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クラリアスノート  作者: ゆさ
第五章 『神を身に宿す者』
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第五章 7 『似た者同士』


挿絵(By みてみん)





賢者アウレオ・アルヴァイスの拠点へ続く道は開かれた。


足を踏み入れると一つの部屋に導くように紫色の淡い光を放つ魔石が並んでいる。

洞窟であり洞窟でない。

そこは完全に人工の手を加えられた空間。



ルミナは「やっと開いた……早く案内してよ!!」と我慢の限界と言わんばかりの表情でアステリアに頼み込む。我慢の限界と言うのが、感情的な話か、生理現象の話かについては言うまでもない。


アステリアは文句ありげな表情を一瞬見せるが、今回の件どう考えても自分が悪いことを理解している。

アウレオは気づいて開けてくれたが、主を待たせ手間をかけさせてしまった後悔の念は、自分の"気に入らない"という少し身勝手な感情を抑制した。


「分かってるよ。間違ってもトイレ以外でするなよ」


理解はしている、だから肯定はする。しかし、やはり気に食わないから悪態をついてやった。


ルミナは顔を真っ赤に染めると「──キィッ!! 」と声とは思えない奇声を漏らす。

怒りにも羞恥にも取れる謎の反応である。余程堪えたらしい。


そんなルミナを無視してアステリアは前へ進む。リアはルミナ宥める。


コツン、コツンと通路の中響き渡っていた足音は止まる。


アステリアは扉の前で立ち止まると「ついたよ。この扉の先が僕達の拠点だ」と、ルミナ達の方を振り返る。


その扉は複雑な模様が刻まれた青銅のような大扉。

一般の少女であれば開けることもかなわないだろう。


ルミナは「もうなんでも良いから、早くしてよぉ……」と我慢の限界が近づいていた。

見兼ねたアステリアは、やれやれと大扉に両手をかけるとゆっくりと押す。

アステリアの踏ん張る様子を見るに、確かに大扉は重いのだろうが、錆びて動きにくくなっているとか、そういうことでは無さそうだ。

扉は比較的スムーズに開かれた。


そして、アステリアを先頭にリア達は拠点内部に足を踏み入れる。



そこは洞窟の面影を少し残していながらも、その多くが人工的に改造された機能的な空間。

一つ気になるのは見慣れない物体が多く存在することである。


「おお、アステリアよ、おかえり」


長めの銀髪に銀色の瞳。その口調は、レナが目覚めた時の老翁のようにも感じたが明らかに声は若かった。

そう言えば、以前にレナがアウレオのことをアステリアに尋ねた時、「あんなヨボヨボのおじいちゃんじゃない」と言っていた。

だが、それを考慮してもあまりにも若すぎる。


アウレオはいかにも高級そうな白いローブを引きずりながら、こちらに歩み寄ってくる。


アステリアは申し訳なさそうに「あの……アウレオ様……」と言いかけると、それを遮るように、


「──ちょっと!! もう無理!! トイレ貸してッ!!」


ついに我慢の限界に達したルミナは雰囲気をぶち壊すように叫ぶ。

アウレオの後ろから静かに歩み寄る少女は、優しい表情で「こっちだよ、おいで」と透き通る声で呼びかけるとルミナに手招きする。

ルミナはアステリアとアウレオの髪をなびかせるように、横を空を切り全速力で駆けていった。



「なんと言うか……この前会った時は気づかなんだが、アステリアに良く似ているのう」


アウレオは嵐のように過ぎ去ったルミナを見ると感慨深い表情で零す。


「──なっ?! どういう事ですかソレぇ!!!!」


アステリアは顔を真っ赤にして叫ぶ。

ルミナのことを良く知っているレナ達は、『そういう所だと思う』と心の中で思ったが口には出さなかった。


「とりあえず、紅茶でも飲みながら話そうではないか。こちらにおいで」


レナ達はアウレオに導かれるように別室へ移動する。

そこは洞窟の面影が微塵も残っていない部屋。アストルムの室内よりも先鋭的で清潔な空間だった。


何やら高級そうなソファーに座るように言われ、言われるがままに指示に従うレナ達。


アウレオが「紅茶を入れてきてくれんか」と言うと、「はいっ!!」と満面の笑みでアステリアは走っていく。


正直、今はアウレオの隣に座っている透き通った声の少女が紅茶を入れるものだと思っていた。

アステリアには悪いが品格がまるで違う。薄いオレンジ色の綺麗に三つ編みに整えられた長髪に、トパーズのような瞳、何よりもお淑やかな仕草が気品に満ちている。加えて、声まで綺麗ときたものだ。


アステリアがルンルンで紅茶と菓子を運んでくる頃。

見たことないほど清々しい表情をしたルミナが部屋に入ってくる。


「はぁー……スッキリしたぁ……」


そして、ピタッと静止したと思うと「……ん?」と、不思議な表情をしたと思うと、クンクンと空気中の匂いを嗅ぐ。


「……この匂いは……メリクポーロ……? しかもミルクの匂いまで……」


何やらボソボソと独り言を言うルミナを見たリアは、「どうしたの? こっちおいで」と呼びかける。


ルミナがリアの隣に着席した時には既に紅茶と菓子が置かれていた。


「……やっぱりそうだ!! しかもミルクティーなんて、分かってるね。このクッキーもはずせないよなぁ」


そう、目の前にあるのはルミナが厳選して夜な夜な飲んでいるメリクポーロという紅茶にミルクを注いだものと完全に一致していた。比較的手に入りやすく、そこまで高級でもない。だが、甘い香りがミルクにとても良く合う。


そして、更に隣のレナにアステリアが紅茶を運んできたことを視認してしまったルミナは静止する。


リアは内心『もう結婚してしまえ』と叫びたい感覚に陥っていた。



「──ふんっ。ま、まぁ、問題は砂糖とミルクの分量だよね。それを抜きには語れないよ」


ルミナは一口含む。

刹那、とろけるような表情をしていた。それを見たアステリアは一瞬口元を緩ませる。


──尊いなぁ、と思いながらリアとハルモニアは二人のことを眺めていた。


二人は視線に気づいたのか、ただの強がりか、


「ちょっとミルクが多いね、これじゃ紅茶の風味が損なわれてるよ」


アステリアの眉はピクリと動く。


「増やしたんだよ。紅茶は利尿作用があるからね。またチビッたりされたらたまったもんじゃない。ここは清潔な空間なんだ」


「──ッチ、チビってないわ!!!!」


ルミナは顔を真っ赤にして怒り狂う。



初めて会った時には想像もしなかったほどに、仲睦まじい二人の姿がそこにはあった。




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