第六章 11 『観戦の後』
レナ達はトーナメント初戦を最後まで見届けた。
興味深い戦闘に目を奪われ続け、気づけば夕暮れだ。
「そろそろ帰るかね」
アルテミシアが満足したように伸びをすると、
──くぅーっ……
小さく音がした。
発生源は明白である。リアだ。
レナは隣にいたため気づいて当然だが、気づかないふりをしていた。
表情を見なくても分かる。間違いな俯いて紅潮しているだろう。だが、アルテミシアがそんな事を気にするはずもなく、
「私もお腹空いたぞ。新設したという飲食店にでも行ってみるか。武闘大会に出場している間に制覇しようじゃないか」
リアは小さくこくりと頷いた。
ルミナは目を輝かせ、リゼは至極真剣な表情でノートと筆記用具を用意する。
中央闘技場の周辺には新設された様々な娯楽施設や飲食店が立ち並んでいる。以前もその類の建物はリセレンテシアにも存在したが、どれをとっても進化しているという他ない。
◇◇◇◇◇◇◇
目の前には豪華な料理が並んでいた。
リセレンテシアではかつて無い内容。見た目からして分からない料理もあれば、何となくシルエットから食材を当てられる料理もある。
「なんだがすごく良い香りがする!! 魚だよね……? 全く臭みが無いし、外はカリッと、じわっと香ばしい風味が広がり、中身はホクホクっ……!! なにこれ!!」
ルミナは満面の笑みで料理を頬張る。
リセレンテシアで提供される海鮮の多くはリセレンテシア郊外から調達されるため、どうしても鮮度は落ちてしまいがちだ。
だが、おそらくこの店における料理の食材が新鮮というわけでもない。
そして、何なら真剣な表情でメモを書きまくるリゼがぶつぶつと呟いていた。
「これは珍しい香草を使ってますね、かなり香りが強いですがバターのまろやかさが中和している……このカリッと食感はっ……まさかパンを粉末状にして魚に塗している……!? この様々な食材が層になっている料理は一体……おそらく白身魚なのでしょうが……悔しくも作り方が想像できないっ!!!!」
「なんかリゼ、自分の世界に閉じこもっちゃってるよ……まあ、私達の食べる料理の質が上がりそうで個人的には嬉しいけれど」
ルナはリゼの目の前に手を差し出し振る仕草を見せるが、全く気づいていないようだ。
そんな光景を見たルミナは素朴な質問を投げかける
「そういえばさ、ルナって料理できるの? リゼって料理に関してはエレミア以外の手伝いは受け付けていないけれど、ひょっとして料理が上手いとかあるのかなって」
「私が? 本気で思ってる?」
ルナが正気を疑うかのようにルミナに聞き返す。
その様子が面白かったのか、紅茶を飲んでいたヨシュアは小さく吹き出す。
「……っ!! お前っ……」
ルナはキリッとヨシュアを睨みつけるが、いつもの表情とは異なり若干違和感があった。
不思議に思ったリアがついルナの表情を見てしまったことにより思わぬ飛び火を被ることになる。
「なんだよ?! 確かに料理なんてできないけれど、実際やってみたらリアよりは上手くできると思うよ」
「なっ?! 私何も言ってないじゃん!!」
「表情が気に食わない」
ルナはふいっと不機嫌そうに顔を背けると再び料理を食べ始めた。
「……なんか釈然としないんだけれど」
「まあまあ、ルナにも可愛いところがあるという事だ」
アルテミシアはそう締めくくると本題に入るように、
「で、私達の初戦は三日後だけれど、早くも対戦相手が確定した者がいるね。まずレナ、対戦相手はノクト・レクネシアだ。私の対戦相手はリテルク。そして、ヨシュア、対戦相手は……ブラッドだ。リテルクについてはセカンド階級のクラリアスだから、余程のことが無ければ私が負けることは無いだろう。ノクトについても、実力の底は見えないが相手が悪い、レナが負けるとは思えんな。問題は……」
アルテミシアは、ゆっくりと視線をヨシュアに向ける。
「もちろん戦うからには全力で戦う。だが、僕はブラッドという男の強さが見た時点では認識出来なかった。レナと戦った時と同じだ。奴のソレは単純な身体機能では無い。だからこそ聞きたい……レナはどう思った?」
「……皆ブラッドと言う男が普通では無いことに気づいているだろうし、今からオレが感じた事を正直に言う。確かにあの男にはアルテミシアが言うように悪意、と言うべきか……いや、"憎悪
"だろうか……重大な何かを胸の内に秘めているように感じた。だが、オレが初めてブラッドという男を認識したとき……」
「エリュシオン達と同等の存在、そう、──"アマデウス"であると、そう感じた」
レナは真剣な表情で言い切った。
アルテミシア衝撃を受けるが、会話を遮らないように息を飲んだ。
「……そうか、レナが言うならそうなんだろうな……ちなみにレナは勝てるか?」
「どうだろう……エリュシオンのように"神器"を使用するのであれば、オレにも想像がつかない。ただ、それは無いだろう。仮にブラッドがアマデウスだとして、この武闘大会において神器を使用することは無いだろう。であれば、ヨシュアが勝つ可能性もゼロとは言いきれない」
「ははっ……意外に過大評価してくれてるんだな。奴の表情を曇らせる程度には食らいついてみるさ」
ヨシュアは乾いた笑いを誤魔化すようにそんなことを言う。
「ところでさ、レナってなんで"オレ"って言うようになったんだ? 瞳も前より何となく暗めと言うか、紅くなったよな」
「……すまない、意識したことがなかった。瞳の変化はメルゼシオン襲来の時に無理に力を使ってからだと思うが……どうしてだろう……」
空気が停滞する。
突飛にヨシュアが尋ねた事だが、リア達も実は気になっていたのだろう。
そして、そよ風と共に、沈黙を破るようにアウラが現れた。
「ま、今日のところはこんな所にしておこうじゃないか。レナの魔力はわしが感じ取れるから心配無用じゃ。何か分かった事があればわしからも話そう」
何なら急ぎ足に説明する。
少し焦っているようにも見えた。けれど、現状の事実として問題になることは一切無いのだ。
レナ達は甘味まで食べ尽くすと、店を出て言った。




