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クラリアスノート  作者: ゆさ
第五章 『神を身に宿す者』
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第五章 8 「賢者の贖罪」


挿絵(By みてみん)





「では皆が揃ったので話を始めるとするかのう。わしはアウレオ・アルヴァイスと言う。レナが目覚めた時に一度会ったかね。初対面なのはハルモニアくらいじゃろう」


「アウレオ様の従者、ハルモニアです」


ハルモニアの声は何度聞いても美しく透き通っていた。

声と言えば、初めて聴いた時にどれほど感動する美声であっても、何度も聞けばある程度は慣れてくるものである。

それでも、ハルモニアの声は初めて聴いた感動が毎回のようにやってくる。ただの声という領域にはないように感じた。


アウレオは紅茶を少量口に含むと「では、早速本題に入ろうかのう」と話し始める。


「わしがレナとリアをここに呼んだのは、レナを直接この目で見たかったこと。そして、リアが戦場でヒトならざる者へ変化したと言う話をアステリアから聞いたからじゃ」


ルミナが「え? 私は?」と口を挟むが、何やらアステリアに頭を抑えられ藻掻いていた。


「リアよ、何か思い当たる節はあるか?」


「……私、リゼが身体を貫かれて……それを見ていて……手が届かなくて……でも、無我夢中で……気がついたら敵は消滅してて、レナに抱えられていた」


「ふむ……記憶は無いか……」


アウレオは考え込んでいた。

リアの答えが自分の予想する答えと違ったのだろうか。

そんな中、頭を抑えられていたルミナは振り払うように、


「ちょっとさ、その前に聞きたいことあるんだけれど」


ルミナはさっきまでとうってかわり真剣な表情をしている。


「どうした、言ってみるが良いルミナよ」


「今回の編成にリゼを入れるように依頼したのはお前か?」


ルミナは刺すような視線で会うレオを睨む。

アステリアはルミナをキリッと睨み、刃を取り出すような仕草をみせるが、アウレオが手で静止することで刃を収めた。


そして、アウレオは悲しげな表情で、


「そうじゃ、わしが依頼した……」


「──っ!!」


ルミナは体を乗り出し、アウレオの胸ぐらを掴んだ。

そこの光景を目の当たりにしたアステリアも我慢の限界に達し、ルミナの首元に顕現した赤紫の短刀を向けていた。


『──やめなさい』


ハルモニアの美しく透き通った声は響き渡る。


声に弾かれるように、ルミナとアステリアはソファーの背もたれへ不可視の力により引き戻される。

その衝撃により二人は「「──っぐぁ」」と声を漏らす。


「アウレオ様……何故そのような嘘をおつきになられるのですか?」


ハルモニアは、綺麗に整った表情に翳りをみせた。

今にも壊れそうな、大切なものを眺めるように。本当は触れたい、包み込んで安心させたい。

だが、その程度の気持ちで救われることなど無いと分かっている。


「嘘ではない。止めなかったと言う事は、その行為を認めたも同義じゃ」


「……それはどう言う──」


ルミナが言いかけると、


「本意じゃないって言ってるんだよ!! だからアウレオ様は僕を同行させた。君達の事だってそうだ!!!! なんで被害者ぶってるんだよ!! 悪いのは世界と学院だろう!! なんっ……で……みんなアウレオ様の事を悪者扱いするんだよ……なん……で……っ……」


何も言い返せなかった。

ルミナの胸ぐらを掴んだ少女は涙を流していた。

意味は分からなくても、少女のアウレオに対する想いは伝わった。

その想いを否定するほどルミナも冷徹にはなれなかった。


「アステリア……もう良い。わしは罪を犯した。例えリアがわしを殺そうと、ルミナがわしを殺そうとも抵抗するつもりはない。それがわしの贖罪じゃ」



「……なにを言っているの? 私が殺す? 罪?」


「そうじゃ、以前アスタロテが話したじゃろう。クラリアスを生み出したのはわしじゃ。そして、学院にその技術を提供した。ルミナ達が生まれた時からガーディアンとして戦うことを強いられる存在、"魔導式戦闘人形"にしてしまったのはわしの咎じゃ。 かつてのわしは好奇心だけでヒトの心を弄び、クラリアスを生み出してしまった。そして現在に至るまで、一体何人のクラリアスが死んだことか、その命はわしが奪ったと言っても良い。故に、ルミナ達がわしのことを殺したいほど憎き存在だと言うならば、殺されても文句は言うまい。当然の報いじゃ」


賢者は語る。

自分の犯した罪を受け入れ、今も尚苦しんでいる。

何百年もの間、その黒い感情に心を押しつぶされそうになりながらも不老の肉体は朽ちることは無い。


その綺麗な髪は、瞳は、さほど高くない背は、指先で触れれば崩れ落ちてしまいそうなほどに儚く映った。


長らく近くに付き添う従者は、故に触れることが出来なかった。


だが、一人の少女は動いたのだ。

ハルモニアでも、アステリアでも、ルミナでもなかった。



「──ごめんなさい。私は確かにあなたの事が憎かったのかもしれない。けれど、今は違う。たくさんの大切な思い出ができた。大切な人ができた。──好きな人ができた。だがら、私はあなたに感謝する」


「──私を生み出してくれてありがとう」



生まれながらに残酷な運命を背負った量産型クラリアスの少女は、今にも崩れそうな創造主を優しく包み込んだ。





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