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クラリアスノート  作者: ゆさ
第六章 『新生リセレンテシア』
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第六章 24 『資格』


挿絵(By みてみん)




レナ達周辺の観戦席は静寂に包まれていた。

次はブラッド対リアの試合だ。結界内で生身が傷を負うことはない、とは言え心配にもなる。

最も、リゼとルナについては、"静か"と言うよりも、"気まずさ"が目立っていた。その雰囲気が、レナ達にまで伝染しているようだ。


こう言う時に、最初に発言する人物は決まっている。


「さて、次はリアだね」


「そうですね……無理しないと良いけれど……」


アルテミシアの発言に、リゼは心配そうに答える。


「無理しない。と言うとは難しいだろうね。本来致命傷を受けて"無傷"って言うのはありえない話だし、窮地に立たされれば、本能的に生存しようと無理をする。フェルズガレア、それもガーディアンを続けてきたものであれば、当たり前のことだよ」


正しいと言わざるを得ないヨシュアの回答に、リゼは口を噤む。




リアは試合開始の合図を待っていた。

前傾姿勢で、存在しないラクリマをブラッドへ向けるように。


試合が開始される前に構えることは許されているが、異能と魔術、魔法の事前使用は禁止されている。

リアの異能ゼノ・エクスクァトの欠点である発動の速度は、試合開始前に準備をすることで補うことが可能だ。そして、ラクリマを即座に顕現させ、ゼノ・エクスクァトを発動できたとしても、この距離であれば身体能力の著しく高い者は回避できてしまうだろう。

だが、かつてゼノ・エクスクァトだったもの。

エイド・リセルクスとの戦闘で行使した『パーシヴァル』であれば、回避不可能だ。あれは距離とか、そういう次元の話ではない。直感でそう感じた。

もし、ブラッドを倒せるとすれば、これが唯一の方法と言えるだろう。


ブラッドは、凡庸な特大剣を構えていた。

鎧に覆われ、表情は分からないが、さほど警戒しているようにも見えなかった。


リアは最大限に集中する。

周囲の音がゆっくりに感じるほど、感覚は研ぎ澄まされていた。



──そして、試合は開始する。



リアの伸ばした手には、変質したラクリマが瞬時に顕現され、


『──パーシヴァル』


光の一閃は、ブラッド穿つように。

回避は不能、完全に直撃である。


大きく抉れた地面に、粉塵は巻き起こる。

本来ありえないレベルにまで粉砕した地面の粉塵と、激しい閃光により、不鮮明ではあるが、誰もが一瞬にして決着がついたと確信した。


──が、不鮮明な中、大柄の男の姿はゆっくりと現れる。


鎧が所々ひび割れ、かけているようだが身体へのダメージは無いようだ。



「──驚いた。ただのつまらん人形だと思っていれば、少しは見所があるじゃねぇか」


機械的な声色をしていたブラッドは、鎧が欠けた影響か、異なる肉声へと変化していた。


「……だが、この程度のアーティファクトを壊せずして、『──パーシヴァル』の名を語るとは、とんだ恥知らずだ」


「神の名を語るなら、それ相応の力を示せ。少しは楽しませてくれた褒美だ。予想とは異なるが、お前に"神の名を語る"資格と、その一端を見せてやる」


『──モルドレッド・レゾナンス』


闘技場を含む広範囲に大きな地震が発生する。

魔法により強化されている闘技場は無傷で済んでいるが、そうでなければ建物が崩れてもおかしくない程の振動。


そして、振動が止まると、地表を激しく突き破るように、巨大な鎖が現れる。

高速で放射状に空に向かって伸びると、リアに向かって複数の鎖は襲いかかる。物体の大きさと質量に似つかわしくない移動速度。一本目をなんとか回避するものの、二本目、三本目と巨大鎖はリアに立て続けに直撃する。

空中に打ち上げられ、何度も袋叩きにされるように、その攻撃はリアが負けて転送されるまで続いた。


程なくして、試合は終了する。

リアが転送された頃、ブラッドの鎧は再生していた。




観戦席で様子がおかしいアルテミシアに気づいたレナは、心配そうに、


「大丈夫か? 穢れの影響で気分が優れないのか?」


「いや、すまん。違うんだ。確かにやつのことは苦手だが、今考えていたのは別件だ」


「と言うと?」


「ブラッドという男、どこか覚えがあるような気がしてな。今は全く感じないのだが、リアが攻撃を仕掛けてブラッドの鎧にダメージを与えた時に感じたんだ」


「一体誰なんだ? オレから見てもブラッドと言う男の強さは異常だ。しかもまだ実力の底が見えない」


「レナがそこまで言うか。であれば、やはり思い過ごしだろう」


「参考までにその"人物"の名を聞いても良いか?」


「ああ。と言うかレナも知っている人物だ」


「なんだって?」


「会ったことは無いがね。以前話した、数少ないセラフィス階級のガーディアン。消息不明で姿を消した男、──ゼルグ・エインドハルグだ」


「事情は知らないが、セラフィス階級であれば強くて当然だと思うが、思い過ごしと言うのは?」


「レナ、お前は異常だ。何度も言ったがはっきりさせておく。そんなお前が、"異常"と表現するような相手はセラフィス階級に存在しない。そもそも、セラフィス階級とアイズ階級の差は、実績におけるものだ。単純な戦闘力で区分けされているわけではない。逆に聞くが、今の段階で、ブラッドレナにとってどれくらいの実力だと思う?」


「難しいな……現段階で言えば、アステリアと互角かどうか……」


「だろうな。私には推し量ることもできない領域だよ。前に言ったと思うが、アステリアはセラフィス階級のガーディアンを超える強さだと思って良い。ゼルグ・エインドハルグについて、全く知らん訳では無いが、少なくともあいつの強さとブラッドの強さは別次元だ。故に、思い過ごしだろうと思ったわけだ」


「なるほど……消息不明になった後に何かがあったか、もしくは別の人物か。まあ、今の試合の結果から、オレが次にブラッドと戦うことは決定した。実際にこの目で確かめるのが一番早いだろう」


「その通りだな。あの鎧を壊して丸裸にしてくれれば、私もさすがに判断できよう。ゼルグ・エインドハルグの姿は特徴的だからな」


アルテミシアは冗談交じりにそんなことを言う。

本日の試合の全てが終了すれば、トーナメントも終盤に差し掛かる。明後日の試合で優勝まで決まる予定だ。

今日のところは、疲れきったルミナの提案で、帰りに温泉に浸かり身体を休めることになった。



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