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クラリアスノート  作者: ゆさ
第四章 『リグモレス』
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第四章 12 『黄金属性』


挿絵(By みてみん)





黄金の結晶は煌めき、神々しい光の粒子は胞子のように漂っていた。


「なんだここは……」


アルテミシアは吸い込まれるように足を進める。

未開の地故、気を張っているつもりだが、どこか気の抜けてしまうような幻想的な光景。

理想郷なんてものが本当に存在するならば、こんな感じなのだろうか。


リア達の警戒感もどこか失われつつある頃。


「気をつけた方が良いよ。僕もよく分からないんだけれど、この感じ、第三領域内にどこか似ている。第三領域ほど濃くは無いけれどね」


アステリアは忠告する。

この警戒感が薄れるような不義な気配が第三領域にはあるのだろうか。

確かに、どんな手練であっても警戒無しに敵の攻撃を避けることは出来ない。


「忠告ありがとう、アステリア。何かありそうな突き当たりの奥を確かめたい。気をつけながら行こう」


アステリアは止めはしないものの、少し心配そうな表情をしていた。


そんな中、不思議とレナはいつも通りだった。

別段、気を削がれるような感覚はない。


アルテミシアが何かありそうと言っていた場所には、金色の棺があり、上には一振の剣が置かれている。

その剣は、剣尖から柄頭まで完全に漆黒で、剣身は薄く長い。


アルテミシアは一振の剣に手を伸ばそうとする。

その様子をリア達も眺めていた。


得体の知れない物体に容易に手を伸ばそうとする行為は、アイズ階級のアルテミシアらしからぬ姿であった。


ただ、警戒していたのはレナとアステリアのみ。

何かが起こるような、そんな気配を感じ取っていたのだ。


──そして、その時は訪れる。



「──っつ!?」


──シャリンッ。


レナの後方から無音で襲いかかる黄金の大鎌。


その刃がレナの首を背後から刈り取る刹那、レナはすんでのところで、剣で受け止めたのだ。

レナと言えど、攻撃を受け止めれば多少は反動を受ける。

その反動で首を少し切ったようだ。

戦闘において、レナが血を流したのは初めてである。


受け止めた黄金の大鎌を下を潜るように受け流す。

そして、その正体を目視した。


痩せ細った亡者のような生物は黄金の肉体を持ち、黄金の羽衣を羽織っている。

目玉も歯もなく、顔のソレは埋没していた。


その音を聞いたアルテミシア達は慌てて振り返る。


「全員こいつから目を逸らすな!! 死にたくなければ味方を見るな」


アステリアの警告は普段から想像できないほどに強かった。


全員が黄金の肉体を見ていた。

──チリッ、──ジッ。


黄金の肉体は微量ではあるが蒸発してメッキが剥がれていくように、腐敗した肉体を一部露にした。


甲高い呻き声と共に、レナに切りかかる。

──カンッ、と鳴り響く金属音。


レナは攻撃を受け止め「軽いな……」と呟く。

先程首に傷をつけた一振よりも、その一撃は軽かったのだ。


アステリアは「面倒くさそうだから、僕が仕留める」と前に出る。


「──クエラ・テネブレア」


アステリアが詠唱すると、敵の頭上に小さな黒い球体が生成される。球体は徐々に拡大していき、敵の頭上に触れた途端停止する。


──シュビィィィィッ、と音を立て球体は垂直に潰れると、地面にゆっくりと降下する。

その軌跡は歪み、円柱状に強大な重力が発生していた。


レナと刃を交えていたはずの黄金の肉体は重力に押しつぶされ、地面へグチャりと押しつぶされる。

それだけでは事足りず、地面すらも円柱状に陥没させていく。


──バキバキッ、ジリジリジリッ!! 重低音を立てながら地面は陥没を続ける。


束の間、音は鳴り止む。


アステリアの前には、円柱状に陥没した穴が出来上がっていた。

面積こそさほど広く無いものの、その深さは計り知れない。

落ちたら間違いなく帰って来れないだろう。


「──テラ・ラピス」


アステリアは追加で詠唱する。

丁度陥没した地面にピッタリの六角柱を生成すると、勢いよく降下させる。

六角柱は──ガリガリッ──ピキピキッ、と音を立てながらねじ込まれる。


そして、陥没した地面は綺麗に蓋がされていた。

あれだけの重力で押しつぶされた上に巨大な岩で蓋までされる始末。

あまりにも無慈悲な攻撃である。


「助かったよ、ありがとうアステリア。そして申し訳ない。警戒を怠っていた」


アルテミシアは申し訳無さそうに話す。


「最初に狙われたのがレナで良かったね。あれは僕でも手足の一、二本は持っていかれていただろうね」


「第三領域に単独に足を踏み入れるアステリアがそこまで言う存在とは一体なんなんだ……?」


「あれはルクセラート。魔獣にも神獣にも属さない未知の存在。分かっているのは、第二領域以降で稀に出現し、その身体には『黄金属性』宿している、ということくらいかな。」


アルテミシアは「……黄金属性だと?」と不思議そうに尋ねる。

実際のところ、レナ達も初耳である。


「黄金属性は九つ目の属性で、希少属性と言われている。その特性は『視認されないほど強大な能力を秘め、視認される程に能力は低下する。』と言われている。理由は分からないけれど、ずっとここにいたんだろうね。誰にも視認されないでね。つまり、最初の一撃はリグモレス上最強のルクセラートだったということだよ」


アステリアは真剣な表情でレナを見据える。

その視線は「一体何者なんだ君は」と、語りかけているようにも見えた。


アルテミシアはレナの方へゆっくりと歩み寄り、


「レナ。あの棺に置かれた剣をどうするか、君が決めてくれ。私の推測だと、あれはレリックである可能性が高いと見ている。そして、後先考えずに私は手を伸ばしてしまった。君とアステリアがいなかったら全滅していただろう。本当にすまなかった。だから、ここで引き返すか、あの剣を手に取るかの判断は君に委ねよう」


「あれがレリックであるならば、探索はここまでで第二領域に行かなくても済むのか?」


「そうだな。軽く調べる必要はあるが、レリックであれば上も文句のつけようがない手柄だ。第二領域に行く必要も無いだろう」


「そうか。ならば選択の余地はない」


ここまで生き残れたのは、正直言ってかなり運が良いと言って良いだろう。

アステリアがいなければ、死者が出ていたかもしれない。

探索を切り上げることが叶うなら、直ちに切り上げるべきだ。


それが、大切な人を守るための選択である。



心の内で覚悟を決めたレナはゆっくりと、一歩踏みだした。





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