第六章 7 『中央闘技場』
リセレンテシアの中央に位置する場所。
土地面積ではクロスティア学院に引けを取らない程立派な闘技場が存在感を放っていた。
「遠くからでも良く見えたし、大きいとは思ってたけれど改めて近くで見るとすごいね」
リゼは建物の全体像をとらえようとするが、近くでは見上げるのも苦しいほどの高さだ。
「そうだねー、それにやっぱりどこか先鋭的だよね。クロスティア学院の造りに似てる気がする」
ルミナも目新しいものを見るように、建物を見廻す。
闘技場としての外観としてはあまりイメージと一致しない。
地属性の異能で建物を造り出す異能を行使する者は存在するが、魔法により造り出された建物はまるで別次元である。
そもそも、行使可能な人数が違うのだから比較すること自体間違っているのかもしれない。手作業で建築するとしても、人手が数人と数十人では作れるものが違う。
「何やってるんだー? 組み合わせ表が提示されているから中に入るぞ」
アルテミシアは建物の外観なんぞに興味ももたずにすたすたと歩いていく。
ひとまず受付を済ませると、対戦相手の組み合わせ表が提示されている大きなディスプレイがある場所へ足を運んだ。
対戦相手を知るのは今回初めてだが、トーナメント形式であるため、試合結果を把握しておけば次に誰と戦う相手を知ることが出来る。
「参加者が六十四人、六回勝てば優勝か……ってあれ?」
トーナメント表を目で追うレナは首を傾げる。
何故ならば、自分の名前が見つからなかったからである。正確には初戦に自分の名前がなかった。そう、レナは二戦目からのシード枠のように表記されていた。
「ああ、ガーディアンのファースト階級、上位権限魔法士以上は一戦目は免除されているようだね。人数合わせで数人は一戦目も戦う者もいるようだが、私達には関係無いようだ」
「理解した。ちなみに初戦で負けた場合一試合で終わりなのか?」
「いや、確か初戦負け組は別でトーナメントが行われるらしい。基本的には最低二試合と言ったところだね。私達のようなシード枠の者は二戦目が初戦になるので負ければ一試合で終了だ」
アルテミシアは少し嬉しそうに、「では、対戦相手の確認も兼ねて見学にでも行こうかね」とつけ加えるとレナ達を誘導する。
正直言ってレナの中にも期待感があった。『魔法』というもの自体、ほぼ見たことがないからだ。オルフェイアの魔法士がどのような戦いをするのか興味があった。
昇降機でかなりの高さまで上昇すると、広大な闘技場を囲むように大量の観戦席が並んでいた。
闘技場の上には戦闘の様子を詳細に映し出すであろう特大のディスプレイが複数設置されている。
その光景はフェルズガレアでは考えられないような、まるで"戦闘を娯楽として楽しむ"ための設備だった。
そして、レナ達の視線は自然と闘技場中心の地面に吸い寄せられた。
「あれが噂の魔法陣……想像より遥かに大きいし……緻密すぎる……一体どうやって……」
リゼは驚きよりも感動の声を漏らす。
異能にも陣を出現させる能力も存在する。それに、魔法陣自体も講義で軽く触れる程度の知識もあった。
だが、そのいずれとも異なる。
その魔法陣はあまりにも巨大で、描かれた刻印は緻密すぎて数メートル離れただけでその模様を識別するのは厳しい程だろう。
「さあ、そろそろ始まるぞ。お手並み拝見といこうか」
アルテミシアが待ちわびたかのように言うと、派手な音と共にディスプレイに文字が表示される。
『 【最上位権限魔法士】ノクト・レクネシア VS 【セカンド階級ガーディアン】セリカ・ネルハイド 』
「最上位権限魔法士……アルテミシアも言ってたが"最上位権限魔法士"とは一体何を示すのだろうか。フェルズガレアのガーディアン階級みたいなものか?」
「私もそのような認識で良いと勝手に思っているのだが、何にしてもそこら辺の情報は全然知らなくてな……実際に魔法を行使しているヨシュアは何か知っているか?」
アルテミシアはヨシュアへ質問を丸投げする。実際のところアルテミシア自身も気になっているのだ。
「僕に聞かれてもな……異能のことは分からないけれど、魔法は結構明確何だよね。意識を集中させると、現在行使可能な魔法が脳内に浮かぶ。アストルディアでちゃんとした教育を受けていれば今行使している魔法が一体何なのかを知ることも出来るかもしれないけれどね。ただ、基本魔術っぽい詠唱名で"メラ・イグニス"って言うのがあるから、それで強度順に考えると"低位権限魔法"になるのかな?」
「なるほど……アウラ、何か知らないか?」
レナはふんわり理解した感じが気持ち悪くついアウラに呼びかけてしまった。
「ヨシュアが言っておる認識で基本的には正しいぞ。メラが低位権限、ギラが中位権限、テラが上位権限、ゼラは最上位権限、クエラは神徒権限、あとその上に一つあったかのう」
「神徒権限? その上ってことは強度で言うとメルということか?」
「メルは"災害級"と呼ばれており、本来わしら大精霊しか行使出来ない力じゃ。それでは無いが強大な力じゃよ。まあ、今は試合でも集中して見ておれ。ノクト・レクネシアという男が勝ち上がれば次はレナが剣を交えることになるんじゃからな」
レナは「──え?」と言いたげな顔をしている。勝ち上がったら自分が戦うことになる相手を把握していなかったのだ。
「レナ…………まあ、見て得るものの方が多い。この戦闘で"魔術"と"魔法"の決定的な差を知ることになるじゃろうから、黙って見ておれ」
アウラは呆れたように言い聞かせるが、レナの興味は既に試合へと移っていた。
そして、なんとも単純な可愛いやつめ、と思いながら契約者の緩んだ表情を眺めていた。




