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クラリアスノート  作者: ゆさ
第三章 『アルティセラ大森林』
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第三章 9 『瞳に映る』


挿絵(By みてみん)




朝方、木漏れ日が射し込んでいた。

自然の中空気は澄み渡り、高所の木橋を歩いていると心地よい風が通り過ぎていく。


アルテミシア達は、イリス・メイレンの家に向かっていた。



「おはようございます、アルテミシアです。少し相談があって来ました」


アルテミシア達が中へ入ると、イリスの神々しい双眸は静かにこちらに向いていた。


「おはよう、良い風が吹いているね。ところで相談とはそこにいるレナのことで良いのかな?」


「あはは、相変わらず話が早くて助かります」


イリスは再びじっくりとレナの瞳を見据える。

ただ見るのではなく、何かを見透されているような感覚に陥る。


「レナは随分と精霊に好かれているようだが、君は精霊のことを認識できていないようだ」


「ああ、どうやらそうらしい」


「少し込み入った話になるが、まず精霊を認識するとはどう言うことなのかについて話そう。精霊とは、基本的に生物の心の本質を見抜く。その本質が自分達にとって有益であれば姿を見せ、そうでなければ姿を見せることはない。今話した有益というのは、世界の維持に関することだ。それは世界に強く結びついた精霊達にとって最優先事項である。基本的に精霊達は不滅の存在であるが、その存在は世界の環境に左右されると言っても良い。自然界に存在する魔力である魔素が枯れたなら、もちろんそれに準ずる素精霊は消え、その上位にあたる精霊にも影響が出る。私達エルフが精霊と親和性が高いのは、魔力適正によるところもあるが、できる限り環境を守り共生しているという点が大きい。だが、実際何をもって世界に有益か、そうでないかは精霊が判断するところであり私達には理解できない部分もあるだろう。しかし、精霊側が認めたとしても認識出来ないケースはいくつか存在する。一つ、魔力が著しく低い場合りどれほど世界に有益な存在であっても、魔力が著しく低ければ認識することはできない。二つ、魔法を行使するものは、異能、魔術を行使できない。そして、精霊を認識することは一つの例外を除いて不可能だ。三つ、存在そのものが心ある生物でない場合」


その言葉を聞き、ルミナは顔をひきつらせる。

リアも同様に良い反応ではなかった。

クラリアスに精霊は認識できない。分かっていたことだが、クラリアスは心ある生物としてみなされていないのだ。


そんな二人の様子を見ると、イリスは補足するように、


「クラリアスの少女達よ、気にしているようだから誤解を解いておこう。心ある生物でない、と言う区分に君達は含まれていない」


二人は意表をつかれた様子で、次に繋がる言葉を待ちかねる。


「心が何であるかについては、明確な定義が存在しないがここでは分かりやすく感情や意志を生み出す機能を持つ核としよう。その場合、君達クラリアスや精霊にも心はあると言える。だが、問題はその心の成り立ちだ。いわゆるヒト族、エルフ族などの心は、生まれた時には既に機能として備わっている。それが何によって作られたかは諸説あり、全く検討がつかない領域だがね。しかし、クラリアスと精霊は心が何によって作られているかが明確だ。精霊は純粋な魔力の塊、つまり心も魔力によって作られている。そして、クラリアスの心も同様だ」


リアとルミナは特に真剣な表情で話を聞いていた。

イリスはおそらく、クラリアスのニュークリアスについて知らないはずである。にもかかわらずその本質を見抜いていた。


「そこで、なぜ精霊が姿を見せるのかについて着目しよう。精霊が姿を見せる主な理由は契約にある。精霊は認めた者、言い換えれば精霊契約する為の必要最低限の資格を持った者と契約をする為に姿を見せる。認識できるという事は、その者は精霊と契約する資格があるという事だ。そして、精霊は精霊と契約できない。もちろん、同じ存在である故、基本的にお互い認識し合えるがね。クラリアスは精霊では無いが、その心の成り立ちは精霊に近いとも言える。そこで、精霊達は君達クラリアスの存在を精霊契約者としてみなすことができていない、と考えるのが妥当だろう」


「なんだか難しい……けれど、少しほっとした気がします。教えていただき、ありがとうございます」


リアは丁寧に感謝する。

自分達を否定する事実を否定してくれた。それは些細なことだが、今までに無かったことであり、少し楽になった気がした。


「ところで、今までの話からすると、僕はそのどれにも該当しないが、何か別の要因でもあるのだろうか?」


レナの魔力が著しく低いというのはまず無いだろう。

精霊に食い潰されて余りあるほどであるとアルテミシアに引かれたくらいだ。

魔法を行使している自覚もない。精霊の力を無自覚に借りて戦闘していたことも考慮すれば明らかである。

心ある生物であるかについては、精霊が好意を持って寄ってきている以上、あると考えるのが妥当だ。


「そうだな……そのどれにも該当しないという事は物理的な要因と考えるのが自然だ。おそらく、レナは目が著しく悪い。無論、単純な視力の話ではない。魔力適正がある者は、通常多かれ少なかれ魔力を通してものを見ている。その精度は使い方によって様々だ。エルフは魔力を通しものを見ることに関して長けている。私のように魔力によって変質した瞳のことを『魔眼』という。魔眼にも色々あるが、その多くが特殊な能力を保有している。レナの場合は、その魔力を通してものを見ると言う機能が何らかの原因により欠落していると考えられる」


イリスの神々しい瞳は魔眼であると言う。まるで物事の本質を見抜くような洞察力も魔眼の力なのだろうか。


「なるほど……確かにそうであれば納得いく。先程の話に魔法を行使するのもは一つの例外を除き、と言っていたのが気になった。その例外とはなんだろうか」


一つ、と強調したのが引っかかった。

魔法と相容れない存在である精霊の認識を可能とするただ一つの例外。


そこに、レナの今の状況を解決しうる答えがあるような気がしたのだ。



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