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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エント
41/102

 最初に人を殺したのは、いつだったか。確か、まだ寒さの残る早春、地面に丈の短い紫の花が咲き始めた頃だった。釘が盗まれて、俺たちは犯人を追いかけた。中央に復讐をするんだと言っていた。それ以上は何も聞けなかった。同業者だった。知っている人だった。晴れていて、北方の山々がよく見えた。

 仕事だった。何人かの人生から、全てを奪うだけの仕事だ。その時フェルミが隣にいた。帰り際、アイツが花弁に飛び散った血を横目に「死にたくない」と呟いたのが、耳に残っている。

 日が落ちる。デカくて暗い海、でかくて暗いそら。聳える巨大な白い魔法兵器。一匹の泥が足にしがみ付いてくる。剣を抜こうとしたが、持っていなかった。引きはがそうと藻掻けども、足にまとわりつく歌いは増えていく。気づけば、膝まで海に入っていた。

 ああ、この突拍子もない危機。これは夢だ。黒い海に沈みながら思う。そう認識すると、急にズルりと強い力で引きずり込まれ、目の前には大小さまざまな泡が浮かんで水面に浮上していった。水に入って息が出来ないと苦しいという知識が俺の脳に信号を与えるのか、肺は言うことを聞かず、夢の中で息が止まる。そうだ、俺は夢見が悪いんだった。だから、まともに眠らないように、ベッドは売ってしまったんだった。気を失ったように眠るときの方が夢は見なかった。

 溺れると、水が肺に入る。そうすると、苦しい。そういったことを俺は知っている。歌いを見る。なぜ、奪ったのかと問うている。知らない。それが仕事だからだ。おかしいな。奴らには口がないはずだ。どうやって歌うんだろう?どうやって俺を糾弾する?黙ってくれ。俺は知らない。返してと言われても、返せるものなんかない……。深みに落ちる。針が飛んできた。魔物だ。倒さなければ。

 

「おはよう。随分うなされていたね」

 中途半端なところで目が覚めた。ゆっくりと体を起こす。まだ周囲は暗かった。薄暗い中で、月が太陽に空のその座を明け渡す、鳥がいれば鳴き始める時刻だろうか。死んだ町は、とにかく静かだった。

「……起こしてくれよ」

 声を掛けられたことを思い出して、返事をした。夢のせいか喉が痛くて、出た声は妙に掠れていた。

「悪いかとおもってね。それに、夢で窒息する人を初めて見たからさ」

「趣味が悪いぞ」

 まだ喉が変だ。咳払いをして、もはや未練の無いベッドから出た。

「朝食は食べて出るだろ?悪いけど用意してないから、食べるなら勝手に食べてね。」

「あ、ああ」

 振り返ると魔法使いはベッドの縁で足をじたばたさせていた。ぷらぷらと言うには足が長すぎるので、じたばたという他ない。見たところ何の荷物も持っていないようだが、奴は食事をどう済ますつもりなんだろうか。もう食べたのか。相変わらずじっとこちらを目線で追ってくるが、フードを被っているので幾分かマシだ。

 鞄を掴んで下に降りる。上るときはあまり気にならなかったが、段差が大きく最早はしごを降りているような気持になってやや足がすくむ。一階に降りると、窓の外に街灯が見えて明るいと思ったのはそのせいであることに気が付いた。夜更けという方が、早朝というよりもまだ適切な時間だ。したがって、食事をする場合、朝食というよりも夜食であるのだが、今食べないと食べ損なうかもしれない。文句を言っている場合ではないのだ。

 せっかくだから食堂だったであろう部屋で食事をとることにした。一歩踏み入れると埃とカビの匂いでそれどころではないということに気が付き、やめた。昨夜見て回った限り、向かい側の部屋は団欒室だったはずだ。そっちにしよう。

 蝶番の錆びた扉は押すと嫌な音を立てて開いた。灯りがついているおかげで、問題なく中を見渡すことが出来る。壁にはいくつも絵が飾られているが、埃まみれになってしまっていてどんなものなのかはわからない。

 長机の周辺には丸椅子がいくつかと、長椅子が設えてあった。机の上に本が何冊か乱雑に積まれている。奥まったところにある本棚から抜き取られたものだろう。足元を見ると、積もった埃の上に足跡が出来ていた。それを追って室内に入る、足跡は長椅子のところまで伸びてから本棚に向かい、また椅子に戻って、扉に向かったようだ。あの研究員のものだろう。この辺の本もあれが読んだんだろう。戻しとけよ。

 適当に表紙を見ると、大まかに物流に関する当時の事や取引、立地に関することなどの本らしい。動物の皮でできた高そうな表紙だ。中も何となく目を通してみたが、専門書は俺の言語能力では敷居が高かった。中には帝国時代の言語で書かれたものもあった、なおさら俺には読めないものだ。戻すために抱えると、ずっしりと重い。

 手についた埃を払って、あれが座っていただろう所に腰かけた。鞄の中から馬車道の途中に出くわした集落で購入した乾物を取り出す。中央から持ってきた分もまだ残ってはいるのだが、クソ不味い、ありえない程日持ちするなどの理由から消費が後回しになっている。エントの方が域内での長距離移動が活発なのか、携帯食料も充実していた。ありがたいことです。

 

 齧っても、齧っても噛み切れない。これはヤバいぞ……。水で戻さなかったのは悪手か。どうすんだこれ。デカい芋虫の乾物らしい。あんまりおいしくなかった。それでも中央のやつよりマシなんだが。

 デカい芋虫は何やら亜竜という名前がついているらしく、あまりにもデカかったために竜の一種だとされていたのが由来らしい。切る前の全形を見たが、確かに大きかった。長さが俺の手のひら5個分くらいあった。竜が存在しないとわかって、デカ芋虫だけがこの世に取り残されたんだそうだ。ちょっと残してフェルミのお土産にしよう。多分すっげえ嫌な顔してくれる。竜と言えば、どっかの地方……フロンティアを超えた先だから打ち捨てられた土地だが、神竜の末裔だとかいう人種がいたらしい。もしかしてあれは芋虫人間なのか?輝く角を持った高潔な種族だというから、もっとかっこいい感じを想像していたんだが、芋虫人間なら滅亡したという情報にも希望が持てるかもしれない。

 ……これたぶん、ナスと合うな。

 乾物と格闘する事十数分。


 二階に戻ると、研究員は窓の外を見ている所だった。一声かけると、こちらに振り返ってベッドに腰かけた。

「まだ暗いね。どうする?もう出発するかい」

「いや、もう少し待ちたい。城下の構造的にきっと朝日は拝む価値があるぞ」

「そうか。なら少し散歩でもしようかな」

 昨日の事もあるしコイツには暗い間行動しないという考え方はないのかもしれない。

「なあお前、寝てないだろ。ちょっと寝たらどうだ」

「夢で責め苦に遭いたくないものでね。」

「なるほど」

 暗に俺に言及されては適当に返事をするほかない。だが、色白なのか、顔色が悪いのかわからないような色をした肌からはどうも不健康な印象が先行する。法服から覗く細っちい腕からもおよそ体力があるようには見えない。昨日も歩き慣れてないなんてことも言いだすし、道中で倒れられたりでもすると困るんだが。これは伝えておいた方がいいか。

「魔物も出るだろうし、道中倒れられると困るんだ。俺に同行するつもりなら、せめて目を閉じて休んでくれないか。魔法のせいでかなり日が照ってる。体調を損ないかねない」

「わかりましたよ。君も二度寝でもしたらどうだい」

 嫌々というのを全身で表現するとこうなるのだろう。乱暴に椅子に体を預けると手足を組んで目を閉じた。わざわざフードを脱いで目を閉じているのを見せてくるあたり律儀だ。……年下の相手をするのはあまり得意じゃない。年上の相手も得意じゃないが。

「はあ」

「溜息つくことないじゃないか」

 目は閉じたままだが、椅子の上で膝を抱えている。寝る気はないらしい。

「……寝ないんならいくつか質問に答えろ」

「いいよ。なんで魔王を復活させようとしているか、とかだろ。どうせ」

 あってるんだが、癪に障る。

「他にもある。」

「じゃあ、その箱が何なんだとかだろ。後は日照りの魔法の役割とかか」

「その通りでございます。だが、別の質問からさせてもらおう」

「ん?他か、なんだろう」

 研究員は目を閉じたまま首を左に傾げた。よし、と心の中で小さくガッツポーズをした。何となく勝ち点を得たような気持ちになったからだ。

「憧憬の魔法使いって知ってるか」

 やや危うい質問なのはわかっている。まずこの名前が出てくるためには魔法の解析能力が必要だ。俺の素性を不問にすると言っているコイツにだからこそ出来る質問だ。知っていればコイツが魔法の主か、もしくはフェーデ全体で憧憬の魔法使いの存在が重視されているか、そういった質問に派生する。

「憧憬?二つ名だろうか。うん。知らないかな」

 が、頓挫した。まあ、術者じゃないことがわかった。若い世代ではその名を知っている人は減ったとローレンツ殿が言っていたから知らなくてもおかしくはない。

「その憧憬がどうしたんだい」

「あの魔法に関わってるのではと気にしている知り合いがいるんだ」

 研究員は少し考えた後、何かに思い当たって合点がいったのか、少し困ったような顔をしてから笑った。

「ああ、その知り合いが、あの日照りが魔法だと気が付いたのか。すごいね。素晴らしい才能だ」

 ねっとりした口調に魔法使い特有の才能至上主義を感じる。術者でもないのに、妙に上から目線に思えるがその心理は所属する集団の技術を誇らしく思っている、とかだろうか。あるいは魔法を使ったものに対する畏怖か。

「他の質問はさっきお前が言った通りだ。途中気になったら別で質問させてもらうが、いいか?」

「うん。構わないよ」

 金刺繍が誤魔化したようなことをコイツが知っているとも思わないため、黒い箱についての情報はあまり期待できない。

「魔王を復活させる理由は、僕はよく知らない。次、黒い箱は魔物の核だ。最後、日照りの魔法は人払いと、魔王を復活させるための準備。さて、質問をどうぞ」

 簡潔すぎてびっくりした。しかもまさかの黒い箱の情報が来て、魔王関連が曖昧になった。コイツ、変な立ち位置にいないか?フェーデの身内と言えばそうなんだろうが、完全な賛同者ではないらしい。

「お前、フェーデのなんなんだ?」

「言っただろう?ただの研究員さ。末端のね」

「末端には目的が知らされないのか?」

「いや、僕が聞いてなかっただけ。他のみんなは目的に向かって自ずから邁進しているよ」

 片目が開いてこちらを見た。あまりにもふざけている。

「じゃあ、なんで協力なんか」

「他にやることないから?」

 呆れた、そりゃないだろ……。見たとこ十代で、食に対する興味が薄く、体力がない。魔法が使えて、帝国の文字が読め、研究員の肩書を得るだけの学問素養もある。だったら、おそらくどこそこのお坊ちゃま(お嬢ちゃまかもしれない)とかだ。お行儀が悪いところを見ると、長子ではないだろう。親族がいる組織に仕方なく所属してでもいるんだろうか。

 分別がついていないのか、世間知らずなのか。コイツはおそらく自分が提供した情報によって何が起きるかに興味がない。ありがたくフェーデ壊滅の判断材料とさせていただくことにする。

「……、ンフフ。」

「何がおかしい。」

「いやね、君の鋭い魔法使いの知り合いに免じて僕の名前を教えておこうかとおもって。」

 不要な情報だな……。まあ、良いか聞いておこう。

「僕はエンデ。魔法使いのエンデだ。」

全然話進んでないのに10万文字を突破してしまった。

全ての話を黒歴史として放出して、葬り去ります。頭の中に取り付いた創作意欲を不可逆な状態にして殺すんです。

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