第六章 19 『帰路』
映像作品を見終えたレナ達は改装された道を歩く。
建物は異なるものの、以前の雰囲気を残した作りになっている。そのせいか、馴染み深く、心が落ち着いた。
「作り話ということだけれど、なんだか重めの話だったね……」
リゼは軽く肩を落としながら疲れたように呟く。戦いの疲れを癒す目的で訪れた施設だったが、確かに気を抜いて楽に見ていれる作品とは程遠いものだった。
「そうだね。けれど、最終的には人々を守り、歴史に名を刻むほどの騎士になれたのは、オルナちゃんにとっては幸せだった、と私は思うかな」
クラリアスとして生まれたリアにとって、境遇は違えど、逃れられない宿命を打ち破ることを果たしたオルナには、思うところがあったのだろう。
「でも、映像作品はアストルディアで制作されたんだよね。アストルディアにも、あんな場所あるのかな……」
悲しげな表情で落ち込むリゼを見たルナは、
「見たことないから分からないけれどさ、光が強ければ、影も濃くなるものだよね。きっと、理想郷にも思える世界の闇は深いんだよ」
「作り話だからね、そんなに深刻に考えずとも良いだろう」
「でも、アルテミシアさん涙流してましたよね」
リゼがずいっとアルテミシアの顔を覗き込む。
「鼻水も垂らしてたね」
「リゼ、ルナっ、、、なにを」
アルテミシアは頬を染めて動揺すると、話を逸らすように、
「そ、それより、主人公の名前は"オルナ"だったな。確かレナの魔剣もオルナではなかったか?」
「ああ、オレも気になっていた。アウラ、何か知っているか?」
やれやれという表情でアウラは姿を表す。
「何かって……作り話じゃからなぁ。しかし、オルナと言う女騎士は実際に実在し、歴史に名を刻んでいるのは事実じゃ。詳しくは知らんが、かなり前の"剣聖"じゃったと思うが……」
「剣聖と言うことは、ミシェル・アストレアのように騎士団長と言うことか。逸話を残していたりするのだろうか」
「逸話と言って良いかは分からぬが、『剣聖オルナに斬れぬものは無し』と語られている」
「オレは現在の剣聖しか見てないが、斬れぬものがあるとは思えないな……」
「ミシェル・アストレアは歴代最強と名高い剣聖じゃ。存在そのものが逸話みたいなものじゃよ。それに、"斬れぬもの"と言うのは、この場合特殊な意味を含んでいるのでは無かろうか」
「特殊な意味って……いや待て……まさかオルナの能力と関係あったりするのか?」
「さすがに今ある情報だけで関係があると判断するのは無理があるのう。ただ、魔剣自体、幻とも言えるほど希少なレリックじゃからな。何がどう作用しているかも全く未知数じゃ。故に、分からぬ、としか言えんな」
「それもそうか……オルナ自身ともさほどコミュニケーションが取れるわけでも無いからな。聞いてみたが無反応だったし」
リアは少し残念そうに話すレナを覗き込むように、「そうなの?」と問いかける。
「ああ。オレはオルナのことを唯一無二のパートナーだと思ってるから、意思疎通ができるなら、もっとオルナ自身のことを知りたい」
「…………そ、そうだよね」
不自然な間の後、複雑な表情をするリアは慌てて答えた。
そして、その様子を横目で見ていたルナのいたずらが始まる。
「まさかとは思わないけれど、魔剣に嫉妬した?」
「はっ、ハァーッ?! そ、そんなわけないじゃん!! な何言ってんの?!」
顔を真っ赤にして叫ぶリア。
ルナは冷たいものを見る目で「うわ、図星……きっつ」と一歩下がる。
「なっ!! だから違うって!!」
アルテミシアは暴れるリアを宥めるよつに、
「まあまあ、落ち着けってもうアストルムへ到着するぞ」
◇◇◇◇◇◇◇
リゼとエレミアが作る夕食のレパートリーは増えていた。リセレンテシア新設された飲食店の料理を研究した成果である。味の方は無論、絶品だ。
料理に舌鼓を打つアルテミシアは、緩んでいた口元を正すと話し始める。
「さて、明日のトーナメントについて、簡単に確認しておこうか。まず対戦相手だが、最初はレナ対メルト・ローティシエだ。メルトは神徒権限魔法士との事だ。ここに勝ち上がるまで、身体強化魔法以外を使用していないそうだ。近接特化のレナには歯応えのある相手となるだろう」
「楽しみだな。期待しておくよ」
「次は、私とルミナだ。そして、その次がルナとリゼ。同じアストルムのガーディアン同士の試合になるな。これだけ勝ち上がっていればそういうこともあるだろう。私も手は抜かない、各々本気でぶつかるように」
アルテミシアはルミナ瞳をみると、答えるようにルミナは小さく頷く。ルナとリゼも同様のようだ。
「最後に、リア対ブラッドだ。あくまで推測だが、リアの異能に変化が起きているように感じる。もちろん全力で戦って欲しいが、無理をしないように。ブラッドはあまりにも怪しすぎる」
「はい。確かにあの時、異能を行使した一瞬、記憶が抜け落ちてる。ただ、無自覚に異能を行使した訳ではなくて、"そうすべくしてそうした"そんな感覚があったんです。この感覚が何かまだ分からないけれど、私は前に進みたい。だから、頑張ります」
真剣に答えるリアを見たアルテミシアは、少し嬉しそうに頷いた。




