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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
アシュハイム編
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歌狩り

 議会の扉はバリケードのようなもので封鎖されていた。掻い潜って扉をたたく。ゴンゴンと重厚な音がした。

「ごめんください」

 返事がない。耳を扉に押し当て中の様子を窺う。それなりの人数がいるようだ。「歌狩り」「避難者」「歌うたいの夜(?)」などの単語が聞き取れた。混乱している様子だ。歌狩りは俺が思っているより恐ろしげなものなのかもしれない。彼女は大丈夫だろうか?

「ごめんください。中に入れてもらえないか」

「大丈夫か!すぐに開けます!周りに何もいませんか!?」

 周囲を窺う。

「いない」

「よし。開けるので下がってください」

 扉がゆっくりと開いた。中から顔を出したのは少しやつれた雰囲気の男だ。30代前半と言ったところか。俺の兄と同い年くらいだろう。中に通されれる。エントランスには10人ほど男がいた。いかめしい雰囲気だ。

「やあやあ、大丈夫ですか。ここは安全です。」

「お前がバリケードまで作ったからな」

「ぜってえ要らねえよ。あのバリケード」

 バリケードは不評なようだ。確かに今まで民家や施設がちらほらあったが、バリケードをしているのはここだけだ。しかも扉を封鎖できていない。

「何が起きるかわからないだろうが!クジラ座のことと言い、この霧といい、今年は何かがおかしいんですから」

「霧はいつでも出てるだろ」

 そうだそうだとヤジが飛ぶ。

「まあおかしいというのには同意しよう」

 俺を外野に議論が進んでいく。しばらくして一人の議員が思い出したようにこちらを向いた。

「そうだあんさん、セローを見なかったか?」

 問いかけたのは扉を開けたのとは別の男だ。先ほどの男よりも2回りは年上だろう。

「セローとは」

「きみ、外の人か。……この時期に?入国禁止になってるはずですが。まあいい。セローはちょっと禿げた中年ですよ」

 扉を開けた男が補足する。ちょっと禿げた中年は知らない。

「美女には会った」

「美女だぁ?幻覚でも見たんじゃねえのか」

「いや、水色の髪に赤い目の」

 各々議論していた男たちの視線が一気に集まった。「カイエちゃんじゃん。」「カイエゲルダだな」「セローなんかどうでもいい。カイエちゃんに何かあったら大変だ」などとざわめきが広まっていく。なるほど彼女がカイエゲルダだったか。サインをもらいそびれた。そしてやはり外は危険らしい。

 ……カイエゲルダはクジラ座の女優だ。彼女、部外者のような口ぶりじゃなかったか?

「俺はクレフという。中央機関所属の勇者だ。クジラ座の座長からの依頼で魔物の調査を行うために来た。何が起きているのか状況説明を求める」

「なるほどお役人さんか」

「魔物?……おい、カテリーナのやつなんか企んでんじゃねえか?」

「てかあいつまじどこ行ったんだよ」

「やはりセローがコソコソ動いてたのはカテリーナを排斥するためか」

 反応はまちまちだが、どうやら議会には何かもめごとがあるようだ。議員たちはコソコソと議論を始めた。議論癖があるようだ。俺はまた蚊帳の外になったので聞き耳に徹する。議論は俺を議会の側に引き入れようという点に着地しようとしている。扉を開けた男はこの場にいる中では比較的若く見えるが、まとめ役を担っているようだ。彼がこちらに向き直った。

「クレフ殿、この共和国は今危機に瀕しています。どうか我々の議会にお力添えをいただけませんか。」

「俺にできるのは魔物を倒すことだけだ」

「ではその目的を果たすために最大限の援助を行いましょう。必要な情報もお与えします。」

 いかがですか?と扉を開けた男が言う。クジラ座座長のカテリーナは議員らしいが、おそらくカテリーナと議会は敵対関係にある。議会と手を組むと依頼者を裏切ることになりかねない上、下手に便宜を受けると最悪収賄の罪に問われる。慎重に動く必要があるだろう。しかし、カテリーナは消息不明のようだ。とりあえずカテリーナがとんでもない悪人であることを期待して議会とつながっておこう。

「力を貸そう。だが、情報以外の援助、あるいは報酬は絶対に受けない。念のために言っておくが、何かよこしたら贈賄を機関に申告する。そして俺は下っ端だから便宜にあまり意味ない」

「これはこれは。真面目な方だ。」

「ともかく、現状の説明を頼……」

 言い終える前に、その場の誰もが凍り付いた。突如けたたましい音……声?が響いた。うなり声のようなその音は、建物の外から世界を貫くように響いている。空気が震えあがる。本能的な不快感が世界を揺らしているかのように思えた。

「……歌が始まったか。」

「歌?これが?」

 皆顔をしかめている。音の質は全く異なるが、黒板を爪でひっかいた時の不快感に近い。思わず目をつぶる。

「クレフ殿、あと3分ほど歌は続きます。耐えられますか?」

「問題ないが、何なんだこれは」

 眉を顰めて議員の方を見るが、慣れだろうか、窓の外を見て平然としている。

「説明はあとです。とりあえず耐えてください」

 建物がカタカタと鳴る。うなり声に加えておぞましい鐘の音のようなものも聞こえる。

 カイエゲルダや、セローという議員は無事なんだろうか。外で何が起きているんだ。何が起きるとこんなにでかい音が出るのか。こんな恐ろしい「行事」のある都市が観光都市だ?信じられない。なんなんだこれは。

 心の中で悪態をついたが、構わず音は続いた。

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