識されるんだ。魔物は皆が現実のものとわかっているように。あるとき、ついに魔王が現実に入り込んでしまってね。」

 男は再び神殿に目をやった。魔王の話題が出る度にそちらを見ている。あの神殿に魔王がいたりして。

「ここからが俺がよくわかっていないところで、曖昧だと思うが突っ込まないでくれ」

 今までもわりとあやふやだったように思うが、それを言うのはやめておこう。前置きして男は続ける。俺は手帳に記述を残しておこうかと思ったが、持っていないようだった。どこに落としてきてしまったかな。いっぱい落書きしてるから、拾われると恥ずかしいんだあの手帳。

「現実に存在するが、それでなお、夢は夢なんだ。皆の共通認識上にあるから現実になりうるだけで。……魔王はあまりにも強くて、誰も倒せなかった。だから……だから、人々の夢から消し去ることにしたんだ。伝説という仮想と、犠牲を用いて……ああ、この話をしようとするとひどく頭が痛む。誰が、何が犠牲になったのか。何を封印しているのか、どこに、どうやって。そう言ったことはタブーだからさ……でも、最近わかるんだ。思い出してしまったんだ。呼び声がするからさ、あの神殿に、いるんだ。魔王が。」

 いるんか~い。

「この話、ここの外ではせぬようにな。全てが水泡に帰すかもしれないんだ。」

 特に断る理由もない、「わかった」と返事をした。だいたい、外で話しても狂人扱いされるだけだ。

 推測するに、現実の人々に魔王は存在しないものであると思わせて、さらにその存在に鍵をかけるための工程があったのだろう。技術と合理性の発展に対する信奉はかつての引力であった神でさえ紙片の上の細切れにしてしまった。魔王も、ずっと世界に現れなければその類になっていくに違いない。だが、魔物が居続けるために、また被害があるためにその記憶は薄れにくいのだろう。伝説という檻……。認識を阻害するための工程……そう言ったものがあったのか。認識妨害系の魔法は数多く存在する。

 現実の内側に認識を阻害し続ける何かが居ればいい、そんなことが出来るのは、不死の魔法兵器くらいか……?それらはもう壊れている。

 男は椅子を引いて立ち上がると、長い白髪を揺らした。

「そろそろ、か。……あれに伝えてくれ。もう、長くは持たないと。それと、この剣を君に。」

 男は布を掛けられて壁に飾られていた剣を大層大切そうに抱えて俺に差し出した。

 その刀身の無二の輝き、潔白の証。盟約の剣だ。なぜ、この剣がここに。

「俺にはもう果たすべき契りがない。受け取ってくれ。」

 有無を言わさぬ雰囲気だが、流石に盟約2本目はちょっと。身分証2つ持ってるのはまずいし、剣5本携帯することになるし……。と、持ち物に想いを馳せて、ようやく何も持っていないことに気が付いた。

 頭にかかっていた霧が急に晴れた。冷や水を浴びせられたような気分だ。ここはどこだ。俺は監視塔に居たはずだ。それで、エンデがご婦人を挑発して、俺は首から大量に血が噴き出して意識を失ったはずではなかったか。

 俺は恐る恐る手を伸ばしてその剣をとった。

「また会おう、新たな勇者。次は上手くやれよ」


 視界が撓んで音と共に白けていく。


最後のセリフはかっこいいことわざみたいなものを作ろうとして、恐ろしい女神の車輪に撥ねられるなよと入力したんですが、意味わかんなかったので、やめました。

全然関係ありませんが、最近のフォルトゥーナはトラックにのっていそうです。

幸運のゴムタイヤ

にわかなんです、ゆるしてください。

眠すぎてタイトルつけ忘れたみたいですね

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