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クラリアスノート  作者: ゆさ
第八章 『勇者』
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第八章 8 『帰る場所』


挿絵(By みてみん)




賢者の拠点を出た後、レナはアストルムへ、ゼルグはアウレオから受け取った転移用の魔道具を各地に配置するため、自らの拠点へと向かった。

オルティナは他に用があるらしく、移動手段のないゼルグは、面倒くさがりながらも自らの足で去っていった。




◇◇◇◇◇◇◇



アストルムのメンバーが揃うのは久しぶりのことだった。

そのためか、食卓には普段より豪華な料理が並んでいる。


「全員揃ったね。早速だが、君達に今後のことで話しておかなければならないことがある」


マリナは淡々と切り出した。

無事に全員が帰還したことへの労いの言葉はない。管理人として当然かもしれないが、こうした些細な瞬間にネイトの優しさがふと脳裏に過ぎる。


「まず君達の待遇についてだ。ルナ、ヨシュア、リゼの三名は、これまで通りガーディアンの任務を続けてもらう。そして、レナ、リア、ルミナ、アルテミシアの四名は、完全に別の特別部隊として編成される」


──理解はしている。

アストルムを守ることも重要だし、ガーディアンとしての役割も本分だ。それでも、大切な仲間と共に戦えないという事実は胸に穴が開くような寂しさを生んだ。


リゼは重苦しい表情で口を開いた。


「編成の理由を聞いてもいいですか?」


「私にも分からない。学院長の指示だ。正直、私は君達のことを詳細に把握していない。故に、学院長から伝えられた言葉をそのまま伝える──」


「──フェルズガレアには二つの柱が必要だ。そしてその柱は、どちらもアストルムに存在している。この『どちらかの柱』が折れれば、フェルズガレアは終わるだろう」


「──とのことだ。部隊の編成については、武闘大会後、アストルムに残った者とそれ以外で分けるように指示された。学院長の言う二つの柱が君達の部隊を指すのか、個人を指すのかは分からない。ただ、学院長の言うことだ。それほどに重要なことなのだろう」


特別な理由はない。ただ、マリナが淡々と事務的に語る様子に苛立ちを覚えた。

私達が歩んできた道のりは、決して平坦ではなかった。


「私達が断ったら?」


「拒否権はない。──私は前任者ほど甘くない」


ただ学院長の指示に、冷酷に従っているだけの彼女に、ネイトを『甘い』と評されたことが癇に障った。


「甘くないって何ですか? 口で言うだけなら簡単ですよね」


「……リゼ、だったな。君は勘違いしている」



「勘違い?」


「──君はゼノン化したネイト・ストレシアに殺されかけたはずだが?」



「──っ!」


「君の言う口だけでなく"行動"で示すとは、管理すべき対象を"殺す"ことだとでも言うつもりか?」


マリナの焦げついたような深い茶色の瞳が、鋭い刃物のようにリゼを突き刺す。その静かな声は空気を凍らせ、リゼの胸に重く響いた。

予想もしなかった厳しい言葉に、リゼは息を詰まらせ、戸惑いと共にわずかに身体を震わせた。


「──ちがっ!」


「この際だからはっきりさせよう。君達は異常だ。ガーディアンとしての生存能力が異常に高い。無論、生き延び任務を達成するのは良いことだ。だが、それは時に人を狂わせる。管理人も所詮は人間だ。ただ事務処理を繰り返し、死亡者の確認を続ける日々。他人の死というものも日常になれば慣れてしまうものだ。その逆もまた然り。今の君達は仲間の死を受け入れる覚悟があるのか?」



「……そんなこと……」


リゼは言葉を失い、うなだれた。

自分でも分かっている。自分が特別でないように、管理人も特別ではないのだ。マリナは環境に適応するため、今の彼女にならざるを得なかっただけなのだ。


「……少し喋りすぎたな。ただ、それほど君達の立場は重要だ。納得できないなら、私から学院長に話をするが?」


「……いえ、大丈夫です。わがままを言って申し訳ありません」


「いや、こちらも配慮が足りなかった。すまない」


「話を戻すが、レナ達の特別部隊は基本的に自由行動だ。私への報告義務もない。無論、必要があれば私を頼ってくれて構わない。リゼ達は今まで通りガーディアンとして任務を遂行してくれ。あと、簡単な任務にはルノイドとエミレアも同行することが増えるだろうから、面倒を見てやってくれ」


アストルムのサード階級、ルノイド・ノルメシアンは11歳の少年。同じくサード階級のエミレア・ラキセトレスは12歳の少女だ。

簡単な任務とはいえ、彼らが同行するのは異例だ。だが、リゼ、ルナ、ヨシュアがいる以上、任務遂行に支障はない。それほどまでにアストルムの戦力は高い。


マリナは「話は以上だ」とだけ言い残し、自室へ戻っていった。彼女の食事は学院から支給される管理者専用の携帯食だけらしい。強く誘えば食べるかもしれないが、基本的に共に食卓を囲むことはない。


『管理者も所詮人間だ』という彼女の言葉が頭から離れない。管理者の携帯食料が、ガーディアンのものとは異なるというのも聞いたことがある。

それもまた、管理者の"ヒト"としての部分を薄める為の手段なのかもしれない。



──ネイトを狂わせたのは私達だったのだろうか。


人が人らしくあれば必ず不幸になる。

こんな世界は間違っている。




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