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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
アシュハイム編
17/102

指輪

「頼む、もう少し耐えてくれ!」

 出現した歌いは4体。劇場広場でも似たことをやったなと思いつつ、歌いを2体、剣で波打ち際に縫い付け、カイエには短剣を押し付ける。初日の歌いをさばける彼女ならば、2体程度ならばなんとかなるだろう。一瞥すると、しっかりと頷いてくれた。間に合え、間に合え。遠い!先ほどの追尾光線のせいで、もと居た場所からかなり離れてしまっている。ヴァージルは接近され過ぎていて攻撃を封じされている。波打ち際が近い。海になだれ込まれれば一巻の終わりだ。まだ遠い。俺が丸腰になるが、投擲のために盟約の剣を抜く。先はとがっているのだ。どうか、そこそこの威力は出てくれ。

「ヴァージル、伏せろ!」

「議会の誇りを見よ!」

 目の前で壊れたバリケードが歌いの群れに突っ込んでいった。俺の剣はそれに突き刺さった。歌いたちは吹き飛んだが、身をかがめていたヴァージルには当たらなかったようだ。解放されたヴァージルが地面に転がる。

「痛てえ!」

 色々言いたいことはあるが、とりあえず危険を排除しまった方がいい。バリケードを足で固定して剣を引き抜き、振り下ろす。……手ごたえがおかしい。歌いがじわじわと溶けていく。消滅した?思わず剣を見る。

「ベッケン、なんでいる!」

「命の恩人に対して何ですかそれは。まあ、もう、すぐ帰りますよ。もうこりごりだ……。僕に何かできる事があるんじゃないかと思ったのが間違いでした」

「いや、助かった。俺だけではどうなっていたことか」

「それならよかったですが」

 バリケードとともに登場したのはベッケンだった。よっバリケード大臣。とバージルが仰向けになりながら叫んだ。ベッケンは疲弊しきった様子が青白い顔ににじみ出ていた。すぐに帰してやった方がいいだろう。

「ああ、こんなことしに来たんじゃないんですよ」

 ベッケンはどこから取り出したのか、何かが入った瓶やら、目くらましやら様々道具をいそいそと広げた。

 周囲の安全を確認する。カイエは、大丈夫そうだ。

「包帯に、鎮痛薬。一応、効果は何とも言えませんが、魔力回復用のポーションなどです。使ってください」

「さすが商人上がり」

「揶揄うなら金とりますよ」

「いいのか?」

「ええ。在庫処分だと思ってください、あと、これ。」

 ベッケンは道具の山をかき分け、古めかしいデザインの箱から指輪を取り出した。

「おい、それ……」

 ヴァージルが飛び起きた。明かに動揺している。

「もともとうちの商品だったらしいんですが、ずいぶん前に、まあ色々あったらしく戻って来たんですよ」

 “色々”に含まれる内容がデカすぎる。らしいという口調とベッケンの年齢的に王家処刑事件以外にも何かあるということだ。

「アシュハイムの紋章付き。持ってくるつもりはなかったんですが、やたら心に引っかかって」

 はい、と言って渡されたが、どうしろと……。綺麗なデザインだ。白く滑らかな素材に細かい意匠が施されている。詳しくはないが、これはあまり装飾品には使われない素材なのではないか?白さは聖剣や釘に似ているように思う。よく見ると外周を埋めるように何か文字のようなものが書かれているが、俺には読めない。内側にも何か彫られていないか確認する。何もない。

「そりゃ、ミケラゴーシュがエリス様に贈ったやつだぞ。魔法兵器が海から引き揚げられた時に、白くて綺麗な素材だってんでそれ使って作られたんだ。」

 ぎょっとして指輪を再度見る。女性への贈りものにしては少しサイズが大きいような気もする。俺の指にも入りそうだ。それにしても、……随分すごいことしたな。

「おい!作ったのは俺じゃねえんだ。そんな目で見るな。大体、当時は危険性も知られてなかったし、一部分だったからなんだかもわからなかったんだよ。魔法兵器だってわかったあとも、研究が盛んだった時期だったから大騒ぎでだな……」

「まあいい。預ろう。」

「助かります。ちょっと持っていたくないですから……。」

「おい」

「いや、劇場の近くにうちの倉庫があって。例年やけに歌いが残ってるんですよ……。これのせいかと思って」

 歌いはまだ増え続けている。そろそろカイエの元に戻ったほうがいいだろう。

「とにかく、助かった。バリケードは役に立った」

「だってよ。よかったなベッケン。勇者お墨付きだ」

 歌いがこちらに向かってきた。

「ヒー!帰ります!」

 ヴァージルを睨みつけていたベッケンが大慌てで逃げ帰って行った。

「ヴァージルはどうする。残るか?」

「ああ。もう少し海を見てから帰ることにするよ」

 そう言って、ヴァージルは海を見つめた。海の中腹にはとうとう魔法に疎い俺でも見えるようになった巨大な魔力の渦が浮かんでいる。心なしか、海がそれに引き寄せられているように見える。

「……わかった。気をつけてくれ」

 指輪と、ポーションなるものを握りしめてカイエのもとに向かう。向かってくる歌いを切るが、やはり溶けて消える。レプリカとはいえ聖剣なのだろうか?役に立たないという話しか聞いたことがなかったが……。そして、この指輪、どうするか。魔法兵器から作られているのであれば、機関に持ち帰れれば何かしら役立つのかもしれない。俺は魔法がまるでわからない。とりあえず魔法に詳しいだろうカイエに渡すか?

 片手に指輪と瓶を2つ持っているから、少々剣が振りにくく、中々進めない。というか、歌いの数が尋常じゃない。取り囲まれそうになるのをようやっと切り開いて一気に駆け抜ける。少し距離をとることができて、気づいてしまった。全身に悪寒が走った。

 全員が、こちらを見ている。主も、敵の歌いも、味方の歌いも、全ての視線がこちらに集まっている。なんだこれは。歌いはこれまでとは比較にならない速度でこちらを追いかけてくる。

 「――――!」

 海の方から悲鳴が上がった。注意が逸れたのか、カイエの歌が通ったらしい。主が腕をジタバタと動かして、もがき苦しんでいるように見える。続けてもう何発か光線が主に向かって降り注いだ。思わず立ち止まる。あれだけの威力を人間が出せるものか……?直後に別の光線の発動に隠れていたのか、突然陸に向かって光が放たれた。

「欲張ったわ。」

 光線は先ほどとは異なり、俺めがけて追尾することなく直進した、と判断した直後に光が分裂し、扇状に広がった。複雑な動きではないため、着弾位置は簡単に予測できたが、カイエの方にも光弾が飛来していってしまった。

「そっちに飛んだ!気を付けてくれ」

 カイエはすんでのところで攻撃を躱したが、先ほどの攻撃によって地面がえぐられているせいで、それ以上逃げ場のない場所まで追い詰められてしまった。幸い続けて攻撃が来ることは無かった。大人一人分ほどの深さに削れた地面は、落ちてしまえば彼女1人で上がるのは困難だろう。降りてもらって引き上げることも考えたが、こちらには歌いが集まってしまっている。

 彼女は歌い続けているが、こちらを見て何か言いたげにしている。歌をやめれば攻撃がくる。

 「助けて」とかではない。だとしたら彼女は先に行動してやりたいことに俺を誘導するだろう。そんな気がする。俺の行動で完結することか?現状、異様に歌いが追いかけてくる。おそらくは指輪のせいだ。カイエも俺が何か持っていることに気が付いているのか、手のひらを指し示している。

「何を持ってるかってことか?」

 彼女が頷く。

「指輪だ」

 体を伸ばす歌いにとられないよう、指輪を高く掲げた。その場にとどまると歌いに取り囲まれてしまう。わからない。歌いはなぜ追いかけてくるのだろう。返して欲しいとかだろうか?カイエは何かを投げる動きの真似をしている。投げろということか。試しに、海に投げるジェスチャーをする。ダメらしい。わかりやすく焦ったカイエが腕で頭の上にバツを作っている。それでも声がぶれていない。流石はプロだ。

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