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クラリアスノート  作者: ゆさ
第三章 『アルティセラ大森林』
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第三章 6 『エリュカティア』


挿絵(By みてみん)





目前に広がるは一面に背の高い木々が生い茂る土地。

大自然の中でもそこが特別な地であるのとは明白だった。


リア達は目的であるアルティセラ大森林の前にいた。


アルテミシアは「さあ、こっちへおいで」と、手招きする。

そして、リア達はアルティセラ大森林に足を踏み入れる。


束の間、空気の流れが変わった。

木々は揺らぎ、地面は微かに振動していた。


背後の音が気になりリゼは後ろを振り向くと、


「……え? あれ??」


辺りを見渡しながら混乱した様子を見せる。

それもそのはず、先程まで通ってきたはずの道が無かったのだ。

正確には多くの木々が茂っていた。

──まるで元からあったように。


「ああ、気にしなくて良いよ。アルティセラ大森林は常に形を変えるんだ。私達エルフは最奥にある精霊樹付近に住んでいる」


「常に形を変えるって、どうやって辿り着くのさー。しかも最奥って」


ルミナは愚痴をこぼす。

早朝にアストルムを出立してからまだ一度も休んでいない。

疲れも溜まり、その上行先も分からないとくれば愚痴もこぼしたくなるものだ。


「心配しなくて良い。私についてくれば最短で辿り着くことができる」


アルテミシアは平然とそんなことを言う。

確かに後方の道は塞がれたものの、前方はきれいさっぱり一本の道が開けていた。

ひたすら直線に、黙々と後をついて行く。

本当に正しいのだろうか、ついに我慢の限界が来たルミナは質問する。


「最短って、ずっと直進してるだけだけれど大丈夫なのこれ?」


「ルミナは知りたがりだな。さっきも言ったように、アルティセラ大森林は形を変える。これはとある準神級精霊の力だ。それをする最大の理由は、最奥にある精霊樹を守ること。そして、私達エルフはその手伝いをしているんだ。世界にはあらゆる種族が増え、決して自然的とは言えない環境になっているからね。精霊と親和性のない者は精霊と意思疎通できない。エルフが仲介のような役割をしてあげる必要があったのさ」


話を聞き直進している最中にも後方の木々は道を閉ざしていった。


「話が少し逸れてしまったね。直進してて大丈夫かという質問についてだが、簡単な話だよ。私についてくる限り最短で目的へ辿り着けると言った。そして森は形を変える。つまり、この森は目的地までの最短ルートを直線で作ってくれているんだ」


「最短ルートを作るって……」


確かに答えは単純だ。

だが、これ程の広さの森の形を自由に操るなんてこと本当に可能なのだろうか。

アルテミシアの言う準神級精霊とやらの力が、それ程に強大だとすると、精霊の力は計り知れない。


「この常に形を変える森こそが、なかなか立ち入れる場所ではないと言った大きな理由だ。仮にアルティセラ大森林に立ち入ったとしても、その多くが方向感を失い森の外に出されてしまう。私がいなければ、君達も日中彷徨って最終的には森の外へ放り出されるだろう」


アルテミシアは更に歩く速度を上げていく。

いや、もう走っていると言った方が良いだろう。

リア達に合わせるつもりがないのか、本当に鍛える意図でやっているのかは分からないが、疲労込みでギリギリついていけることを考えると、配慮していることは確かだろう。



その後もひたすら直線に進んでいく。

日差しは背の高い木々にある程度遮られていたが、少し先はその様子がみられない程に明るかった。


アルテミシアは速度を落とし、少し進むと立ち止まる。


「ようこそ。精霊樹、そして精霊達と共生する地、エリュカティアへ」


アルテミシアは客人を招くようにこちらを向くと一礼する。

エリュカティア、アルティセラ大森林の最奥に存在したその地は、幻想的なまでに美しい自然が広がっていた。


アルティセラ大森林を知っていたとしても、この地に足を踏み入れ名前を聞くことはまず無いだろう。

客人こそがその名を知り、足を踏み入れることを許されるのだ。


それ程に神聖な領域にいると言う自覚があった。

決してこの領域を穢してはならないと言う、警告じみた自覚が芽生えていた。



「本当にお疲れ様、随分キツかっただろう。君達を鍛えるつもりで調整してたんだ。すぐにでも食事を用意して休ませてあげたいところだけれど、まずは長に挨拶しに行こうか」


やはりそうだった。

アルテミシアはリア達を鍛えていたのだ。

お陰様でリア達は疲弊しきっていた。ルミナも愚痴をこぼす余力も残っていないようだ。


エリュカティアには自然を利用して建築された住居のようなものが点在する。そのどれもが自然の木を利用し、少し高めの位置に建築されていた。

アルテミシアはそのうちの一番奥の住居にリア達を案内した。

長というが、特別豪華な住居に住んでいるわけでは無いらしい。



「イリス様。 アルテミシアが帰りました。 客人を連れてきたので挨拶に参りました」


獣の皮で作られた幕を開き中へ入っていく。


「おお、アルテミシアよ、お帰り。随分と多くの客人を連れてきたね。リア、リゼ、ルミナ、そしてレナ。エリュカティアへようこそ。私はイリス・メイレン、この地の長をしている。ぜひともゆっくりしていくとよい。」


エルフ故か、見た目からその年齢は計り知れないが、かなりの長老であるように見えた。

白に近い美しいブロンズ色の髪。そして何より特徴的なのは、黄金の右目そして、エメラルドグリーンの左目。


その神々しい両目はこちらを見通すように。



そして、一度も語ってすらない名を、さも当たり前のように語ったのだ。




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