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クラリアスノート  作者: ゆさ
第五章 『神を身に宿す者』
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第五章 15 『絶望に満ちて』


挿絵(By みてみん)




レナ達を乗せた美しきな青いドラゴンは空を翔る。

上空に行けば行く程に不自然な空間の歪みは鮮明になる。


「シャナ、ルドレイヴ、ありがとう」


「気にしないで、いつでも来るって言ったでしょ。それよりも……」


リセレンテシアの上空は、歪んでいるだけにとどまらず暗雲に満ちていた。目を凝らすと黒煙のようなものまで見える。


「……まさか……リセレンテシアが……」


「こんな光景見た事がないよ。精霊達も怯えてる」



「とにかく、アストル厶へ急ごう。このまま神樹に向かって進もう」


「うん。振り落とされないでよ。ルドレイヴ、やっちゃって」


シャナが呼びかけるとルドレイヴは大きな翼を絞るように細めると急加速する。

できる限りルドレイヴにしがみついていた。──ヒューッと言う音が長らく聞こえていたが、その音は突如途絶える。


ルドレイヴの体表はひんやりと涼しいが、周囲から熱気を感じたのだ。


リアは真っ先に目を開き上体を起こすと、


「なに……これ……」


意味がわからなかった。

目に見えるもの全てが受け入れ難い事実だった。


リセレンテシアの建物は倒壊し炎上している。

黒煙は逃げ惑う人々を呑み込むように取り囲む。

散乱する身体の一部はクラリアスのものだろう。


私達が守ってきた街は、一日離れていただけで火の海と化していた。

その元凶がゼノンでも魔獣でも無いことは明白だった。

雨のように降り注ぐ光柱は触れるもの全てを破壊する。


光柱の発生源が何であるのか、直接確認せずとも分かった。

大切な仲間の体に幾つもの風穴を穿った光柱。


発生源を確認しなかったのにはもう一つの理由がある。これ以上、絶望的な事実を受け入れたく無かったのだ。


「ルドレイヴ、そのまま神樹の方へ連れて行ってくれ!!」


リア達が言葉を失う中、レナは叫ぶ。

これだけの惨状の中で、アストルムがどうなっているのかを想像することは容易だった。


ルドレイヴは旋回するように街並みの少し上を通過すると、レナ達を下ろす。



そして、レナ達はアストル厶へ辿り着く。


──遅かった。何一つ間に合わなかった。



先日アストル厶に移動へ来たばかりのルナとヨシュアは、瓦礫の中立ち上がることも出来ずに。

残りのガーディアンは瓦礫に埋もれているのか、既に消失してしまったのか。

いずれにしてもそこに希望は存在しなかった。


大切な仲間である少女は前に立つ憧れの女性にもたれ掛かるように。

光柱が降り注ぐ中、その二人を貫くように"異形"たるゼノンの歪な右腕は貫通していた。


ゼノンはさほど強い部類では無い。

そんなことは分かりきっている。

見慣れた髪飾り、歪な黒い肌の上に僅かに残っている見慣れた衣服。


──そのゼノンはネイトだった。



色を失った瞳。

息を僅かに吸い込む為に動く唇。


もし、なにかの奇跡が起きてネイトが正気に戻ったのなら。


そんな奇跡が起きる訳もなく、突きつけられるは残酷な現実。

光柱が降り止むと、辺りには黒い影が落ちていた。


隣で泣き叫ぶ少女の声は、僕の鈍く麻痺した鼓膜を振動させる。

水の中に溺れたような感覚。

聞きなれた少女の叫び声が、何処か遠くに感じた。


深く深く、水の中に沈んでいく僕の身体。

きっと水面の上の世界が何よりも絶望に満ちていると知っているから。


守るべき大切な人達は既に存在しない。


このまま沈んでいく方が良いと、心のどこかでそう思っていたのかもしれない。


ただ、大好きと言ってくれた少女の叫び声が、水面から射し込む光のようにも見えて、手を伸ばして、掴みたくて、安心させたくて。


──大切な人を守る為に僕の全てをかけると決めたのだから。



一閃。



──僕は、守るべき存在の一人をこの手で殺した。


アルテミシアとリゼを貫いていた歪な右腕は崩れるように昇華する。


「アウレオ、この周囲で息のあるものを集めて治療できないか?」


「……だが……いや、良い。そちらは私に任せよ。ハルモニア、負傷者の回収を頼む。アステリアはレナ達につけ」


絶望的な光景を前に立ち止まっていた二人だが、主の言葉で我に返る。


「リア、大丈夫。何があっても、君達は僕が守るから。どんな結末になろうと、最後まで戦うよ」


「……私だって戦う。例えこの身が壊れても」


「私も戦うよ。リアを傷つける奴は例え神でも殺してやる」


レナ達は覚悟を決め空を見上げる。

そこには、百を優に超えるメルゼシオンが飛び交っていた。



「とは言ったけれど……」


レナは乾いた笑いを零す。

覚醒したリアが倒したメルゼシオンは一体だ。姿形を見るに、それと同一の個体かもまだ分からない。

今の状況はあまりにも常軌を逸している。


エリュシオンはレナの横に立つ。


「せっかくレナが救い出してくれたのに、こんなにも美しい世界が壊れてしまうのは悲しいな。私もできることはやるよ」


「──グィネヴィア、いくよ」


エリュシオンが呼びかけると、純白の髪は更に神々しき光を宿し、流線的な光の衣が生成される。


「──来て、モルデュール」


エリュシオンの左手には純白の刺剣が顕現する。

細く美しい刺剣は、おそらく直接攻撃に利用するものではない。


モルデュールを上空に向けるエリュシオンは詠唱する。


「──メル・グラキエス」


遥か上空を起点に、リセレンテシア全土を覆うほどの範囲に猛吹雪が吹き荒れる。

火の海だった街中はそう時を待たずして鎮火した。


そして、上空は白く視認できないほどに冷気に満ち溢れていた。




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