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クラリアスノート  作者: ゆさ
第六章 『新生リセレンテシア』
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第六章 23 『雪辱』


挿絵(By みてみん)




「──来て。エインセル」


ルナは精霊エインセルによる分身を生み出した。同時に、大鎌を魔力により生成する。


「──セト・レイナス」


リゼも異能により光のガントレットを顕現する。かなり馴染んできたこともあり、その存在感は以前より強く、その範囲は胸辺まで及んでいた。鎧とは呼べないものの、鎧のようなナニカという表現は的を射ている。


二人のルナは交錯するように距離を詰める。リゼは防御体勢を整えながら、魔術を行使する隙を窺う。


最も、リゼの防御は強力なものだが、属性を纏えどその攻撃範囲は、武装の有効範囲に限る。ルナのブレイズ・エッジのように、強力な範囲攻撃を有する異能は無い。あるとすれば、上級強度の基本魔術くらいのものだ。

ルナはそれを理解していた。故に真っ先に詰めてきているのだろう。そして、セト・レイナスの防御性能も同様だ。完全に全身武装でない限り、攻撃の通る箇所は存在する。二対一で揺さぶりをかけられれば、苦戦は必至だ。


──シャリンッ。──カランッ。


純粋な魔力の塊である大鎌と光の武装が激しく衝突し、繰り出される音色は、聞き馴染みのない不思議な感覚を呼び起こす。無論、戦闘中の二人はそれどころでは無かった。


あらゆる方向から何度も斬り掛かるが、リゼの鉄壁の防御は崩せない。

ルナの表情には焦りか滲み出ていた。それは、近接戦闘において、二対一のアドバンテージを有しているはずの自分の攻撃が通用しないことに起因した。


百歩譲って、異能も行使出来ず、純粋な剣技だけでファーストまで上り詰めたヨシュアなら分かる。だが、リゼは近接戦闘は苦手だったはずだ。


──悔しい。

けれど、リゼの成長は認めざるを得ない。


二人のルナはリゼを中心点に、対角線上に距離をとる。


「「──ブレイズ・エッジ」」


二つの大き斬撃がリゼに放たれる。

かつてヨシュアに放たれたものよりも大規模な斬撃。


セト・レイナスの武装を持ってしても恐らく両手を使って凌げるかどうか。

だが、それは不可能だ。対角線上から繰り出されたブレイズ・エッジを両手で防ぐことは出来ない。


優れた運動神経を有した者であれば、ブレイズ・エッジが放たれた直後に、紙一重で避けることもできただろう。

異能セト・レイナスの発現によって、近接戦闘を主軸に変更したばかりのリゼには、到底及ばぬ領域だった。


つまり、片方のブレイズ・エッジによる直撃は必至だった。その刹那の間、リゼは考えていた。


あらゆる属性を付与可能なセト・レイナスの武装。主属性である八属性"以外の属性"はどうなのか、と。


黄金属性についてはあまりにも情報が欠落しているため、想像もつかない。

しかし、無属性はどうだろうか。


『──闇と光系統の魔術を同一座標に重ねることで属性を持たない性質に変質した魔術』


仮に、セト・レイナスの武装を自体に無属性を付与できる性質があるとするならば、闇と光属性を順に付与すれば、無属性へと変質するのではないだろうか。

安直な考えだとしても、試す他なかった。出来なければ負けが確定する。逆に、出来てしまえば、結界に由来するであろう特殊な斬撃、ブレイズ・エッジを防ぐこともできるだろう。


右手側に闇属性、左手側に光属性を付与する。その感覚を体の中心で統合するような感覚。


束の間のこと。静寂武装の雰囲気が一変する。

武装から拡散するように、純白に輝く流線は粒子を散らし、軌跡を描く。かつてアステリアが行使した無属性魔術と雰囲気は似ていたが、同一ではない。その規模は、小さなものだった。


斬撃は直前にまで迫っていた。


──そして。


──パリンッ。


リゼの左手、右手に同時に到達した斬撃は瞬時に粉砕した。




「無属性の異能だと……?」


二人の戦闘が面白みも無く終結すると予想していたロゼリアは、予想外の事態に立ち上がる。


「いいや、似て非なるものだ」


「しかし……あれはどう見ても……」


「無属性というのは本来存在しない属性だ。極めて不安定であるため、異能として確立することはほぼありえないと言って良い。通常、無属性魔術は不安定な状態を強制的に成立させ、拡散させることで真価を発揮する。現在リゼと言う少女が行っているのは、微量の闇と光属性を異能による特殊武装に付与している。状態が不安定になる直前で制御しているようだ。無属性の特性の一部は有しているようだが」


「不安定になる直前で制御……凄まじい制御だな」


「全くだ。才能にも色々な形があるようだ。彼女もレナと同じ施設の一員らしいな。先程のルミナと言う少女も凄まじかったが、一体どうなってるんだ……丸ごと騎士団にスカウトしたいくらいだよ」


ミシェルは呆れたようにそんなことを言う。呆れた、と言っても、驚きのニュアンスが強く、悪い意味では無さそうだ。




決着を確信していたルナは、目の前で起きた事実を理解するのに僅かな時間を必要としていた。

その隙をリゼは見逃さなかった。


「──テラ・デネブレア」


以前はルナの光魔術にり相殺されてしまったが、今回は詠唱させる時間を与えなかった。


「──っぐぁ、、」


強力な重力の塊が一人のルナを押しつぶす。


リゼが攻撃対象に選んだのは当然オリジナルのルナである。理由は三つある。

一つ、エインセルを拘束しても、再召喚されれば無意味だからだ。

二つ、闘技場における結界は精霊使いと、精霊自体にも作用していた。つまり、精霊に対しての攻撃も蓄積ダメージとしてカウントされる。

三つ、エインセルは自己判断で動くことを不得手としているのではないか、という推測。それは、ルナの行動、思考パターンをあまりにも緻密にコピーしている点にあった。仮に現在のルナの思考とリンクしているのであれば、この状況で最適な行動をとることは難しいだろう。


とは言え、ルナはエインセルを帰す訳にはいかなかった。その時点で負けが確定するからである。


リゼは、もう一人のルナ、エインセルに接近する。

エインセルの動きは明らかに鈍かった。


リゼの打撃を受けるべく魔力の大鎌を構えるが──


ブレイズ・エッジ同様、結界に由来する魔力によって生成された大鎌は粉砕し──


振りかざされた右手に込められた雷撃は、強力な打撃と共にエインセルの右頬に叩き込まれた。


そして、二人の勝敗は決する。



──勝者、リゼ・レグラント。



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