第六章 12 『初戦』
トーナメントの第一試合が終了し休憩日が一日。
レナ達は戦略を練りつつ修練に打ち込んでいた。
現在ガーディアンとしての依頼は基本的に武闘大会に不参加のチームが優先的に引き受けることになっているが、話によるとゼノンの発生頻度はおちついているらしい。本来であれば喜ばしいことではあるが、メルゼシオン襲来により受けた心の傷は未だに癒えていないだろう。
中央闘技場の観戦席にて、
「さあ、本日はついに私達の初戦だ。念の為確認しよう。まずはルール。魔道具の使用は禁止、生命体は精霊と自身の魔力によって生み出された存在を除き戦闘への参加は禁止だ。次に対戦相手。リアの相手は上位権限魔法士エイド・リセルクス、レナは最上位権限魔法士ノクト・レクネシア、ルナはファースト階級のキャロネ・エルハルテ、ヨシュアはブラッド、私はセカンド階級のリテルク、リゼはファースト階級のセシア、ルミナはファースト階級のシルト・クライムとなっている。最も注意すべきは以前話したブラッドだが、私が見たところシルト・クライムの実力はアイズに匹敵する。セシアも相当な手練だ、気を引きしめていこう」
「一つ確認させてくれ。オルナの扱いはどうなるんだ?」
「魔剣か……そもそもの話なんだが、レナが魔剣オルナを使用したら武闘大会のルールそのものが成立しないのではなかろうか、魔法結界も両断できるんじゃないのか?」
「その心配は無いらしい。オルナ曰くアレは結界ではない」
「なんだって?」
「詳しいことはオレにも分からない、ただ、あの結界を文字通り"切る"ことは不可能なのことは事実だ」
「そうか……ひとまずその話はおいておこう。ルール上は問題ないだろうが、ただ、目をつけられたくなければ今回の使用は控えた方が良いだろうな。ただ、そうなると……」
「オレの武器が……」
レナは嘆く。そう、武器がないのだ。
いや、あるにはある。アストルムで対人修練をする時に使用しているボロボロの凡庸剣だ。
そんなレナを見たヨシュアは少し照れるように、
「これ、僕の予備。この際だからあげるよ。魔剣だけって言うのも不便だろう?」
ヨシュアは一振りの剣を手渡す。
輝きを見るに以前レナがポキッと折ってしまった2000万ルルはくだらないオリハルコンを含む剣である。いや、よく見るとヨシュアが持っているものに比べ、さらにエメラルドグリーンのような、金属と言うには異質な色をしていた。ミシェルが装備していた剣に少しだけ似ているようにも思えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。こんなに高価なも……」
断ろうとするが、言葉が詰まる。
剣士たるもの、この剣を目の前に差し出されて断れるのか。否、手に取りたい取りたいと思うのが正常である。
「でも、予備なんだろう? 本当に良いのか?」
「良いって。この剣はオリハルコンの含有率が高めなんだ。オリハルコンは最強硬度を誇るがそれだけじゃない。魔力に依存する部分があるんだよ。だから、正直合わないんだ」
「しかし……」
レナの右手は断りながらも、徐々に前へ移動する。
「だから良いって!! 修練でいつもボロボロの剣で相手されると気に触るんだよ」
「そ、そうか……本当にありがとう。大事に使わせて貰う」
レナは満面の笑みで受け取った。
値段は気になるが、あえて聞かないことにした。
そんなやり取りをしていると、ふとリアの通信端末に通知がくる。
「あ、準備してくださいだって。私行ってくるね」
リアは軽く呼吸を整えるとレナ達に送り出され、控え室へ歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
鳴り響く歓声。
トーナメント一回戦目よりレベルの上がった戦闘により、会場は盛り上がっていた。
そして、リアとエイド・リセルクスの戦闘が開始されようとしていた。
合図と同時にリアはラクリマを顕現する。
「リアのラクリマって形が変わったよね。リア以外がラクリマを使用しているところを見たことないけれど、そういうものなのかな?」
リゼはふと疑問をこぼす。
ルミナとリアの一件以来、リゼはリアとよく修練していた。その時は自然にうけいれていたが、こうして改まって三人称で見ているとその形状の変化はかなりの差異がある。
「私もリアほどに存在感の強いラクリマを顕現できる者はかつて一人しか見たことがないが、形状が変化するという話は聞かなかったな。詳しくは分からないが、リアは恐らくそのステージの一つ上にあるのだろう。賢者様が言っていた"クラリアスの行き着く完全な姿"に関係するのかもしれない」
アルテミシアは少し複雑な表情をしていた。
「リアほどに存在感の強いラクリマを顕現できるクラリアス……?」
ルミナはクラリアス、そしてガーディアンとして多く施設を移動し、多くのクラリアスと会ってきている。そんなルミナでもリアほどに存在感の強いラクリマを顕現できる者を未だ見たことがなかった。故に、アルテミシアの言葉が引っかかったのだ。
「……クラリアスとしても特別なんだろうな……すまん、その話は聞かないでほしい」
「うん。私も空気読めないこと言ってごめん……」
ここまで悲しげは表情をするアルテミシアを見たことがなかったため、ルミナは申し訳なさそうに肩を落とす。
「いや、今のは私が悪いんだ。すまない。 さ、リアの戦闘を見届けよう!!」
「う、うん。そうだね!!」
少し気まずい雰囲気になってしまったのを払拭するように、二人は振る舞う。




