第五章 2 『新たな仲間』
アルテア、タリア、メリエラを失ってかなりの時が過ぎた。
神樹麓の事件以来、アストルムに新たなガーディアンは補充されなかったが、ついに二人のガーディアンが補充されるらしい。
アストルムに配属となるからには、それなりに手練のガーディアンが補充されるのだろう。
そしてまさに今日、ネイトから配属される二人のガーディアンの紹介があるのだ。
ネイトに誘導され、一人の少女と、一人少年が歩いてくる。リアの様子を見るに、少年のことは見覚えがあるようだ。
「僕はヨシュア・キリシュトルテ。階級はファーストだ。他人と馴れ合うつもりはない。特に、才能だけで特別扱いされる奴とはな」
灰色の髪に、黄金の瞳をした少年はレナを睨んでいた。
初対面の挨拶でこれとはあまりにも感じが悪い。
ヨシュアの隣に立つ少女は、至極冷めた目でヨシュアのことを見下ろしていた。
紫紺のセミロングにアメジストのような瞳をしており、僅かに見えた耳はほんの少しだけ尖っているようにみえる。
「私はルナ・レステリア。階級はファーストだよっ。仲良くしてねっ。──ち な み にっ」
ルナは無駄のない素早い動きで、スっとレナに急接近する。
そして、レナの耳元に息がかかる程近寄ると、
「私は、強い人が大好きっ。──これからヨロシクねっ?」
その様子を見たリアは「──なっ?!」と不意打ちを食らった表情を見せるが、ルナは横目でリアを見るとニヤリと口角をあげ、元の位置に戻っていく。
ネイトはコホンと咳払いをすると、
「二人はファーストの中でも上位に位置する実力者よ。話した通り、これからのアストルムに回される依頼は重めの依頼が多くなると思う。小さな依頼であれば個々に頼むこともあるけれど、基本的にはレナ、アルテミシア、リア、ルミナ、リゼ、ヨシュア、ルナの七名で動いて貰うことが多くなると思うわ。部隊の指揮はアルテミシアがするように。まずは、お互いの実力を確かめたり、親睦を深めて実戦で連携を取れるように心がけてね」
アイズ階級二人に、ファースト階級五人。かなりバランスの取れた高レベルの部隊が完成した。
◇◇◇◇◇◇◇
昼食を食べた後、レナ達は修練所にいた。
リゼの振舞った昼食は、ルナとヨシュアの舌を唸らせた。初見では誰もが同じ感覚を持つだろう。
「まずは、お互いの戦闘スタイルを把握しようか。私達のことは先に口頭で簡単に説明しよう。私は精霊使いであり、特に結界の生成と風属性の魔術が得意だ。レナ達にもまだ見せたことは無いが、刺剣での近接戦闘も得意だ。レナは……あー、そうだな……全てにおいて突出して優れている。自分の力を完璧には制御できない点が問題だ。つい先日、魔剣を使用するレリックホルダーになった。四大精霊の一柱、風の大精霊様とも契約している。まあ、色々言いたいことがあるとおもうが後にしてくれ、説明を続ける。リアは光属性の魔術が特に得意で、敵を一撃で貫く高火力の異能を有している。ルミナは雷属性の様々な異能を行使可能だ。逆に基本魔術の類は一切使えないに等しい。リゼは基本魔術は全て網羅している。近接戦闘は苦手で異能は一切使えないが、頭脳明晰だ」
アルテミシアは話し終わると「次は君たちの番だ」と説明を促す。
「じゃあ私から。私のアルテミシアと同じ精霊使いだよ。契約精霊はエインセル。能力は実際使って見せないと分かりづらいから後でね。近接戦闘も割と得意かな。使用する武器が大鎌だから、皆の間合いを把握しないと怪我させちゃうかも」
ルナは携えていた折りたたみ式の棒を広げ、魔力を込める。
すると、棒の先端辺りに、紫色の大鎌の刃が生成された。魔力の込め方である程度形状を変化させることができるらしい。
ルナの説明が終わると、必然的に皆の目はヨシュアに向く。
「僕は魔術も異能も行使できない。僕が行使できるのは『魔法』ただそれだけだ。近接戦闘には自信がある」
少年は淡々と説明する。
魔法を行使する者自体、フェルズガレアにおいては希少である。その実態を知らぬ者は多い。
「二人ともありがとう。では、実際にアイズ階級の私と手合わせしてみようか。二人とも同時にかかってきて良いぞ」
アルテミシアはニヤリと笑う。
実力を把握には良い機会だが、どう見ても自分か楽しみたいだけのように見える。
そこで、ヨシュアは「提案があるんだが」と手を上げる。
アルテミシアが「どうした?」と尋ねると、
「僕はあのペテン師と手合わせしたい」
黄金の瞳はレナを睨んでいた。
「ペテン師とは、レナのことか? すまんがあまりおすすめは……」
アルテミシアは制止しようとするが、ヨシュアは止まらない。
「噂は聞いているよ。一ヶ月足らずでアイズ階級だって? ありえない。華奢な身体に女みたいな顔してさ、今だって無気力な顔をしてる。周囲に言えないような特別な力があって特別扱いされているだけなんだろう?」
これだけ言われてもレナは眉一つ動かさない。
むしろ、リアの方が奥歯を噛み締めてイライラしているようだった。だが、レナが気にしていない以上、自分が言い返すのはおかしな話なので堪えていた。
ヨシュアがここまでレナを敵対視するのは、魔法を行使する故の事だろう。
魔法を行使するものは精霊を認識することが出来ない。そして、異能を使うことが出来ない。つまりは、レナの強さを戦わずして判断することができないのだ。
精霊使いのルナからしたら、レナをペテン呼ばわりするヨシュアを見て呆れる他ない。
無論、ここまでレナに対して敵対的な言葉を吐くのはヨシュア自身の性格のせいもあるのだろう。
「どうしたものか……そうだな……レナ、手合わせしてみると良い。ただし、条件つきだ。使って良いのはこの凡庸品の剣、基本魔術、そして身体強化以外の異能は禁止する」
「──なっ?! ふざけているのかっ!!」
ヨシュアは吠える。
自らが戦うことを提案したのに手を抜いて相手をしてやると言われているようなものだ。
「落ち着け。実際に戦えば分かる。手を抜いたレナに勝てるなら勝って嘲笑ってやれば良い」
アルテミシアはそんなことを言うが、少し理不尽では無いだろうか。
僕は暴言を吐かれた上に手加減しろと言われ、負ければ嘲笑われるらしい。
「分かったよ。一撃で終わらせて嘲笑ってやる」
ヨシュアはやる気になってしまった。
広い空き地に歩いていくとレナの方を向き手招きする。
色々あったが、剣客と真剣な手合わせはレナにとっても心躍ることである。
先程まで無表情だったレナは、期待を胸に笑みを零すとヨシュアの前へ歩いていった。




