第二章 2 『講義』
リゼと合流したリア達はとある大きな講義室にいた。
中心には広いスペースがあり、そこを円状に取り囲むように座席が並んでいる。
「リゼ、ケガ大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。リア達の方こそ大丈夫なの? ルミナが一番大怪我してたけれど……」
「全然大丈夫だよー」
ルミナはすっきりした表情で答える。
治療を終えシャワールームで汚れを落として完全状態であるルミナは、講義が始まれば今にも寝そうな勢いだ。
リゼは「眠い? 大丈夫?」と心配する。
なんだかんだかなりの時間寝ていない。正直、眠いなら寝かせてあげたい気持ちもある。
ルミナは「大丈夫大丈夫……」と言葉とは裏腹にぐったりと机に寄りかかる。
「そ、そう? なら良かった」
そんなやり取りをしていると、講師らしきの女性が入室してくる。
「講師のネヴァン・アルへティアだ、今から講義始める」
ルミナはその声を聞き、ピクりと飛び起きた。話には興味があるらしい。
講義に参加する人は様々である。学院では資格を持った者であれば、自由に講義を受けることができる。
特に、今回の講義はファースト以上の階級であれば受けることが可能な講義だ。故に、条件をクリアしているリア達は治療ついでに受けて帰ることにしたのだ。
ネヴァン・アルへティアといえば、ガーディアンでも高位階級向けの講師として有名だ。今回は座学的な内容だが、戦闘訓練などの講師もこなす実力者とも言われている。
「今から話す内容は、上界の記録書を元にしたものである。知識として頭に入れて置く必要はあるが、真実は分からない」
ネヴァンはそう前置きし、話し始める。
「曰く、遠い昔世界は一つだった。人々は平和の元、自然の豊かな土地で暮らし、厄災には神々の恩恵を受け対処していた」
「神々の恩恵、それは魔法である。時に、人々は魔法を駆使し、厄災を払い除け、秩序正しい世界を存続していた」
「神々の上位には、創造神さらに上位には神樹が存在した」
「神々は、魔法を駆使する人々の中から、一人の勇者を決定していた。勇者は神々の恩恵を受ける者達と共に世界の秩序を守り、世界を守ることが使命として与えられていた」
「勇者の中でも歴代最強と言われた勇者の名は、『レナ・アステル』と言う人間である」
「レナ・アステルは、最強の勇者として世界を守っていた」
「避けることの出来ない厄災世界を守る度、勇者の力は強まり、ついには神々を超えてしまった。圧倒的な力を手にした勇者は、世界を守ることができるはずだった。だが、そうはならなかった」
「ある日、勇者は神々を殺し、創造神までをも手にかけた。そして、世界は終焉を迎えた」
「レナ・アステルは、歴代最強で最悪、神殺しの勇者として語り継がれることとなった」
「終焉を迎えた世界は、神々の喪失により機能の衰退した神樹によって不完全な状態で創世された。世界は下界、上界の二つに分離した」
「以上、今私達が生きる世界以前の記録として語り継がれる話だ。だが、これはあくまで上界であるアストルディアの記録書に記されている内容の一部である。この手の情報はなかなかフェルズガレアに降りてこないため、鵜呑みにする必要は無いが貴重な情報でもある。いずれ、この中からアストルディアへ上る者がいるかもしれない。心に留めておくように」
「何か質問があれば受けつける。先程話した内容以外でも構わんぞ」
ネヴァンが質問を集うと、一人の少年が手を上げた。
「ヨシュア・キリシュトルテ、質問を許可する」
灰色の髪に黄金の目を持つ少年は軽く頷き、視線を上げる。
「魔法は神々の恩恵と記されているようですが、今僕達は魔法を行使することができる。特にオルフェイアの多くが魔法を行使できる。つまり、現在の世界にも神は存在するという認識でよろしいのでしょうか?」
オルフェイアとはアストルディアに住む者達の別称である。
また、フェルズガレアに住む者達のことをステルファと呼ぶ者もいるが、これはどちらかと言うと蔑称で使われることが多い。
「……結論から言うと、分からない。理由はいくつかあるが、一つ、我々が行使できる魔術を含む異能と魔法は共存できない。二つ、魔法は何らかの条件を満たした者のみ行使することが出来る。そして、私は異能を使う側の人間である。故に、その問に答えることは出来ない」
「そう……ですか」
ヨシュアは落胆するように席につこうとする。
「私には分からないが、君は身に覚えがあるはずだ。自分が何を思って何をするか、その選択自体は君達全員に平等に与えられている。ゆっくり焦らず悩むと良い。学院はそう言う場でもある」
一度動きを止めた少年は話を聞くと席についた。
束の間、少女が控えめに手を上げる。
「セシア、質問を許可する」
明るい緑色の髪に、特徴的な瞳。
手を上げたのはクラリアスの少女である。
「魔法は神の恩恵と記されていますが、であれば私達の行使する異能と魔術はどう言った存在なのでしょうか」
「知っている者が多いと思うが、魔術とは異能の一部だ。異能を形式化したものが魔術である。言語で言うところの共通言語のようなものだ。得手不得手はあるだろうが、基本的に魔術は習得しようと思えば習得できる。
これは世界のシステムに関係するものであり、異能は自らの魔力に心を干渉させることでとある事象を引き起こす。
これに引き換え、魔法とは条件を満たした者が神により力を行使する権利を与えられることで行使できると言われている。先程言ったように魔法については私にも具体的な説明は出来ない」
「ありがとうございます」
セシアは静かに席に着く。
その後も暫くの間、講義は続いた。
◇◇◇◇◇◇◇
「終わったー、今日はゆっくり休もー」
終了の合図と共にルミナは伸びをする。
「だねー、疲れたよ」
「二人ともお疲れ様!! 帰ろっ」
リゼは背中を軽く叩く。
こうして、三人はアストルムへ帰るのだった。