表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エント
35/102

企み

 歌によってタイムリミットが4日と定められたわけだが、その間に自分でも言語を学ぼうという気持ちはある。情報収集に当たっては、コミュニケーションは重要だ。相手がカルトらしいことは懸念すべきだが。

 その施設はかつての遠方監視拠点を流用したものらしい。石造りの重々しい残骸におそらく遮蔽用の建築材が張り付けられていて、どこか突貫工事感が否めない。

 木でできた門戸の前にはその手に槍をもった門番らしき黒服が2名いる。なるほど、カルト。フードのついた黒いローブを目深にかぶっていて、個々の判別が出来ない。儀式でも執り行うのだろうか、ローブは胡乱というよりは格式高い雰囲気を醸し出していた。俺が近づくと彼らは槍を構えてこちらを警戒した。

 両手を上にあげてその場にとどまる。

「要請を受けてカルネから来ました」

「……」

 番兵は少しの間顔を見合わせた後、緑青のついた呼び鈴を鳴らした。

 しばらくすると、門の小窓から金刺繍の黒服が顔を出した。こいつも顔が見えない。

 ……これは、情報収集は難航しそうだ。まず顔がわからないので、話しかけづらい。刺繍のある黒服は間違いなく番兵よりも上の立場だろう。

 顔を隠す必要があって、構成者は地域に限定されず、学者筋の可能性あり、監視拠点を活用して非効率にならない程の人数……。どこかから急に湧いて出た新興勢力ではなく、既存組織に所属中で、潜伏していた類の寄せ集めか?そうであれば、この集団の根は深いと考えられるな。

 ……ちょっと待て、そうであれば俺の顔を知っている人間がいてもおかしくないのでは?自慢にもならないが、俺は結構有名人なのだ。俺も黒服をもらえないだろうか。俺の正体がばれていて、かつ憧憬が宣戦布告である場合、おそらく招き入れられはするだろうが何か罠があるに違いない。

「兵、武器は持ってきたか」

 こちらをじろじろと嘗め回すように見ていた(だろう。視線がフードで見えない)金刺繍がようやく口を開いた。声を聴いて少し意表を突かれた。女だ。有無を言わさぬ落ち着きのある、高貴な声が門の奥、フードの影から聞こえる。

「はい、長剣、短剣、大剣を。」

 鋳つぶされる可能性を見越して一応、安全のために盟約の剣はカイエに預けてある。

「ふむ。十分だ」

「これで村を焼かないでいただけますか?」

「それはお前の働き次第だ。魔物との戦闘経験はあるか」

「あります。複数いなければ何とか退けられる程度です」

 世間的には少し腕が立つ程度の実力を申告する。

「……なるほど。まあいい。中に入れ。少しでも妙な動きをしてみろ、お前の父や妹たちがどうなるかは分かっているな」

「一生懸命やります、どうか家族には手を出さないでください……。」

 まあ、村にはカイエがいるので一時的に凌ぐ程度なら問題ないだろう。そして、少なくともこの刺繍には怪しまれてはいないようだ。第一関門は突破したと言ったところか。

 合図とともに小窓が閉じられ、番兵が門を開けた。

 石塀の中は外から見るよりも広く見えた。それどころか、小規模な城下町といって差し支えない程の広さと、黒服の数があった。内心に焦りを感じる。これを、壊滅させるということの重みが、漸く心に圧し掛かった。

 1つの共同体を滅ぼすことになる。たとえそれが唾棄すべき教義を抱えていたとして、それを滅ぼして良いという決定権は誰が持っている?唾棄すべきと判断するのは誰だ?少なくとも、俺ではない。だからと言って、中央か?

 ……服装から察するに組織内の序列はある。だが、この人数の組織を俺一人が壊滅に至らしめるのは無理がある。大規模な爆発でも起こすか、集団催眠にでもかけない限り。一旦考えるのをやめて周囲を見物することにした。

 まだ組み立て中なのか、あるいはそれで完成形なのか判別のつかない櫓のような建物群がいくつかある。それ以上に目を引くのが監視塔と、それを守る砦のような建物だ。

 砦があるのなら、石塀などは些末なもので良いはず。砦を落とす兵器など、とうに廃れてしまったのだから。では、その砦で何を守り、石塀で何を隠そうとしているのかが問題というわけだ。あの監視塔だろう。あれがなんだというのだろうか。

 情報収集の期限は4日。背後で固く閉ざされた門の音を聞く。外部との繋がりは断たれた。

 さて、仕事の時間だ。

「兵、お前の仕事は荷運びだ。指定された地点から、地下の作業場まで荷物を運べ。」

「はい。」

「運搬途中には必ずと言っていいほど魔物に狙われる。その場合は対処しろ」

「わかりました。」

 軽く言うが、魔物との応戦は一般的に言って中々骨が折れるのだ。しかし魔物がねらう荷物か……。

無からは何も生じないという考えを根強く否定するのが魔物や魔王、そして魔法の存在であって、得てして魔物はどこから現れるのか不明だ。魔物を呼び、それに関心を向けさせることが出来る何かがあるとすれば、それはとてつもない利用価値を持つのではないか?

 金刺繍はメモだろうか、何かを見ながら俺に指示を出した。

「指定地点は、この拠点から西にある廃棄された街道の終端。エントの中心部だ。少し遠いな」

 エントの中心部……荷物と言ったら人のいる場所から、人のいる場所に送るものじゃないか。エントの中心はフロンティアの先だ。もう人間の土地ではない。

「荷物の回収はこれで最後だ。前ほど魔物もいない筈だ。……どうかやり遂げてほしい」

 金刺繍は懇願するように言葉を絞り出した。俺の最終的な目的は、組織の壊滅だ。相手が冷酷非情であることがどれほど重要だったかわかってほしい。

「わかった」

 生業から逃げられないような感覚がした。

「早速向かってくれ。装備は支給できないが、問題はないな」

 是。むしろ俺は素人臭いほどの過重装備だ。もはや騙し討ちが利く相手もいなくなってしまったが……。

「地図は読めるか?」

「読めます」

「歩いていくことになるが、水は持っているか?その剣は重くないのか?」

「問題ないです」

「危うくなったら撤退しろ。荷物は逃げない。したがって、急がなくとも良い。報告さえ欠かさなければ村には手を出さん」

 なんだ?転職するか?まあ、人手不足で慎重になっていると言ったところか。どんなに丁重に扱われようが、役目を終えた後に口封じだとか言って殺されかねない。まあ、反撃すれば良いだけだが。

 刺繍の女の後に続き、監視塔の横を通り過ぎた。施設内を進んでいくが、この奥に建物は見当たらない。見る限り、出入口は入ってきたあの門のみだ。目的地はこの施設の外だというが、どこでつながっているのか。建築途中の櫓に資材を運搬している数名の黒服を横目に進み、だんだんと塀に囲われた区域内の端が近づいてきた。終端にも入り口の番兵のように、黒服が2人いた。

 金刺繍が彼らに手を挙げて合図すると、黒服たちは地面に向けて持っていた木の棒……魔法の杖と表現すべきか。いや、あれは魔法の杖だろうが、良い感じの木の棒だ。で地面をコン、と突いた。

 陣が展開し、地面が眩い光に包まれたかと思えば、地下に続く階段が現れた。魔法はこんなこともできるのか。

「帰った時に階段が塞がれていたら天井を3回叩け。それが合図になる」

「わかりました」

「目的地は西だ。間違えるなよ」

「はい」

 地下通路に足を踏み入れる。外と遮断されていた空間は薄暗く冷えていた。

「荷物の外見を教えていただけますか」

「おそらく黒い、箱だ。」

「……」

 おそらくとは何だ。目的地について、荷物が見つからなかったらどうするんだ。さっき、荷物はこれで最後だと言ってたから、おそらく他にも荷物はある。それは黒い箱だったのか?じゃあ、黒い箱じゃない荷物もあったのか?まあ、口ごたえして怪しまれるのも嫌だ。自分で探そう。それっぽいの全部持って帰ってくればいいだろう。

「中身は何なんですか?」

「お前が知る必要はない」

 とは言え、一応家族を人質にとられている立場なので、この集団とは敵対関係にある。あんまり言うことを鵜呑みにしていると、それはそれで怪しいと思うからちょっとつつく。まあ、思った通り答えは帰ってこなかった。突撃してもあまり意味はない、と。

 魔物が狙う荷物を集めているが、その荷物について詳しいわけではない。さて、彼らの目的は何なのだろうか。考えても仕方ない。口の軽そうなやつでも見つかると良いが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ