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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央
24/102

階級

 機関についたが、何故かロビーは伽藍洞だった。見慣れた白を基調とした内装は、静かだとこうも異質なのか。受付にいるはずの人員までいない。一体どういうことか。「機関は静かなのね」とカイエは言っているが、これは異常だ。なんだ?都市はいつも通りだったぞ……?とりあえず機関内部に入るため、ゲートに剣を掲げる。機構が音を立てて大扉を開ける。

「すごいわ。どうやって開いたの……?」

「魔法の一種らしい。ついてきてくれ」

 どうするか。とりあえず、受付で帰還報告を入れたかったのだが、ゲールクリフに直接報告といくか。自動昇降機を起動し、上層を目指す。

「驚いている暇がないわね……わ、なんだか浮遊感。落ちたりしないわよね」

「それが嫌で階段を使う人間も多い、と回答しておこう。ついたぞ」

 目が疲れるほど白い内装を煌々と薄紫の魔法が照らしている。権限のない者は立ち入り禁止の階層だ。他の階層にはない広すぎる廊下に、幾つか植物の鉢が置かれているのがいつみても不釣り合いだ。突き当りの扉をノックし、反応をうかがう。……反応がない。

「機関所属、勇者部門のクレフだ。ゲールクリフ殿は在室か」

 反応がない。いない時は必ず扉に何かしら書置きを残すのだが……。異常事態ではないか?再度ノックし、反応をうかがう。足音が近づいてきた。

「うるさいぞ!誰だこんなときに。」

 聞き覚えのある声だ。

「さっき名乗った!開けやがれ」

「お!この声は、圏外野郎だぞ。もう帰ったのか」

 へへ、と言ってドアを開けたのは同僚のフェルミドールだった。

「ここで何やってる。ゲールはどこだ?」

 白い制服を着崩したフェルミは、寝ぐせ頭をぐしゃぐしゃと乱した。

「何って、昼寝さ。チッ、もう夜じゃねえか。ゲールはって……お前ボケたか?」

「ボケてないつもりだが。」

「……あ、わかったぞ。あ~、お前出禁になってるからか……」

「なんだ。何が言いたい」

「明日明後日、階級検査だぞ。今日は前夜祭で、ゲールはスピーチだのなんだのだ。忘れてたろ」

 フェルミはに、と暗めの笑みを浮かべた。

「……」

 なるほど、すっかり忘れていた。いや、考えてみれば俺はこのせいでアシュハイムに送り出されたのだ。この時期に暇な勇者は特別の事情がない限り……俺だけということになるのだから。

「しっかりボケてんな。ンで、そんなことより後ろの別嬪さんの話聴かせろ。見た感じ魔法使いだろ。」

 一目見てカイエを魔法使いと見抜くあたり、流石というべきだろう。フェルミはその薄暗い緑色の目を細めて値踏みするようにカイエを見ている。

「カイエゲルダよ。アシュハイムから来ました。」

「ん~、あれ……カイエゲルダって、あのクジラ座の女優か?よく噂には聴いてたが、本物はそれ以上だな」

 フェルミはできそこなった犬のにやけ面のような顔をしている。

「フェルミ、その顔をやめろ。失礼だぞ」

「おっと失敬。私はフェルミドールだ。」

 フェルミは目を閉じて、お手上げといったように手のひらをヒラヒラさせた。

 

「こいつは……、軽薄で失礼なことに目をつぶれば信頼のできる奴だ。」

「失礼?どこの出禁の口から出る言葉だ?それは。」

「そう、こういうやつだ」

 カイエは相変わらず真顔を顔面に張り付けている。それほど不快に思ったりはしていない……、だろう。

「階級検査は、さっき言ってた闘技場での模擬戦の事かしら」

「そうだぜ、カイエゲルダ。君の方がよっぽどわかっているらしいな」

 フェルミが厭味ったらしい視線を向けてくる。いつものことだ。

「アシュハイムはとんでもなかったぞ。ひどい目に遭った。」

「なんだ、お眼鏡にかなう魔物でもいたのか」

「いや、いたのはプローディトーレだ。彼女が無力化した。近いうちに搬入されるだろう」

「ほう、それは称賛に値するな。……1級が増えるのは喜ばしいことだ。カイエゲルダ、来て早々だろうが、明日からの検査に出たらどうだ。ゲールには私とこの圏外で話をつける。」

「機会があるなら、出るわ。それで、あなた達は知り合いなのね?どういう繋がりかしら。」

 思わず顔を見合わせた。

「1級と圏外につながりがあるとでも?」

「いや、同期だろ。それからゲールクリフの……弟子?だ。」

「はあ。圏外とつるんでいる私の名誉のために補足しうるとすれば、我々は共にトップランカーで、最高執行官ゲールクリフの子飼いだ。」

「要するにちょっと高コストの捨て駒と言ったところだな」

「捨て駒は低賃金のお前だけだ」

「圏外のトップランカー……?」

「深くは突っ込まないでやれ。哀れだからな」

「……」

 まったくだ。哀れなので突っ込まないで欲しい。

「私は当たりくじを引いたらしいわね」

「へえ、お目が高いな。その通りだ、コイツは暇だからな。使い倒してやれ。」

 散々な言われようだが、カイエからの心象が意外にも悪くないことに胸をなでおろした。それから、明日の検査に出るのであれば、戦略を考えておいた方がいいな。実力があるとはいえ、カイエは大会初心者だ。戦い方はこちらでサポートするべきだろう。問題は俺が魔法部門と大会に詳しくないことだが、目の前に適任がいる。利用しない手はない。フェルミは魔法も齧っているから、協力を受けられれば心強い。

「おい、調子にのるな。フェルミ、お前魔法使いとして出場する気はないよな?」

「無論だ。生憎お前のような戦闘狂じゃないのでな」

「なら力を貸せ。カイエが1級になるための策を考える。扱うのが少々厄介な魔法でな」

「あ~、まあいいだろう。」

「待って、私は別に1級になりたい訳じゃないわ」

「いや、カイエゲルダ。なれるなら絶対に1級の方がいい。プローディトーレに勝つほど魔力があるなら、確定で2級にはなれる。だが、2級は真に依頼強度策定のための捨て駒と言っていい。割り振られる仕事は1級と同区分で括られるが、報酬の下限の影響で依頼を選り好みできるほどの余裕はない。」

「つまり、1級が受けたがらない依頼ばかりが2級に回るというわけだ。出来高報酬も含めて、1級より賃金が跳ね上がってる2級もいるが、大抵はそうなる前に1級になるか、死ぬか再起不能になる。圏外よりマシなのは給料くらいだ」

 今さらっと侮辱されなかったか?

 ……1級は生存率と依頼達成率を誇りにしている面がある。それには説明の通りカラクリがあるわけだが、1級には1級の拘りと焦りがあるというわけだ。フェルミもやけに早口だし。

「というわけだ、納得してくれるか?5~3でいいとも言うなよ?」

「え、ええ。わかったわ。でも5~2で適正だった場合は文句を言わないでくださる?」

「まあ、許容しよう。そんで、どんな魔法を使うんだ?あのプローディトーレに通る魔法だったら捕縛系か相殺系……あるいは精神汚染、吸収系もあり得るかな?」

「おお。流石、詳しいな」

「お前が鈍いだけだ。所謂魔法の火やら水やらでは余程尖った性能でもない限り全く歯が立たないからな。」

「精神汚染に分類されるのかしら?」

「そうだな、多分。」

「精神汚染?まさか一応候補に入れとこうと思ったやつがあたりだとはな。代表格のバフ、デバフ系は効かないな。だとしたら、混乱か、意欲妨害か……発狂?」

 フェルミはこういうところがある。まあ職業病か。早く答えを聞けばいいのに。

「意思を操る魔法よ。相手に耐性があると、上手くいかないことがあるわ」

「意思を操る……?」

 宇宙に解き放たれた出来損ないの犬の顔になっている。この顔が見たかった。

「厄介な魔法だろ、な?アシュハイムの国家転覆事件にも関わりのある魔法だ。」

「今すぐ処刑したほうがこの世のためだ。さっさと1級になれ。さもないと闇討ちされかねないぜ。それから、その類の特殊性……魔法兵器の影響を直接に近い程度受けてるだろ。魔法兵器も研究者連中の手へと渡る前にさっさと砕いて動力にした方がよさそうだ。」

「その、魔法兵器と魔法は関係があるのか?」

「……呆れたまでに不勉強な奴だな。ただの人間が、魔法なぞ使えると思ってるのか?というか、お前は使えるのか?」

「使えない。」

 フェルミはわかりやすく溜息をついた。

「魔法が使える人間の殆どは魔法兵器から魔法の才能を祝福として受けている。詰ったわりに祝福の条件は私も知らない。というか解明出来たら表彰ものだ。一生遊んで暮らせるほどの金と一生遊んで暮らせないほどのいざこざが待ってる。話がそれたが、魔法の素質は祝福を受けた本人の直系の子孫に遺伝する。ようするにだな、魔法兵器の影響と血筋は密接な関係があるってことだ。そして、祝福を受けた代から離れれば離れるほど、その力は弱まる。」

「魔法兵器の影響なんてそう受けないだろ、魔法が使える人間はそれなりにいるように思うが?」

 機関に登録されている人数的には、勇者よりも魔法使いの方が多かったはずだ。

「圏外にしては珍しくいい質問だ。大まかに言えば身分制度の緩やかな解体のせいだ。だが、もう少し考えて質問したらどうだ?プローディトーレが正常稼働していた時代はいつだ?」

「帝国が生きていたころね」

「今はバラバラになって各地に封印されているわけだ」

「その通り。祝福が受けられる機会は限られている。その機会は帝国期の方が多いことになる。そして、そのような人間を超越した力を手に入れた者はどうなる?今みたいに崩壊も大闇も起こらない時代だろ?版図拡大の煽りは十分だ。かくして領邦ができるわけだ。そういうやつらにとっては政治戦略のためにも血筋は重要だな?」

「魔法の独占がおこるのね。そして、世情の混乱で身分がどうとか言ってられない地域が増えて魔法の使える人が増えたというわけかしら。」

「ほぼ教本通りの解答だ。そこ圏外も見習いたまえ。」

「……」

「血筋と魔法の関係については近年魔法の使える人間が爆発的に増えたことで明るみになったんだ。まあ、帝国とのつながりも薄い末端貴族のレインハイム殿には関係のない話か。」

 たぶん、俺の苗字の事なんか覚えてるのコイツくらいだぞ。ありがたいことだ。

「帝国時代からの遺伝だ?にしては最近の魔法使いはやたら強くないか?」

「ほう、良い視点だ。そしてやはり不勉強だな。技研にいる兄貴が泣くぞ。ちなみにカイエゲルダの方はどうだ?魔法の知識はいかほどか」

「私が知っているのは、私が魔法を使えるということくらいよ。」

「ふん、1級たる私が説明してやろう。」

 露骨に調子に乗り始めたなコイツ。

「お前、その辺についている魔法の街灯が個人の魔法によって成立しているもんだと思っているのか?」

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