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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
アシュハイム編
20/102

終着

 カイエが砕けた指輪を拾い集めていた。先ほどまで確かに聞こえていた海からの歌が聞こえなくなっている。あれは一体何だったのか。白い破片が俺の足元にもあることに気が付いて拾いあげた。顔を上げるとえぐれた地面によって陸の孤島に囚われたカイエと目が合った。彼女が迷いなくこちらに飛んだので、慌てて腕を引いてこちらに引き上げる。ふわりとスカートが揺れた。とんでもない女だ……。

 拾った破片をカイエに手渡す。彼女の白い手のひらに収まったそれは、淡く柔く名残雪のように光を放っていた。彼女はそれを両の手で包み込んで、主に向き直った。彼女はゆっくりと主に歩み寄り、横たわる主の手にその破片を納めた。

 幻覚を見た。光の降り注ぐ温かな窓辺で、はにかみながら指輪を差し出す女と、ぎこちなくそれを受け取る男の、愛の夢の幻覚を。彼らは幸せに見えた。

 そうして災禍は幕を下ろした。

 

 ――――

 

 気づかぬ間に空がやや白み始めている。夜明けまではまだ時間をまつ必要があるだろう。海岸は依然として魂が抜けたように立ち尽くす者や、震えが治まらない者で溢れていたが、それでも空気は幾分軽やかだった。

「ありがとう。」

 主の頭に刺さったままの聖剣を取り除こうとしていたところ、カイエに声をかけられた。

「……俺は何もしていない。」

 思い返せば誇張表現ではなく、本当に何もしていない。強いて言うなら沢山歩いて、素振りをした程度だ。

「いいえ、あなたがいて良かったわ。」

「それならよかった」

 さて、帰ったらこの魔法兵器と、アシュハイムの内政的な問題について報告しなければならない。この都市は現在、中央の管轄下にあるため、カテリーナの弾劾にはおそらく中央の政府も同席する必要があるだろう。さっさと世話になった面々へのあいさつを済ませて帰還するのがこの都市のためだ。

「もう帰るの?」

「ああ、用は済んだ。……そうだ、魔法兵器の調査ですぐまた機関の人間が来るだろう。その時に君の魔法も調査対象になる可能性が高い。身構える必要はない、だが長時間拘束されるのは覚悟した方がいい。すまないが、俺は部門違いだからどうすることも出来ない。それから、世話になった。また何かあれば依頼を寄こしてくれ。」

 剣をしまい込んでカイエに会釈しその場を去る。そういえば船は出ているだろうか。よく考えたら出てない可能性が高いな。どうやって帰るとするか。アシュハイム以外でこの半島の都市から船が出ていないとなれば陸路で帰ることになるが、何日かかることになるか。正気の沙汰ではない。泳いだ方がまだマシだ。

「ねえ、あなた魔法使いとペアは組まないの?」

 矢庭に声を掛けられて振り返ると、カイエは何か、無表情ながら意を決したような顔をしていた。

 少し考えて、ようやく彼女が何を言いたいのかわかった。残念なことに、伝説の踏襲による権威付け、戦力増強、その他もろもろを目的としたタッグ制は魔法使いの脆弱性(戦力としてではなく、いつ発狂死するかわからないという点)が問題となり、勇者側の提案で数十年前に廃止となっている。

「その制度は廃止されている」

 カイエはかなりがっかりしている……ように見えた。無表情なのであまりわからない。

 「ただ、ヴェルギリアは才能ある魔法使いを歓迎する。登録によって機関の保障を受けることもできるだろう」

 「一緒に来るか?」

 

 口に出して後悔した。……早合点だったらどうしよう。

 ペアを組んでいないかという問いかけは、カイエが俺とペアを組まないかという提案という意味で解釈したが、単純にペアを組んでいないぼっちの勇者を訝しんでいただけの可能性を考慮していなかった。カイエが全く中央にも、俺にも興味がなければ、あの提案は的外れだ。これでは自意識と自信が過剰な男ということになってしまう!いや、実際そうだ。俺は自意識過剰だ。俺は依頼で1日ちょっとほどアシュハイムにいるだけで、目立った活躍もしていない、ただそこにいただけの人だ。そんな奴とペアを組みたいと考える人間がどこにいる?それにカイエはアシュハイムを大切にしている。仕事もしている。せめて「一緒に来るか」ではなく「中央に来てくれ」というべきだった。それならばこう、魔法使いを危険因子として囲おうとしている中央の意向とも合致するため、私的な提案に聞こえなかっただろう。失敗した……。

「ええ、是非」

「望まなくとも魔法兵器の調査の時点で召……喚」

「中央に行くときは私を連れて行くの。勝手に帰らないで頂戴。」

 あ、これは不味い。あの歌の効果は続いている。これは魔法だ。効果はあと3日強解けない。カイエを連れて帰ることが決定事項になってしまった。

「……ずるいぞ」

「あら、あなたが誘ったのよ?でも、駄目な理由が見つかったのなら構わないわ。私はあなたの意思を尊重します」

「ない。わかった、わかったよ。」

「よろしい。……ごめんなさい、調子にのったわ」

 まあ、よかったということにしよう。

「構わない。ただ、よく調べないで来てしまったから帰る手段を手配していなくてだな」

「……そう」

 

 

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