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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
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38/102

魔王

 魔王の復活?そんなことをして何になる。

「阻止するかい?」

「いいや、命が惜しい」

 まあ、嘘だ。仕事だし……。フェーデを壊滅させるならその目的も食い止めることになろう。

「なら逃げるのを勧めるよ。魔王が復活すればこの周辺にいる人間ははみんな仲良く死ぬからね。」

 もしかして、その被害を軽減するために日照りを起こしているのか?住民が勝手に避難するよう仕向けて。

「悪いが、信じられないな。魔王なんて伝説上の諸悪の根源を人為的に復活させられるわけがない。」

 魔王も、勇者も、憧憬の魔法使いも、結局は壊れつつある世界に原因と物語を求めた結果生まれたただのおとぎ話でしかない。

「それはいいね。特等席が用意できる。冥途の土産にでも見てみると良い、ある破綻した願いの末路を」

 どうしてこうも妙な言い回しをして核心を避ける様な奴ばかり出てくるのだろうか。説明がだいすきなフェルミドール君を見習ってほしいものだ。

「……復活させた魔王はどうするんだ。誰が倒すんだ」

「さあ、知らないよ。その辺の勇者とかじゃないか?」

 研究員は窓の外をぼんやりと眺めながら心底どうでもよさそうに答えた。こんな軽い調子で世界が滅亡に導かれてたまるか。

「そんなことより君、外の気配に気づいているかい?」

「魔物だ、8体くらいか?」

 城についたあたりから感じていた気配の正体は、おそらく魔物だ。あの鈴の音には聞き覚えがある。荷物の周囲に魔物が湧くとは聞いていたが、こんなに集まるとは。魔物は3体以上増えたらそれなりに命の危機だ。

「うん。合っているよ。随分と余裕だな。脅威を策定出来ないということでもあるまいに」

 薄紫の目は周囲の音を気にするように閉じられている。

「なぜか近づいてこないからな」

「鋭いね。……灯りを怖がっているのさ」

 それはすごい。釘の代わりに街灯を結界にしていたのか。中央の街灯にその効果があると聞いたことはないが、釘がその効果を曖昧にしているのだろうか。

「まあ、このまま放置していても良いんだが、せっかくだし仕事をしてもらおう。数体間引いてもらっても良いかな?君も作業中に耳元を羽虫が飛んでいたら不快なのはわかるだろう?吸われるんだよ、集中が。」

 これまでの口調が温和だったこともあり、今の嫌悪感が露な言葉には棘が目立った。こうイライラしている魔法使いの近くにいては俺が羽虫になりかねない。さっさと魔物を倒すか、コイツから逃げるのが得策だろう。

「羽虫ならあんたが処理すればいい。魔法使い様には羽虫でも一般人にはそうじゃないことをわかってほしいものだ」

「の割には乗り気じゃないか。行ってらっしゃいな……はは、一般人は窓からは出て行かないものだよ」

 窓枠に手をかけて飛び越える。……なんか言われた気がする。


 8体か。まあ、何とかなる。が、8体やってしまうと逆にまずいだろう。3体くらいでとどめておくべきか、いやでも5体も残すのはもったいないような気がするしな……。4体にしとこう、4体。

 さあて、仕事の時間だ。

 街灯が照らす通りをさっさと走り抜け、微かな鈴の音を追う。あれは、魔物を操る魔物だ。鈴の音で仲間を呼び、癒す。あいつを先に叩かないと埒が明かない。2級以上になって初めて対峙の許される敵だ。だが、それ自体は魔物を従えて初めて戦力になる逃げ足が速いだけのつまらないザコだ。

 あの研究員、結局男女どっちなんだろう。まあ、魔法使いの素質に男女の差別はないから、どうでもいいか。

 鈴の魔物はすぐにどこかに隠れてしまう、スカウターがあるとかなり楽に倒せる相手だったんだが、爆散してしまったから自力で探すほかあるまい。

 ここからだと親指から小指まで2つ分ほどの高さに見える城壁にも街灯は括り付けられている。明かりを怖がるなら、都市に入った魔物は閉じ込められることになる。となると、昼の間も灯りは点けっぱなしだったんだろうか。大変明るくてハッピーな町だったに違いない。ハッピーな城壁と大通りとは対照に、町の中腹はアンハッピーな領域のようだ。灯りが用意されていない。吊り下げられた布で仕切られた区画に、明らかに不安定な木造建築。スラム街だ。おまけに紛れ込んだ魔物の逃げ着く先もここときた。狭くてちょっと戦いづらいな。

 鈴の音は聞こえなくなってしまった。

 代わりに、影のように黒い、鋭い棘のようなものが2方向から飛んできた。飛び退いて避ける。棘は地面に刺さることなく、ヒュっと音を立てて飛んできた方向の暗闇に消えた。

 ……針の魔物、と俺は呼んでいるが、フェルミはゲール直伝呼称であるニンジャと呼んでいる。ニンジャとは、ショウグンに仕えていた凄腕の暗殺者集団だそうだ。ショウグンは、殺されそうになると「ハラキリ」と叫びながら自害するらしい。ゲールの使っている刀は、このショウグンが使っているとされるものを模造して作られた特注品だ。一時期ハラキリが流行語になって、その流行りは血を使う類の魔法使いの技名に継承されている。

 ともかく、針の魔物だ。これも2級の魔物。厄介なのは2体同時に襲い掛かってくることだ。飛び道具の長い針は持ち主と細い糸のようなもので結ばれていて、挙動が読みにくく間合いを詰めるのが難しい。

 金刺繍は、魔物は減ったと言っていたが、上級が残っているんじゃ下級が勢ぞろいしているのと大差ない。鈴の魔物を残して、数を減らしたというのは中々の頑張りだが、これは相当フェーデも痛手を負ったんじゃないか。魔物に詳しい人員は不足していると見ていいだろう。

 針の魔物は、初撃は必ず奇襲を行うのにそれを避けると礼儀正しく姿を現すのが面白いところだ。2体の小柄な黒い影は俺の正面に立ってお互いの針をカツカツと打ち合わせ、俺が剣を抜くのを待って、二手に分かれて闇に紛れた。

 暗い中で相手するのには向かない敵だ。しかし、微かだが、確かに足音も、針を投げる音も聞こえる。それにこの雑然としたスラムは飛び道具を使う者の戦場には向かない。勝機は大いにある。

 敵の位置は背後と、右手側。背後の1体が針を投げる音がした。時間差で攻撃するつもりか。軽く地面を蹴って右斜め後ろに避ける。これで右側の敵は自分の針が相方の針に干渉するのを警戒して針を投げるのをやめるだろう。素早く足音が近づいてくる。読みが当たったらしい、針を投げる代わりに自ら近づいてきた、好都合だ。俺の左側を突き進んだ針が戻っていくのを横目にとらえる。ほぼ正面方向から大きく旋回するように近づいてきた影が跳躍した。背後で再び針の空を切る音がする。背後と、正面からの挟撃。……避けてしまえば味方撃ちだ。

 正面の魔物が空中で振り下ろした針を力任せに打ち上げる。姿勢のくずれた影が防御するようにかざした腕を引っ掴んで引き寄せ、背中を支えてその場で半回転する。飛んできた針に向けて軽く突き飛ばすとドス、と鈍い音がしたので、刺さっただろう。短い悲鳴のような音が魔物から漏れた。刺さった針から伸びる糸と、針を持つ腕を切断する。

 カラカラ――と、彼方から鈴の音が響いた。

 かかった。鈴の魔物は屋根の上だ。切り落とした腕から針を拝借して、音がした方にぶん投げる。仲間意識か知らないが俺の前に姿を現してしまったのが運の尽き。……姿がないならおびき出せばいい、だから針の魔物の頭は落とさなかった。

 何かにぶつかったような濁った鈴の音がして、風鳴りのような妙な音を立てて体に戻ろうとする腕の動きが止まった。鈴の魔物はやれたらしい。

 ……魔物の背中に針がない。糸の修復は終わってしまったか。

 足元に小さい棘が飛んできた。距離を取る。針を回収した魔物が、相方を庇うように立ち塞がった。庇われた片腕の魔物は屋根の方に飛んだ。俺が投げた針を取りに行ったんだろう。……背中がガラ空きだ。

 ただ、相手は俺が剣を抜くまで待った。俺にだってそれなりの礼節はある。

 2体揃うと、それらは再び針を打ちつけて鳴らした。

 影は暗闇の中を素早く縫って移動し、縦横無尽に攻撃を繰り出してくる。腕を失った方はあまり針を投げなくなったが、中々近づいては来ない。一体に夢中になって少しでも気を抜けばあっという間に針の筵だ。

 正面から飛んできた一撃を弾いて剣をそのまま手放し、短剣に持ち替える。リーチはこの際役に立たない、少しでも隙のない武器の方がいい。前に倒した時はどうやったんだったか。忘れてしまった。

 斜め上から来た針が地面スレスレのところで糸に引かれた。ピンと張った糸に刃を当てる。ぷつりと糸は切れ、勢いを失った針が地面に落ちた。

 奪おうかと思ったが、すぐさまその周囲に小さい棘が撒かれたので放置。左から来た片腕のない方の突進を躱し、逆手で持った短剣を首を突き立てる。頭を掴み剣で真横に裂いた。直後に棘が飛んできたので手を離して引き下がったが、頭を失った魔物はそのまま力なく崩れて霧散した。

 もう一体に集中する。針を拾ったところだった。さっきから投げてきているあの棘……1回踏んだことある、ただでさえ痛いのに、毒が塗られているから歩くどころではなくなる。あれを踏んだらほぼ負けが確定すると言っても過言ではない。その時はかなり削った後だったからゴリ押して勝ったが。

 針も、糸も体の一部なのか倒した方の魔物の武器は体と一緒に溶けてしまった。もう一体のほうも既に糸は切ってある。これで遠距離攻撃はあの棘だけを警戒すればいい。

 なにが来るかと身構えたが、仲間を失って焦ったか相方の最期の攻撃と同じ突進が来た。俺が躱したのは見ていただろうに。せめて別の攻撃を当ててやろう。上に飛んで大剣を振り下ろした。あっけなく直撃した剣が頭にめり込んだ。俺が着地したと同時に、針の魔物は消えた。

 地面に落としてしまっていた長剣をしまい込む。……まだ建物の影に複数の気配がある。短剣と大剣も鞘に納める。商館の方に足を向けた瞬間に、奇襲のつもりか5体同時に小型の魔物が飛んできた。上級とは違って、明確な形を持たない、なりそこないのような魔物たちは、そういえば歌いに少し似ている。影を液体にして、その中に夜空を内包したような見た目のそれは、泥の歌いよりあるいは親しみやすいかもしれない。低級たちは横一文字に薙ぎ払った剣で簡単に沈黙した。挑んでこないならば消す必要もない相手だ。

 後ろから足音が近づいてくる。

「8体全部やるとはね。」

「見ていたのか」

 振り返ると、消えていく魔物たちが発する黒い霧から研究員が出てきたところだった。先ほどと違ってローブをしっかりと着込んでいるのであまりにも胡散臭い。

「なら手伝ってくれよ」

「そう思って来たんだ。でも必要なかっただろう?」

 否定はしないが、あれはそんなに面白い敵でもないから、さっさと終わった方が嬉しい。研究員はすっかり魔物の消え去った周囲を気だるげに見ている。……コイツ、たぶん強い。少なくとも魔物はそう判断していただろう。あの魔物たちは、ずっと控えていて俺があの箱を手に取ったあたりでこちらに近づき始めた。

 魔法使いの難点に、彼らがいると魔物が逃げるというものがある。一見良いことのようだが、それは討伐を難しくする原因にもなる。強い魔法使いほど護衛任務に抜擢されやすいのもそういった理由だったはず。

「しかし、何度見ても気分が悪いな。血を流すでも、呼吸をしているでもないのに首を落とすと死ぬだなんて。人間じみた真似をする……」

 なるほど、確かにクビが弱点であることに蓋然性はないようだ。だが、人間じみていると感じたことは無い。見た目が離れすぎているからだ。

「弱点がわかりやすくて良いと思うが」

「賛同しかねるよ。……帰ろうか。夜は冷えるね。」

「夜中に魔物が湧いたらどうする?見張っておくか」

 その辺に何か落としていないか確認して研究員の後を追った。

「いや、いいよ。灯りを絶やさなければ問題ないし……。なあ、君カルネの人間じゃないだろう。取り繕うのは面倒だろうし、僕はどんな事情でも告げ口しないよ。名前を教えてくれるかい」

 前を歩くフードは、思い出したように笑って言った。や、やばい。何でバレた?低級の魔物だったら、この辺の人間は易々倒すって聞いてたから大丈夫かと思ったんだ。

「え!や、俺はシャルルさんの息子で――」

「名前を教えろ」

「ね、ネルル」

 事前に用意していた偽名だ。

「名前」

 通用しなかったらしい。底冷えするような声だ。

「クレフ!レインハイム出身のクレフだ。」

「へえ、クレフね。覚えておこう」

 とりあえず、聞き覚えのある名前ではないらしい。機関とのつながりは暴かれずに済んだか……?

「あんたは……」

「何故非魔法使いごときに、僕が名前を教えなくちゃならない」

 な、なんだコイツ……やっぱり魔法使いは嫌いだ。

「せめてなんでわかったのか教えてくれ。俺にも遂行しなくちゃならない仕事がある」

「色々あるよ、1つ挙げるなら剣か。このあたりのとはだいぶ違う。その辺の古戦場に行けば剣はいっぱい刺さってる、行ってみると良い」

 剣技とかでもなくて、剣そのものか。

「はあ、助かる……」

「そんなに落ち込むな。嘘の出来はどうかと思うけど、剣のことなんか誰も気づかないよ。心配することはない」

「嘘を付く状況にならないことを祈ろう」

 嘘は得意じゃない。

 仕事において、俺の理想は「そつなく、ミスなく、かっこよく」だ。悲しきかな俺はその対極にいる気がする。なんか……「ミス、ミス、殺害」って感じだ。

「おい!歩くのが早すぎる。ちょっと待て……僕は歩き慣れてないんだ!」

 いつの間にか研究員を追い越していた。これで怒られるのは理不尽な気もするが……またミスをした、らしい。憂鬱!

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