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クラリアスノート  作者: ゆさ
第三章 『アルティセラ大森林』
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第三章 4 『食卓を囲む』


挿絵(By みてみん)





アストルムの大きな食卓には、いつもより一段と豪華な料理が並んでいた。

リアも手伝おうとしたが、リゼにやんわりと断れてしまったのは言うまでもない。


アルテミシアも揃っての食事は随分と久しぶりのことである。

そして、その間に何人ものクラリアスが去り、移動して来ている。

アルテア、タリア、メリエラはもうアストルムにはいない。


真実を知った二人はオムニシアによって回収されたクラリアスがその後どうなるかは知っている。

再び何処かで会うことになっても、きっとお互いに分からないだろう。



「私はアルテミシア・クローリスだ。改めてよろしく。新入りはレナと……すまん、そう言えばちゃんと聞いていなかったな」


アルテミシアは恥ずかしそうに頬を掻く。

先程までの慌ただしさは、素ではなく余程興奮していたらしい。

その様子を見て少し安心した。


「クラリアス、ファースト階級のリアです」

「同じく、ルミナ」


二人は簡潔に自己紹介する。


「そうか……君たちが来たと言うことはクラリアスがまたやられたか。なんだかずいぶんと少なくなっちゃったな」


アルテミシアは悲しそうに呟く。

遠征から帰ってきたら同じ施設のガーディアンが減っている。

嘆いたところでその事実は変わらないが、強さ故の後悔もあるのだろう。



「アルテミシアさん。今回は何をしに遠征に行ってたのですか?」


リゼは話題を変えるようと質問する。

実際かなり気になってるところでもある。


「リグモレス第一領域へ行ってた。レリック絡みの依頼だよ。と言っても、私の力量だと第一領域が限界だから、以降の探索は断ってきたよ。期限まで粘ったけれど結局今回は見つからなかった」


リグモレスとはフェルズガレアにおける、未探索領域の一部を指す名称である。

未探索領域とは神樹からより離れた位置であり、内側から順に、リグモレス第一領域、第二領域、第三領域、リオノドス、ニヒラプスと称されている。


どの領域もリア達が日頃守っている土地とは比べ物にならないほど危険な環境とされており、より外側に行くほどその危険度が高い。

例えセラフィス階級のガーディアンでさえ、単独でリグモレス第三領域を生きのびることは厳しいと言われている。



「リグモレス第一領域……そんな危険な場所に行ってたのですか……しかもレリックって」


「レリックってあれだよねー、古代から存在しているとされる特殊な性質を持った遺物だっけ」


ルミナは話に食いつく。

確かにルミナが好きそうな話題ではある。


「そうだ。かつては未探索領域より内側にも多くのレリックがあり、収集し保管されていたが、現在その多くはアストルディアの連中が持って行ってしまったらしい。現状において、未探索領域の内側でレリックを探すのは厳しいだろう。それでも、未探索領域となれば話は別だ。領域のほとんどが未探索故に、レリックが見つかる可能性がある。と言っても、リズモレス第一領域に関しては既にかなり探索されていて、そう簡単に見つからないんだけれどね。レリックは見つからなかったけれど、きちんとマッピングしてるし調査という基本的な仕事はこなしたよ」


「レリックってそんなに重要な物なのですか?」


リゼは少し心配そうに聞く。

あるかも分からない遺物を探しに危険な領域に足を踏み入れているのだから心配するのも仕方ない。


「重要である物もあればそうでないものもある。戦闘に役立つレリックもあれば、技術革新の元になりうるものもある。ただ貴重なだけで使い道の分からないものもね。そして危険性を孕んだものさえある。未探索領域を調査する理由はなにもレリックの為だけでは無い。先程も言ったように、調査そのものに価値があるんだ。クロスティア学院が設立され、ガーディガン制度が生まれて数百年もの間、神樹付近の人々が暮らす土地は住みやすい環境になった。だが、それだけなんだ。前進していない。前へ進む為には何をすれば良いか、私達がやっていることはその答えの一つに過ぎない」


アルテミシアの言う前進とは、現状を打開する根本的な何かを指すのだろう。いくら脅威を払おうとも、一時しのぎでしかないのだ。

死んだ生物が脅威となりうる現状において、戦力の均衡が崩れたら、一気に混沌の世界と変わるだろう。


未探索領域における調査とレリックの回収は、ある種での希望というわけだ。


「と、長々と話してしまったが、今は私の話は良い。本題に移ろうじゃないか」


「本題?」


リゼは不思議そうに首を傾げる。

これだけの話をしていながら、リア達が料理を食べるペースは一度も低下してしたかった。

それほどに絶品なのだ。


「ああ、先程レナは危うい状態という話はしたな?」


レナは料理を頬張りながらこくりと頷く。


「その問題を解決する保証はできないが、放置するわけにもいかない。同じアストルムの仲間だしな。そこで提案なんだが、私の故郷、アルティセラ大森林へレナを連れて行こうと考えている」


「アルティセラ大森林?」


「そう、リセレンテシアの外、南に位置する私達エルフ族の故郷だ。

エルフは古来より精霊と親和性が極めて高い。ガーディガンではないが、私とは比較にならないほど精霊に詳しく、高次元の精霊と契約している者もいる。もしかしたら何か解決策があるかもしれない」


提案するアルテミシアはちらっとネイトへ目線を送っていた。


ネイトはため息を吐き、


「分かったわ。アストルムのガーディアンについては色々あったおかげで学院上層部も協議中だから、しばらくは依頼も来ないでしょうし」


「決まりだな。私とレナ、あと……」


アルテミシアは何かを思いたったように、考えこむ。


「よし、リゼ、リアとルミナも行こうか」


その発言を聞きネイトは待ったをかけようとする。

しばらく依頼が来ないとは言え、主戦力五人がいなくなるのだから仕方ない。


「私がいないうちにガーディアンがまた減ったら困るからね。ついでに少し鍛えてやろう。それに、中々立ち入れる場所ではない。知見も深まるし良い機会だろう」


アルテミシアの言葉を聞いてネイトは黙り込んでしまう。

皮肉にも聞こえる言葉はネイトを苛んだ。

だが、それは当然の事実であり、受け止めるべき事実である。

アルテミシアもネイトも、それを理解しているが故の行動である。


そんなことは露知らず、リゼはアルテミシアの故郷へ行けることに胸踊らされていた。


「決まりだな!! では明日早朝出立しよう」


アルテミシアは話をまとめると料理に食らいつく。

何はともあれ、大勢で囲む食卓とは気分の良いものだ。



リゼが張り切って作りすぎた豪華な料理は食器のみを残し、晩餐は幕を閉じた。






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