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クラリアスノート  作者: ゆさ
第二部 『アストルディア邂逅編』
73/132

プロローグ 『再生』


挿絵(By みてみん)




メルゼシオンの襲来によりリセレンテシアに住む者達の半数が消滅、建物は半壊した。


──が、その面影は既に無かった。


王都アスティルフェレスの騎士団長の協力もあり、三ヶ月程で復興は完了した。アストルムも完全に修復され、むしろ前よりも先鋭的な建物へと変化している。

ネイトがいなくなった今、その役割は後任のマリナ・エクトルネアが引き継ぐことになった。



「フェルズガレアがここまで早く修復されるなんて思ってもみなかったよ」


アストルムの屋上でくつろぐリアは眩しそうに空を見上げる。屋上スペースは以前は存在しなかったが、ルナの要望で新設された。

なんでも、夜に月と星空を見るのが好きらしい。神樹に近いアストルムの夜空が美しいことはリア達皆が感じているところである。それに、こうして気軽に開放的な空間に来れるのは便利なものだ。


「そうだねー。アストルディアの技術力はすごいね。あれも魔道具なんだよね? フェルズガレアに存在する魔道具と技術レベルが桁違いだよ」


「ルミナの言う通り、街の修復に用いられたのは魔道具だ。ただし、その技術の源はおそらく異なる。フェルズガレアの魔道具は、異能を元に魔力を干渉させることで特定の事象を起こすように設計されたものだ。だからこそ、魔道具の作成は難解とされている。そんな中、いくつも魔道具を生み出しているアウレオ様は文字通り歴史に名を刻む天才と言えるな」


アルテミシアは呆れた表情をする。レナにエリュシオン、アステリアが規格外で違和感がなかったが、そんな現実離れした天才と少し前まで一緒に戦っていたことが今となっては信じ難い。



「天才かぁ……そう言えば、セラフィス階級のガーディアンを見たことないのだけれど、実在するのですか?」


リゼは不思議そうに尋ねる。クロスティア学院自体、学院と銘打つものの、その形態は一般的な学院とは異なる。あるのは階級のみ。階級に合ったカリキュラムが存在するが、最優先されるのは実力であり、講義を受けるタイミングもまちまち、そして卒業という言葉がある訳でもない。故に会わないガーディアンとは会わないのだ。

特にセラフィス階級ともあれば、街の護衛よりも危険な依頼をこなしていることが多いだろう。


「セラフィス階級ねぇ……私は三人心当たりがあるぞ。いや……実質的には一人かな」


「実質一人ですか?」


「そうだ。一人目は正真正銘のセラフィス階級である、ロゼリア・イシュタル。ガーディアンとしては珍しい獣人族の女性だ」


「確か獣人族の故郷はエルドグランにありましたよね。珍しいと言うのはどう言うことなのですか?」


「獣人族はエルドグランのラガルトセルクが生地だ。古来より獣人族は迫害を受けてきた種族でね、現在も多くがリセレンテシアではなく未だにラガルトセルクに住んでいる。自分達を迫害してきた連中を命懸けで守ろうなんて普通は思わないだろう。だが、ロゼリアは違った。自らを迫害してきた連中を守り、獣人族に対する意識改革までもやってのけた。今現在、獣人族に対する差別意識が少ないのはロゼリアによるところが大きいだろう。そういう意味でも、彼女は本物のガーディアンだ」


「すごい人もいるものですね。私も見習わなくちゃ……」


「確かに立派だけれど、そういう人から順に死んでいくものだよ。そのロゼリアと言う人が生きているのは強いからであって、私達レベルのガーディアンに余計なことを考える余裕はないよ」


ルナは釘を刺すように言う。確かにそうだ。つい最近死にかけたばかり、私は死んでいたはずだった。今ここに立っていることさえ、当たり前では無い。崇高な志を余計と称することの善悪を推し量ることは私達にはできないだろう。


「それで、あとの二人は誰なのさ」


「普段はクロスティア学院の地下研究施設にいると言われるセラフィス階級のガーディアン、ユオン・グリモワール。エルフの男性で異能の形式化、つまり魔術という概念を生み出すことに一役買った天才だ。だが、今はガーディアンとして活動しているという噂さえ聞かない。そして……」


アルテミシアは口ごもる。レナが「どうした?」と心配そうに尋ねると、不機嫌そうな表情でゆっくりと口を開いた。


「……ゼルグ・エインドハルグ。かつてセラフィス階級のガーディアンだった男だ」


「かつて?」


「そうだ。ゼルグはセラフィス階級、ガーディアンの称号を剥奪された者だ。私自身、奴とは話をしたことがある。酷くまともな奴では無かったな。自身の力を誇示し、女を食い荒らし、依頼も気まぐれで放棄する始末。挙げ句の果てには遠征に行ったまま消息不明。それでも奴がセラフィス階級にまで上り詰めたことには理由がある。それは一重に"強い"からだ」


「セラフィス階級であれば強いのは頷けるが、そんなに強いのか?」


「──未だかつてゼルグ・エインドハルグが傷ついた所を見た者はいない」


「傷ついたことが無いだと?」


屋上の片隅で耳を傾けていたヨシュアは疑いの眼差しを向ける。セラフィス階級の依頼をこなして無傷と言うのは到底信じられない。

異例の自体が重なったとは言え、レナでさえ傷つくこともあったのだ。仮にそれ以上の存在だとするならば、想像もつかない。



「一緒に戦ったことがあるわけではないからそれが真実かは分からない。もっとも、あんな奴こちらから願い下げだ。上の階級であっても少しも尊敬出来ない」


アルテミシアはあからさまに嫌そうに語る。女を食い荒らしたと言っていたが、アルテミシアもなにかされたことがあったのだろうか。

ともあれ、嫌そうな話題を無理に続けることもないだろう。


話も途切れた丁度良いタイミングでリゼは「あ、そろそろ夕食の準備しなきゃ。」と、室内へ戻っていく。




◇◇◇◇◇◇◇



リゼの隣に立つのはエミレア・ラキセトレス。サード階級のガーディアンである。

先日12歳をむかえたエミレアは、最近リゼの料理の手伝いをしている。筋が良く、リゼも助かっているようで完全に師弟関係のようになっている。


「リゼさんは何故そんなに料理も家事も得意なんですか?」


「もう敬語は使わなくて良いし、リゼって呼んで良いのに……。私が家事全般得意なのはガーディアンになる前の経験が生きているのかも。私は物心つく前から両親いなくて、その代わりをおばあちゃんがしてくれてたんだ。大変なのに私の世話をしてくれて、その恩返しをしたくて色々手伝いはじめてさ。その中でも、初めて料理を作った時の記憶が一番鮮明だなー。『美味しい!』ってとっても喜んでくれてね。今でも自分の料理を大切な人が美味しそうに食べてくれるのが本当に嬉しくて幸せなんだ」


「私も物心つく前から身寄りは一切なくて、ガーディアンになった理由も今考えたら甘い考えだったと思いますが、リゼさんの言う『大切な人の為の行動』が自分の幸せに繋がるということが少し理解出来た気がします」


「きっと甘い考えなんかじゃないよ。始まりは確かに重要だけれど、全ては変化していく。それは私自身も含むんだ。考えて見れば当たり前のことなんだけれどね。それでも私は見えなくなっていた。色々なことが見えているつもりになっていたんだ。だからこそ、エミレアが今"理解"できたことはとても価値がある事だと思う。不甲斐ない私だけれど、できることがあったらこれからも何でも言ってね」


「はい!!」


エミレアは満面の笑みで答えた。

私が理解出来た気になっていることなんて、大したことないことのかもしれない。けれど、だからこそ私は"大したことないこと"を大切にしようと思う。

些細でも良い。リゼさんのように、大切な人を支える存在に私はなりたい。




◇◇◇◇◇◇◇



リゼとエミレアの二人がかりで調理するようになってから、一段と料理は豪華になっている。食材が高級だとかそう言う話ではない。単純に手の込んだ料理が増えたのだ。

レナ達はそんな料理を頬を緩ませながら口へ運ぶ。


「メルゼシオンの襲撃によりリセレンテシアの人口は半数近くになった。復興も進み人も集まってきたものの、未だに以前に比べると人は少ない。そして、ゼノンの出現率が下がっている。理由は、まあ、察してくれ」


マリナはばつの悪そうな表情でそんなことを言う。ゼノンの出現率が下がるのは良い事だが、問題はその理由である。単にガーディアンの活躍により副次的にゼノンの出現率が下がったなら喜べるが、そうでは無いからだ。

メルゼシオンの襲撃により自分または他人を守る力を有している者は生き残り、そうでない者は消滅した。つまり、今生き残っている者は生存能力が高いとも言える。

そして、リセレンテシアの外から流入してきた者も過酷な環境下から移動してきた為、同じことが言えるだろう。生存能力が高いということは、死亡しゼノン化する可能性が低いことを示している。当然住民とガーディアンの比率も変化している。守護される者が減り守護する者が増えたのだ。


「そこで、少し変わった趣向の依頼が来ている。リセレンテシアに新設されたとある施設『中央闘技場』で開催される武闘大会への出場依頼だ。以前だったら『フェルズガレアにそんな余裕は無い』と文句がでそうなところだが、今はだいぶ落ち着いているからね。それに、このような催しはリセレンテシアの外から人を招く引き金にもなる。そして、この武闘大会には一つ大きな目玉が存在する」


レナは内心期待していた。闘技場を見た時から面白そうな趣向だと思ってしまったのだ。フェルズガレアでは確かに"生きるため"以外で刃を交えたり、大勢の前で見世物のように戦うことはまず無い。そんな大きな闘技場で行われる催しの目玉と聞いて期待しないはずがない。


「その目玉とは、オルフェイアも参加するという点。そして、優勝者には賞金と"剣聖と戦う権利"が与えられる。剣聖ミシェル・アストレア様は、フェルズガレアの復興に協力を仰いでくれたお方だ。万が一、剣聖に勝つことが出来れば特別な報酬が用意されるそうだ」


「万が一って……」


レナは苦笑いする。目の前でミシェルが刃を振るう姿を見ているのだ。構えも無しの軽い一振でメルゼシオンを消滅させた光景を。だが、少し理解出来る気がした。

今回名乗り出たのはおそらくミシェル本人だ。闘技場を新設することを提案した可能性さえある。あれ程の実力者であれば、自らと張り合える剣客を見つけるのは骨が折れるだろう。それでも、きっと自らと対等に刃を交える存在を探し求めているのだ。


「で、出場資格はあるのか?」


「誰でも参加可能だ。だが、レナはミシェル様の要望で参加することになっている。これだけ復興を手伝って頂いた手前、断ることはできん。すまないが参加してくれ」


「剣聖の要望……戦うのはオレも好きだが……つまり優勝しろってことか?」


ミシェルが仮にレナと剣を交えたい故に参加を促したのであれば、レナが優勝しない限りその願いは叶わない。


「いや……誰が相手かは関係ない……か。分かった。参加しよう」


レナは気づいた。ミシェルが探し求めている相手はきっとレナではない。否、レナでなくともかまわないのだ。レナが優勝してくれたら良し、レナを打ち負かす者が優勝してくれならなお良し。そう言うことなのだろう。


「その他はどうする? アストルム以外の人材やオルフェイアと戦うことも出来る。きっと良い訓練にもなるぞ。」


話し合いの結果、レナ、リア、ルミナ、リゼ、アルテミシア、ルナ、ヨシュアの七人の武闘大会への出場が決定した。





ゆさです。

クラリアスノート第二部開始しました o(*º▽º*)o

よろしくお願いします (* ᴗ͈ˬᴗ͈)”


2023年10月23日

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