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もう勇者やめる  作者: ぷぷぴ~
アシュハイム編
10/102

議会

「へえ!カイエちゃんが。そりゃ俺も手伝わなきゃな」

 議員たちが落ち着きを取り戻した後、湖畔でのあらましをヴァージルには説明することにした。カイエは今までクジラ座からの外出が制限されていたこともあり、議会の事はよくわかっていないようだった。

 ただ、カテリーナの共謀者が議会の中にいるのではないかということを気にしているらしく、議会には協力を仰がない方針だったらしい。それを尊重してとりあえず彼女の熱烈なファンであるヴァージルにだけ話してみたという次第だ。彼女の魔法は、日記の内容から推測するにおそらくカテリーナ仕込みだろう。魔法については議会の方が詳しいだろうと判断し、あまり詳細に説明しなかったが、ヴァージルには何か思い当たる節があるらしく、わざと魔法について触れないようにしているといった様子だった。

「それで、海から離れて歌いを集めるらしい。」

「歌いの誘導か。厄介なのは歌狩り用の罠だな」

 ヴァージルは、町の略地図を眺めながら呟いた。そういえば用意があるというカイエを劇場に送る途中、そこかしこで何かを作っている人たちを見た。あれが罠か。

「カイエは罠に捕まっている歌いはとりあえず無視するつもりらしい」

「だが、海岸に連れてける歌いは多い方がいいんだろう?だったら罠を壊すぞ」

「まだ日没までには時間がありそうだが、そんな余裕はあるか?」

 窓の外を見る。いまだ事態が深刻であることを忘れさせるような昼の柔らかな日差しが降り注いでいた。

「そんなん自警団と議会総出でやらせるさ。上手く班分けすれば、怪しい動きをするやつもあぶりだせるだろうしな。」

 俺だけに声かけてるってことは、そういうことだろ?とヴァージル。流石議員だ。勘が鋭い。

「罠をぶっ壊すのにいちいち住民の許可を取ってたら間に合わない。実際に壊すのは日が沈んで人が家に引っ込んでからだ。」

「大丈夫なのかそれは。」

「大丈夫なわけねえだろ。だが、それより大事なことがある。とりあえず俺は罠のある位置をマークしに行く。クレフ、同行するか?」

「そうする。」

 別に他にやることもないし、都市の構造がわかっていた方がいいだろう。ヴァージルは議員たちに声を掛けに行くようだった。「おい、お前ら!今年は今日の内から罠取り締まるぞ。仕事ないやつは適当にグループ組め」

 議論していた議員たちがもぞもぞとまとまり始めた。議員の中にも「いつものメンバー」があるようだ。

「あ~人数がまちまちだな。グループんなかで連番振るからそれで分かれてくれ」

 一度いつメンを集めてからそれを引き離したか。

「そんじゃ、各班地図でも描いて罠のある位置を記録してきてくれ。各班俺の子分をつけるから、なんかあったらそいつら頼れ。1時間半したら戻ってこいよ。罠を見つけた数が多かった順に3班、拾得した罰金の1割と同額をやる!だが他の班と同じ罠はノーカン!財源は俺の自腹だ。これでやる気出たか!?」

「やってやら!」「3割にしろ!」「罰金って一件いくらだった?」「おいおい今年はやる気だな」

「じゃ2割だ!ガハハ」

「マジか!お前ら足引っ張るなよ」「早くいかせろ!」「あのあたりは競合が少ないんじゃないか?」

「それじゃあ、きっちり調べるぞ!」

 ヴァージルの合図で議員たちはやいのやいの言いながら、足早に町に繰り出していった。

「あれ、セローにベッケン。残ったのか」

「俺はカテリーナ弾劾の準備をする!フハハハハ……!待っていろカテリーナ。」

 セローは踊りながら奥の部屋に入っていった。

「あの調子だとセローの『名演説』がまた増えそうですね。」

 やれやれ、とかぶりを振ってベッケンがセローを見送った。

「ベッケンは?なんかあるのか?」

 ヴァージルが話を振ると、思い出したようにベッケンは俺の方に寄って手元の書類を見せた。

「ああ。えっと、クレフ殿。劇場と機関のつながりについて、数年前に往来があったようですが、詳細はわかりませんでした。」

 何枚かの資料を捲りながら説明を続けた。ぱっと見て何が書いてあるのかわかる代物ではなかった。

「そうか。帰ったらこちらでも調査してみる。」

 そう簡単に何かわかるものでもないか。それに、何もないのならそれでいい。

「それから、ヴァージル。罠の集計をやるの、どうせ私でしょ。出て行かないのはその準備ですよ。厄介なノーカンルール付けないでください」

「すまんすまん。じゃあ、俺とクレフは外に出るから、日没の鐘を鳴らすの頼むな。」

「わかりましたよ。」

「んじゃ、行くか。」

 ベッケンの後に続いて議会の外に出ると傾いてきた日がちょうど目に入る高さにあるのか、とても眩しかった。議会のある丘の上からは霧がかった都市とその先に海が見える。昨日よりも霧は薄いだろうか。

「今日は見通しがいいな」

「残念だが、この後霧は酷くなる。ほんとにこれでウタウタイの夜が終わるんだったら、……いいな。」

 言葉に詰まったらしいヴァージルが適当に発言を終わらせた。

「カイエは終わらせるつもりだ。」

「そうか。俺らはやろうともしなかったことだ。」

 丘を下りながら、ヴァージルの臍を噛む様な口ぶりを聞いた。都市のほうにはちらほらと罠を取り締まる議員の影が見える。

「都市の道は基本、大通り以外は雑然としてる。他の道につながってない道も多い。しょっちゅう行き止まりになるから、方向感覚に自信があっても入らない方がいい。近道は出来ないと思った方がいいな。」

「歌いが路地に入り込むとまずいな」

「その心配はいらない。見てみろ」

「ああ。なるほど。」

 民家と民家の間を木や布が塞いでいた。入り組んだ路地に歌いが入ってこないようにするためのものだろう。歌いに対する行動は様々のようだ。

「歌狩りのために放置するところもあるけどな。」

「劇場周辺はかなり道が単純だったように思うが、なにか理由でもあるのか?」

 ヴァージルは空を仰いだ。

「妙なとこ突っ込むよな。あの劇場の場所に王家の城があったんだ。尖塔以外は原型をとどめてないがな。区画整理は王城の付近から始まって、途中で王家が滅びちまって、議会が引き継いだが上手くいってない。ちょっと昔話でもするか?」

 慌ただしく往来する議員たちを見て罠を作成する手を止める市民を何人か見た。彼らはヴァージルを見るとやいと手を挙げて見逃してくれよ~と笑った。ヴァージルはその度に市民をどついていた。

「……聞こう。」

「あの城は、まあ離宮みたいなもので、その奥にもう1つ城があったんだ。王家はそっちに住んでて、離宮の方は週末になると市民に開放されてな。劇だの舞踏会だの、決闘だの見世物をやったんだ。一番客が集まったのは、歌劇だった。」

 ヴァージルは懐かしむように遠くに見える尖塔を見上げた。

「みーんなすっかり歌劇にはまって、作家気取りも、俳優気取りもわんさかいた。かくいう俺もそういう連中の一人だった。王家が主催してるだけあって、離宮での催し物は凄かった。帝国時代の、若者には味のねえ古典だって、皆がこぞって暗唱しようとしてな。セローの演説なんかまだその時の古典かぶれを引きずってんだ。」

 思い出したように口元を押えて苦笑いしている。

「そんで、あるときクジラ座が来た。当時の座長はカテリーナの叔父でな。主演女優のエリスを見た時、世界が360度回転して、もうもとには戻らないところに来たんじゃないかと思った。お前もちょっとは耳にしたんじゃないか?エリスって名前を。独身王なんて揶揄われてたミケラゴーシュが一目ぼれしちまってな。結局結婚したんだが、政治的なあれこれだとか、それにみんなエリスに夢中だったし、そりゃもう大変だったんだ。エリスは儚げな見た目と裏腹に気も強けりゃ、弁も立つってんで、ミケラゴーシュが押されにおされてな。そんな様子をみて、皆で女王って呼んでたんだ。」

 楽しそうに語るヴァージルの口調が熱を帯びていく。

「俺は大した人間じゃねえが、まあ一時期国王の諮問機関に手伝いでいたことがあってな。……彼らは、愛されてたよ。」

 ヴァージルは乾いた笑いを洩らした。

「この都市にも色々問題はあるが、ウタウタイの夜はいらねえ催し物だ。今日限りで終ると思うとせいせいするぜ。ついでにカテリーナのあの劇も終わりだな。」

 斜陽が赤い光を放って、家々の屋根を照らした。重厚な鐘の音が都市に響き渡った。日没の鐘だ。

「クレフ。あんた、計画の要なんだろ。カイエちゃんをよろしく頼むよ」

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