仕事
「……カテリーナが殺された?」
「そうなんですよ、クレフ殿。大変なんですよ。」
青い顔をしてこちらに泣きついてきたのはベッケンだった。
……えぇ。
早々に試験の終わった5級、4級を引き連れてアシュハイムに再訪したところで、様子がおかしい事に気が付いた。自警団が通行規制を行っていると思えば、機関のお偉方とその護衛が拘束されているではないか。それでもってカテリーナが暗殺されたときた。
事は、都市単位での裁判が終わって、機関の司法に引き渡そうと大通りを護衛と共に進んでいた時に起きたらしい。きな臭すぎる。そもそも、弾劾裁判は魔法兵器や、使用された魔法についての分析が客観的な証拠として提出できる段階で行われるはずだった。それが、魔法兵器回収部隊の俺たちが到着する前に政治部門のお偉方は到着していて、裁判まで済んでいる。カテリーナの内乱罪は認められたらしいが、セローの様子を見るに台本通りとは行かなかったらしいことが明らかだ。
一応、(本当にかかわりたくなかったが)ゲールクリフの直属の部下の俺はお偉方とも面識がある。事情をうかがうと、誰の指示、あるいは方針でアシュハイムに向かったのか、誰も把握していなかった。個別に聴取すると、全員が全員支持者として別の人物を示すのだ。ゲールの名前まで上がる始末だ。責任の擦り付けあいが起きていると見るべきか。
アシュハイム議会の面々は間違いなく機関に不信感を抱いただろう。信用でやっている商売だというのに、何たるありさまか。
この一連の事件に関して、カテリーナには間違いなく協力者がいた。
魔法について曖昧なままカテリーナが死んだ今、俺がカテリーナ殺害の疑いを向けているのはその魔法に関する協力者というわけだが、その候補は王家の力を受け継いでいてかつ記録が曖昧なカイエゲルダの母親、そして魔法兵器の研究に関する助言のできた機関の誰かだ。どちらも共謀者だったという可能性もある。とりあえず、カテリーナと共謀者の2人がいると考える。
片方だけが尋問されている環境にあるとしたら、安全圏にいるもう一人は必ず沈黙する。口を割れば関係者であることが明らかになるだけなのだから、自白する必要がない。尋問される側も相方が沈黙することはわかっているだろう、だったら、取るべき手は沈黙だ。口を開かないことで罪を軽減することが出来る可能性は高い。
今回、容疑者はカテリーナだけだ、つまりこの状況は成立していて、均衡も沈黙で成立するはずだった。
では、何故カテリーナは物理的に沈黙させられたのか。それは、裁判が進むことでカテリーナが共謀者を裏切る可能性が高くなるからではないか。それはなぜか。罪が重くなれば重くなるほど、自分だけが罪に問われている状況は不当となる。カテリーナは現段階ですでに罪人であり、機会が与えられれば「道連れ」を考える可能性が高くなる、ということだ。つまり、共犯者は生きている。また、カテリーナやその他もろもろの動きを察知できる状況にある可能性が高い。所在のわからない人間は道連れ目的の自白をされようが、痛くも痒くもないだろう。それを恐れるのは表舞台にいる人間だけだ。
したがって、俺が疑いを向けている候補で言えば、カテリーナの暗殺を企てたのは機関の人間だということになる。だが、単なる考えすぎの可能性も十分にある。他にカテリーナを殺して利益を得られるのは大勢いるだろう。恨まれていそうだから候補を絞るのは骨が折れる。わざわざ機関が来ているときに事件が起きたのも濡れ衣を着せるためという可能性もある。
まあ、あれこれ考えるのは俺の仕事ではない。ゲールが言っていた通り、俺たちの判断は河原の小石なのだ。川に近づかなければ削られることもない。というわけで、魔法兵器の回収に専念する。後で議会の面々に挨拶と詫びを入れなければ。
結局魔法兵器は網に入れて運ぶらしい。どこから出してきたのか、波止場に入れないらしい、いつ使われていたのかわからない帆船が2隻沖に並んでいる。既に日が傾いている。中央からここに来るだけで半日かかるため、さっさと済ませたいのが本音だ。
沖まで小型船で引っ張って、あとはあの船に引き継ぐ予定だ。並々と並ぶ小型船のいくつかは魔法兵器による損害の補填分としてアシュハイムに寄贈されるらしい。
現場の指揮などと言って繰り出されたが、級のつかない俺は何となく白い目で見られているような気がする。しかも俺の他にも指揮はいるのだから、やっぱり俺はいなくていい。早く帰りたい。人でも足りていそうだし、せっせこと網が巻き付けられていく魔法兵器のスケッチでもしていることにした。
「そこ、適当に結ぶな!」
「は、はい!すみません」
「やり方がわからないなら聞くんだ。……わかってるじゃないか!」
「はい!」
……はあ。
魔法兵器、何度見てもきれいだ。あれだけの強さを秘めていながら、今は無力にも打ち上げられて網にかけられているのだから、我々を神を征服したのだと思いあがらせる。……さっきから度々網を放って入水しようとする連中がいるが、まだ影響が残留しているのだろうか、報告すべき事象だ。しかし、全然上手く描けない。彫刻しているときも全部勘で削っているから、それを平面に落とし込むのが難しい。何度描いても微妙に違う。……はあ。
今頃カイエは上手くやってるだろうか。結局余興も見ることが出来なかったし、あまりいい気分ではない。




