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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
アシュハイム編
21/102

お元気で

 荷物をまとめると言うことでカイエとは別れて、議会に向かった。重苦しい扉は開け放たれていた。どうやら劇場にいた人間も魔法から解放されたようで、議会は喧騒に包まれていた。カテリーナは縄でぐるぐるに縛られていたが、他の劇団員はカイエの事を心配しており、彼女は劇場にいるということを伝えるといそいそと議会から去って行った。

「大した野次馬精神だぜ」

 どうやら、セローは早々に弾劾演説の台本を完成させ、海辺が騒がしいことを聞きつけていたらしい。そして、ネモという自警団の若者が主に刃を突き立てる所をちょうど目撃したらしく、議会に帰って叙事詩を書いていたところだった。

 色々な面で痛手を負った自警団だったが、とくにネモの活躍が議会に知られたことで、正式にアシュハイムの防衛戦力として認められるという気運が高まったらしい。セローの執拗な取材に辟易としている面々だったが、どこか誇らしげでもあった。悪くないことだろう。魔物の出現が予測不可能であるために常備軍が作られなくなって久しい中、中央が軍事力を独占している訳だが、自警団の彼らがやるのは「夜警」だ。機関にとがめられることもないだろう。

「記録を侮るとは議会の名折れよ。俺たちはいずれ死ぬが、記録は生きる。」

 記録は大事だ。それがなければカテリーナも無罪だったというわけで。

「だがな、土地もろとも国が消えたりするんだ。誰かの土地を征服して物語を伝えようなんてことも出来ない。何かを残そうなんてのはちっぽけな祈りでしかないさ」

「あれ、セローあなたちゃっかり自分が戦いに参加していたという記述を足していますよね、これ」

「ゲ、バレたか」

「そうだセロー、バリケード・耳栓大臣の事はしっかり書いといてくれよ」

「書かなくていいです。それ面白くないですよ」

「やーこれで『ウタウタイの夜』とかいう趣味わるい劇の代わりが出来そうだ」

 よかったよかった、と笑うヴァージル。

「クレフ、準備ができたわ」

「お、歌姫サマだ、珍し。こんにちは」「カイエゲルダさん、見事な活躍でした。議会一同感謝いたします」

 会話を遮ったのはカイエだった。彼女は賛辞に対して軽く礼をしながら俺に声をかけた。

「団員たちと入れ違いになったか?彼らは君に話しがありそうだったが」

「そうなの?ならもう少し時間をもらってもいいかしら」

「構わない」

「あれ、カイエちゃん、どっか行くのか?」

 ヴァージルが何かにショックを受けているのか、死にそうな顔をしている。

「ええ、トンズラするわ。あれだけ色々と派手にやったのだもの。魔法に関する疑念は必ず生まれるわ。そうなったら、私が舞台に立っても心から楽しめないでしょう?」

「そ゛ん゛な゛こ゛と゛な゛い゛!」

「少なくとも私の矜持には反するわ。あなた方議会は私の逃亡を許してくださるでしょう?」

「クレフと行くんなら、行先は中央か?」

「そうなるわ」

「中央に行ったら魔法使いとしての検査があるだろう。そうなれば、確実にこの件に関する調査に機関が関わることになるな……」

「カイエが絡まなくとも俺は報告を出すから、確実に機関は来るぞ。何かまずいことでもあるのか?」

「いや、こっちに不味い事は何もないんだがな……」

「ちょっと不審だという話が上がっていたんですよ。王家の処刑に関しての調査の際、魔法兵器や、魔法についても情報を提供したという記録は残っているんです」

「俺たちなんかよりもよっぽど魔法に詳しい連中が来ていて、暴動にと魔法の関連性、可能性にたどり着かないなんてことあるか、と」

「それで、より詳しく調べたんですが、その暴動の前から……魔法兵器があがって、カテリーナが研究を奪取したあたりから王家には申請されていなかった中央との不明瞭なやり取りがあるんですよ。」

「妙だ、ってことになってな。」

「まあ、憶測で物を語っても仕方ありません。我々は劇場に関する騒ぎは単なる労使対立ということにするつもりでしたが、魔法の使用に関しても事件として扱うことで、17年前の暴動ともども白日の下にさらします。機関が来るならちょうどいいので機関の責任追及もしましょうか」

「ま、そんな攻めた真似ができるかは怪しいがな。ともかく、そうだな。歌姫サマの証言は魔法に関するしっかりとした調査に基づいていれば、その分良い。」

「みんな寂しがるでしょうけど、きっと止めませんよ。あなたの健在が、一番良いことです。お元気で」

「ありがとう、あなた方もお元気で。議会はどんな厳めしいところかと思っていたけれど、劇場によくいらっしゃるかたばかりね。それじゃあ、みんなに挨拶してくるわ」

「ああ。」

 くるりと背を向けたカイエを見送った。最初に口を開いたのはヴァージルだった。

「カイエちゃんの前では威厳ある感じを保ちたかったんだが、ショックで……」

「ボロボロだったぞ、お前。」

「あ、そうだクレフ殿。指輪に関しても少しだけ詳しい事がわかりましたよ」

「ほう」

「受注者は、エリス・アシュハイム様です。サイズは男性用でしたので、贈り物かと。」

「俺が知ってた話とちと違うが、まあよくあることだろう」

「仕方ないと思いますよ。王家から指輪の受注があった際、挙って皆噂をしたようですから。それで、あの類の魔法兵器から作られるものは、大量の魔力を含むものの、壊れない限り魔力が漏れることは無いんです。なので、実用的な話で言えば、魔法使いの魔力供給源として、それから効果はないものの願掛けとしても人気を誇っていたようです。まあ、知っての通り、素材が魔法兵器だとわかったのは作られた後だったようですが。」

「魔法兵器は不死です。含む魔力の量は減るようですが、あの指輪も直せばまた同じ効果を発揮します。せっかくの王家の遺品ですし、直したいというのが私の意見です」

「あの魔法兵器は指輪を欲しがっていた。取り上げるのはかわいそうじゃないか?」

「クレフ殿は意外と同情的ですね……。とはいっても機関に回収されたら『人道的』な扱いは受けないでしょう。」

「確かにな。無力化されているから、砕かれて機関の設備の動力として利用されることになるだろう」

「ここで起きたことを鑑みると、機関もだいぶまずいんじゃないのか……」

「それは俺も思った。」

「ともかく指輪だけでも、と思いまして。所有を拒んだ者が言えたものではありませんが。」

「なるほどな。カイエにも相談してみよう」

 彼女は俺には知覚できない何かを感じ取っていたようだし、俺が独断で決めるより良い結果になるだろう。

「カイエちゃんが持ってれば、きっと主も納得するさ。」

「そうですかね?カイエゲルダさんは、エリス様に似ているというのを聞いたことがありますが、とはいえ他人ですよ?」

「ミケラゴーシュは嫌がりそうだがな。女王から貰ったものにあいつが執着しないハズもない。」

 確かに、王家の遺品である以前に、個人の贈り物なのだ。赤の他人の手に無償で渡るのはいささか変な感じがする。とはいえ王家に生き残りがいないなら、正当な所有者というのもまた、いないのだが……。

「墓はないのか?そこに供えるのは?」

「そういや、墓作らなきゃな。」

 ないらしい。

「そうか、やっと埋葬できるな。はは、良かった。……本当に良かった。」

「ありがとうな、クレフ。」

「俺は何もしていない。アシュハイムは自分でやっていく力を持っているように思う」

「それは流石にこの都市を過大評価している。まあ、その意気込みでやっていくとするよ」

「それじゃあ、またよろしく。」

「ああ。何かあったら依頼を出してくれ。」

「じゃあ、達者でな。」


 ――――


「や~勘が当たりましたよ。そろそろお帰りなんじゃないかと思って、お迎えに上がりました。」

 波止場につくと、見知った黄色い笠の男が待っていた。

「ちょっと見ない間にこの港かなり壊れましたね。ご苦労様で。ささ、乗ってください」

「助かった。感謝する。」

 本当に助かった。近辺からも船は出ていないらしく、劇場が保有する船を借りるということになっていたのだが、港を見れば多くの船舶が破損あるいは転覆しており、クジラ座の船も例外ではなかった。希望は潰えた、かと思った矢先水平線の先から目立つ笠が現れたものだから、大変神々しく見えた。

「あれ、そちらのフードのお嬢さんは?ご一緒ですか?」

「ええ。色々あって都合がいいから同行することになったわ。一人増えても構わないかしら?」

「大丈夫ですが、こんな事なら、いや~もちょっと綺麗にしとけばよかったですよ……」

「すまないな」

 カイエの手を取って、船に乗る手伝いをする。

「ありがとう」

「じゃ、出しますね。揺れるんで気を付けてください」

 舟はゆっくりと、着実に進み始めた。

「……あの尖塔からこんなに長く外に出たのは初めてね」

 彼女は次第に隔絶されていく距離に目を細めていた。

「中央からここまで、海路なら半日程度で着く。帰るのも難しくはない」

「そう。でもしばらくはいいわ。」

 海鳥を追う彼女の視線は、晴れやかでたのしげに見えた。先行きに不安がないのなら何よりだ。

「っ海水ってしょっぱいのね。聞いたことはあったけれど。思ったより不味いわ。そういえば、ヴェルギリアには機関の他に何かあるの?」

「大抵のものはあるぞ。服やら靴やら、あとは貸本屋もある。」

「貸本屋?」

「ああ、……会員制のその、滅茶苦茶本が集まっていて、本を貸してくれる所だな。機関所属なら会費は免除される。」

「すごいわね。」

「中央はもともと印刷技術が強みでしてね。作家なんかがこぞって中央に来ますんで」

「禁書なんかを扱ってるところもある。そういうところは自費で会員になる必要があるが……。機関は検閲する側だからな。」

「禁書……?」

「『哲学書』とかですね。」

「ま、まあ、貸本屋の事はおいておくとして、闘技場だとか他にも……まあ。中央に無ければ他所にもない」

「全く傲慢ですよ。間違いでもないと思いますけどねえ」

「……楽しみね。」

 赤い目を細めて微笑む彼女は、控えめに言って眩しく直視できなかった。

アシュハイム編はこれで終わりです。お疲れさまでした。

しかし、文章を書くのはとてもムズカシイ。


(哲学書にはエ口本が含まれます。(最もいらない補足))

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