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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
中央3
100/102

「応答なし。あきらめるか。」

 エンデは城で見て以降一度も姿を見せていない。

 先刻まで走り回っていた上、さっきので肝が冷えたせいか、やたらと肌寒く感じる。おかげで俺も少し冷静になった。何がそんなに気に障ったのか今よくわからない。怒りなんてそういうものだろう。おそらく。もう1回同じようなこと言われたら同じように腹が立つんだろうか。そもそも俺は怒っていたんだろうか……?ただ混乱していただけか?

「謝りに行くか。」

 周囲を見渡すが、当然もう誰もいない。あるのは石畳と灰色の空だけだ。

「いや、どこに行ったか分からないし、探している場合ではない?」

 ああは言ったが、俺のせいで本来避難できるはずの人が避難できなくなったのなら、エンデがどうこう言っている等と場合ではなく、何かしなければならない。何ができるだろう。

 ……とにかく城に誰も入れなければ良い。隔壁の消失について知っているのは、あの会議室にいた俺含む5人だけだ。(フェルミが大声で俺を罵った際に誰かが内容を聞いていなければ。) そしてほかの誰にも知られないほうが良い。

 協力を仰ぐべきは既に起きたことを知っている4人だが、多分フェルミは別件処理で忙しいだろうし、技研の3人は先ほどの段階では無策のように思われた。

「エンデ、その、お前も俺もやること全部空回るな。何にも関わらないほうがいいのかもしれない。今度一緒に釣りにでも行こう。きっと何も釣れないから魚にも迷惑かけないぜ」

 

 _______________


「と、いうわけだ。悪いが、何かできないか?」

「へー。私がなんとかするの?できるかなぁ~?」

 諸々を知っていて、なにかはできそうな6人目を尋ねてみることにした。ヘレネだ。俺は今回の俺の無能さの原因を無知と見ているので、しっかりと技研部門長にエンデとは別の魔法兵器のところに行くと伝えてきた。そしてちゃんと許可も得た。これで今俺は「何をしているのかわからない悲しい指名手配中の無能な特大暴力」からは脱却できただろう。

「この城大爆発してもいいなら?頑張るけど」

 ヘレネは案外すぐに見つかった。城に入って大声で騒いでいたら直ぐあちらから迎えに来てくれた。魔法兵器もどき(フィリウス)に入っているのを失念していたので、敵だと勘違いして攻撃しかけた。

「もう少し小規模にできないか?とにかく関係者以外が城に入れなければいいんだ。隔壁を再構築できるならそれが一番だが。」

「ええ~?私誰が関係者かなんてわかんないし。その壁も情報事エンデュミオンが吹き飛ばしたみたいだから再現は難しいな。全員入れないんじゃダメかい?」

 あごらしき部分に手を添えてみたり、腕を組んでみたり、天井を仰いでみたり、ヘレネは考えている風の動作をとっている。

「できるか?できるならそれでもいい。」

「なら簡単。」

 少しいたずらっぽい声色の返事だった。来てよかった。胸をなでおろした。なんとかなるかもしれない。同じくらい碌なことにならないような気もするが。

「エンデュミオンに少し魔法行使権限もらえないか聞いてみるよ。少々お待ちを」

 ヘレネが天井を仰いだまま動かなくなってしまった。エンデの名前が出てほんの少し胸が詰まる。俺には応えないが、通じるのだろうか?

 しばらくヘレネを眺めていたが、全く動きがない。エンデにお伺いを立てている途中だろうか。待てと言われたので待つことにする。つったっている必要はなさそうなので、床に座る。装備品の類も降ろした。ここはきっと安全だろう。部屋の底に冷たい空気が溜まっているのでしゃがむと余計寒い。

「あいつは今何をしているんだ?」

 昼だが、城には窓が少なく、この部屋の灯りは今付いていないので、ヘレネの薄紫の目(と思われる顔パーツの一部)等が放つ煌々とした光が天井に跳ね返ってぼんやりと物の輪郭を照らしているだけでよく見えない。ここは奥まった場所にある小部屋、確か倉庫か何かだったと記憶している。溜息をついた。吐いた息が薄紫の光に照らされた。肩に力が入っていたのに気が付く。一先ず自分で何ができるか考える必要はなくなった。自己防衛にせわしなかった脳内が休まって、代わりに体のだるさよ寒さが主張を始める。身震いするが、動きたくない。座ったのは良くなかったかもしれない。

「……動力の代わりをしてるよ。その辺の灯りとか、今都市で使われている魔法ぜーんぶの魔力の分配とか自力で調整中。ものすごく小規模の魔法を大量に使っているね。」

 独り言のつもりで返事は期待していなかったが、ヘレネは上を向いたまま答えた。エンデは何かしらをしているようだった。なぜそんなことをしているのかはよくわからないが、彼のかなり苦手な類の作業ではないだろうか。だから返事がないのか?寒いので膝を抱える。寒さはあまり緩和されない。

「なぜ?」

「プールの魔力を全部吸収しちゃったからだよ」

「必要なのか?」

「大事大事!とーっても大事だよ。これはやらないとみんな死んじゃうかもね!」

「そうか」

 なんでだろうか。エンデはよく無駄なことをする。今回は違うんだろうか。

「僕らみんな今存在を維持する分くらいしか魔力を分けてもらえてない。おかげでお休みって感じ?かなり楽だよ。少なくとも私は。」

「仕事を振ってすまない」

 生き物の音がしなくてひどく心地が良い。座り込んでいても茶化されないのもありがたい。しばらく俺の何にも触れないでほしい。世界が連続していることに疲れてしまった。そういえばここ一週間ほどまともに休みをとらなかったことを思い出した。動けるんだから大した問題ではないのだが。

「いいよ別に。魔法を行使する理由は分かるけど、動力プールが復旧したかのように振舞うのは謎だね。……そのうちやめるんじゃないかな?大変すぎるから。そうしたらまたきっと君の声も届くと思うよ。まあ、あの子の考えてることはよくわかんないよ。あの子は考えを閉じてるからね」

「そうか。」

「なに。心配なんだろうと思ってしゃべってあげてるのに、ずいぶん適当な短い返事だね!あ、わかった。眠いんでしょ。寝ときなよ。しばらくかかるし。」

「そうするよ」

 大して眠くはない。それに、こう寒いと寝る気はしない。魔法兵器はあんまり俺に関心がなさそうで助かる。彼らに対しては返事の正解、不正解をあまり気にしなくていい。

 誰にとっても好ましい返答がある。だから話しかけるんだろう。そしてその返答評価を今後の関係を紡ぐ上での判断材料にする。事態はすべて連続している。

 はて、俺はいつもその返事が正解かなど、気にして返事をしていただろうか?不正解ばかり選んでいるだろうと思い少し笑った。


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