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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
エント
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エント

 あの高く聳え立つ塔の麓で、輝かしく栄えたかつての帝国の凋落は、意外にも経済の混乱から始まったとされている。

 版図拡大の最中、周縁部にあった「黄金のエルク」と呼ばれる都市が前触れなく崩壊に巻き込まれた。運悪く、帝国はその都市の産出物を硬貨の価値の担保としていた。

 かの混乱が直接の原因となったかは不明だが、今となっては数少ない文献が伝えるのは、版図拡大を牽引していた軍人が帝国を見切りをつけ、その外に領邦を作り、君主や貴族となったことだ。

 世界に魔物が溢れる中、伝承は塔こそが、魔物を遠ざけ土地に安寧をもたらすものだと伝えていた。恐慌の最中、塔は略奪にさらされ、削られ、釘として各地に持ち出された。そして、突如塔から闇が広がり、魔王が顕現した。

 帝都は打ち捨てられ、長く、釘の奪い合いが続いた。


「なんでエントの話をするのにこんな昔話をしているのかというと、エントは釘を持たず、人間の力だけで数多の悪意に打ち勝ってきた偉大な国だからだ。」

 それで軍備を拡大をして機関に目をつけられたというわけだ。トドメを刺したのが自然災害だというのが機関の運のよいところというか、なんというか……。

「だが、結局崩壊に飲まれた。」

「魔物には勝てても、土地ごと国が消し飛ぶようなのはどうにもならないわね」

「そういうことだ。」

 流石エントの土地というべきか街道に馬車が出ているらしく、俺たちは運よくそれに乗せてもらえた。俺は荷馬車しか見たことがなかったので、人を運ぶ専用の馬車があることに驚いた。乗り心地はあまり良くない。

 そういえば荷馬車の警護なんかは下級の仕事でわんさかあった。あの仕事は好きだ。たまに乗せられる絶対に訳ありだとわかる馬車が特に面白かった。ありえない程滅茶苦茶襲われるからだ。

「世界は広いわね。アシュハイムは帝国の領内で、そのまま分裂して独立したものだから、どこもそんな感じなのかと思ってたわ。あの土地は、なんだかずっと平和だったという話よ。」

「そりゃそうだ。あんな広場に釘がむき出しで置いてある都市が平和じゃない訳がない。……それでエントの首都はもうないんだが、辛くも逃げ延びた勢力は多くてだな。今回依頼をくれた村もそういうルーツを持つところだ。」

「何も知らなければ長閑でいいところね」

 馬車の窓から見える景色は、どこまでも、地の果てまで平原が続いていて目が眩む。空は高く、風が草原を渡って行く。

 原風景というものだろうか。それはどこか懐かしく、素晴らしい景色に見えた。失われた古い価値に対する身勝手な、憧れに似た感情だろう。生きるため、狭い都市にギュウギュウと己の区画を主張しながら生きている俺たちは、広い場所に弱いのかもしれない。

「目的地は日照りが続ているらしいからどうなっているやら、わからないが……」

 現地にいるカルトというのは何を考えているのだろうか。人払いのためだろうか。日照りでは自分たちも困るだろうに。

 

 ヴェルギリアを出発する前、先行して調査に向かった魔法部門の最高執政官に謁見する機会を得た。彼は現場に到着するや否や撤退を決意したそうだ。土地全体を覆うように魔法がかけられていて、魔法使いとしてとても太刀打ちできる相手がいるとも思えなかったらしい。せめて何か情報を、と魔法の解析を行ったところ、長期にわたる日照りはその魔法が原因であるとわかり、さらに撤退の意思を固くしたそうだ。規模も、強度も前代未聞の規格外であるらしい。

「日照りね、魔法なのでしょう?また魔法兵器かしら」

「……それは俺も考えたのだが、ローレンツ殿は、魔法兵器にしては明確な意思を感じるから、魔法使いがいると考えた方がいいと言っていたよ」

「私が準備している間に話を聞きに行っていたのだったわね。私も一度ご挨拶しておけばよかった。」

 そうか、カイエは魔法使いなのだから彼の部下ということになるのか。

「ローレンツ殿は機関の人間には珍しく、癖がないし飾らないかっこいい人だよ。俺もああなりたいものだ。……なんだその顔は」

 魔法部門の執政官ローレンツ殿は、ゲールクリフのように武勇で地位を築いたタイプではない。学術の貢献によって推挙されたのだそうだ。確か少し前にフェルミが話題に挙げていた、魔法による街灯は彼の発明だったはずだ。それから、道具があればそれなりにだれでも魔法が使えるようになったのも主に彼の功績だ。彼自身はもともと非魔法使いということもあり、とても親しみやすい好人物だ。まあ、それが元来、生まれながらの才能に重きを置いてきた魔法使いという人種に荒波をたてたのは間違いない。

「そういえば、君は憧憬の魔法使いの伝説を知っているか?」

「唐突ね。知らないわ。」

「やはりそうだよな。俺も詳しく知らないと言ったらあのローレンツ殿が目を輝かせて話をしてくれてだな。『憧憬とは、魔法への誘い、その導き、たどり着くことなき絶望』だそうだよ」

 かっこよかったので覚えた節を諳んじる。

「よほど凄い魔法使いなのね。それでどうしてその魔法使いの話に?」

「その日照りの魔法にその名前が組み込んであったそうだ。君もそういうのをしたことがあるか?」

「ないわ。……少し古い型の魔法かしら?誰の魔法か、がとても大事だった頃の」

 感心した。機関にいた短い間、彼女が本を読んでいるのを何度か見かけた。フェルミと話していた時は魔法について詳しくないと言っていたから、今のはきっとその間に得た知識だろう。凄い。適切な資料を探すのだって骨が折れるというのに。

「すごいな。それはちょうど彼も言及していた。ただ、今も願掛けとしてそういうことをする連中はいるみたいだ。彼が言うには大きい魔法を成し遂げるために憧憬の名を借りたんじゃないかって。」

「憧憬の魔法使いはエントに縁があるの?」

「いや。えー……わからない、が最適な答えかもしれない。彼も悩んでいたよ。憧憬の魔法使いは勇者と共に魔王を退けたとされる伝説の魔法使いで、逸話こそ残っているが実在すら怪しい人物だ。」

「昔の機関の勇者と魔法使いのぺア制度ってそれ由来だったりするの?」

 頷く。彼女は首を傾げた。

「……勇者の伝説なら、中央や帝国の側に根付いた物よね。」

 中央はその威を借りているだけだ。というか、もともと中央は帝国の残存勢力の敵だった。らしい。

「そうだ。エントにも指折りの魔法使いは多い。何故わざわざ憧憬なのか。まあ、曰く、魔法使いは須らく彼を崇拝すべし、らしいから何とも言えないそうだ。」

「まさか、その魔法使いを崇めるカルト……?」

「その発想はなかったな。」

 しかし、もしそうであるならば、相手が魔法を読み解けるほどの実力者であると想定して名前を魔法に記した?伝説の威を借り、世界をわが物顔で支配する中央に、真の憧憬……伝説の継承者は我々であると主張するための宣戦布告、ともとれる。中央に依頼をだしたのもそれを伝えるため、ということも考えられなくはないか……。でもなぜエントが。エントも帝国から独立した勢力だったか?釘無しのイメージが強すぎて全然覚えていない。

「思ったより面倒な依頼かもしれない……。」

「あら、強い魔法使いがいるのは嬉しいんじゃなくて?」

「まあ、……うん。」

 でもな……大勢で頑張ればもしかしたらあの日照りの魔法も完成するかもしれないと言っていた。魔法使いが沢山いたら嫌だな……。魔法使いって大抵なんか性格悪いし。しかもその場合、日照りの魔法を完成させた魔力カツカツばかりだ。

 いや、積極的な戦闘員ではないとはいえ、ローレンツ殿は魔法の大家だし、結構強い。カツカツの魔法使いしかいないと判断していたなら撤退しなかったはずだ。撤退したということは、他にも何か不安要素があるのか。

 これは殲滅という名の与えられた謎依頼のリスク調査……というわけか。貧乏くじだ。無事に帰れることを祈ろう。

設定をよく確認しなかったせいで、あとあとの展開が苦しくなっていてます。

辻褄合わせに夢中になっているため、次の話まで時間が空きます。

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