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クラリアスノート  作者: ゆさ
第七章 『暗躍する者』
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第七章 17 『偽り』


挿絵(By みてみん)



ゼルグ・エインドハルグは、王座から不気味な笑みでレナ達を見下ろす。

リアから向けられる軽蔑の視線を嘲笑うかのように一蹴する。


「来たか」


ゼルグは立ち上がると、レナ達の方へ歩いてくる。


「少し長くなりそうだ。座れよ」


レナ達は、人数分用意されていたかのように置いてある椅子に腰掛ける。最初にここを出る時にはなかったはずだが、魔術で誰かが用意したのだろうか。


「ようやく状況が整った。全く、面倒だったぜ。レナ・アステル、お前が協力を約束した以上、俺の目的は果たされた」


「こちらは六人いる。リアを救出した以上、お前の約束を守らずにここから去ることもできると思うが」


「剣聖ともあろうものが、随分な物言いじゃねぇか。まあ良い、俺の話を聞けば、嫌でも協力するはずだ。お前がここにいるということはそういうことさ」


ミシェルは、出かかった言葉を口を噤み呑み込んだ。ゼルグの興味はレナに向いている。


「とにかく、詳しい話を聞かせてくれ」


「良いぜ。そう言えば、オレがなぜお前をレナ・アステルと呼ぶか、だったか?」



「ああ。確かにオレのことをレナ・アステルと勘違いする者はいる。けれど、お前はオレのことを、レナ・アステルだと断定して話をしている」


「俺には"レナ・アステル"の記憶がある。完全じゃない。だが、俺の記憶に確かにお前がいた」



「なんだと?」


「声が似ている。雰囲気が似ている。──そんな不確定な話じゃねぇ。今ここにいるレナ・アステル、お前がいた」



「何を言って──」


ゼルグの言っていることは非現実的だ。

確かに、オレはリアと出会う前の記憶が無い。長い年月を結晶の中に閉じ込められてたという仮定を考慮しても、到底信じることの出来ない戯言だ。

だが、抜け落ちたはずの記憶が、それを戯言だと言い切ることを拒んだ。


「レナ・アステルは、世界を滅ぼした最悪の勇者だと、オレは聞いた。ゼルグ、お前は共犯者だと言いたいのか?」


レナの鋭い声色に、オルティナは怒りの形相を露にした。以前、レナ・アステルの話をした時も同じ反応だった。


「何か勘違いしてるようだ」


「勘違い?」



「──レナ・アステルは世界を滅ぼしてなんかいねぇよ」


「確かに、アストルディアの記録書の話だ。オレ達に真実を知ることは出来ない」



「だが、俺は知っている」


「言っている意味が──」



「──レナ・アステルは、世界に全てを捧げた唯一無二の"本物勇者"だ」


その言葉を証明することは、できないだろう。

だが、今まで見た事のないほど真剣なゼルグの表情が、真実であると、そう物語っていた。


「到底お前の言葉だけじゃ信じられないが、なぜお前にはその記憶?が存在するのだ?」


「ミシェル・アストレア。お前はよく分かっているはずだ。アストルディアのアホ共とつるんでいるならな」



「確かに、アストルディアは普通ではない」


「アストルディアの神位権限魔法士について、どこまで知っている?」



「私はこれでも騎士団長だ。名前くらい把握している。アストルディア最大のエクレスティア学院の学院長、イシス・ネクロシス。ノア・レイシア、ギデオン・ノクローム、アストルフォ・ノストグラム、オリヴィエ・メルクラウン、アウロラ・グレーテル、そして……」


「──アスタロテ・ランヴェレダード」


この場にいるオルティナとゼルグを除く全ての者が、その最後の名前に衝撃を受けた。アスタロテ・ランヴェレダード、それは、クロスティア学院の学院長である。


「それは本当か? ミシェル。待て……どういうことなんだ……一体」


アルテミシアの脳内には、様々な憶測が飛び交っていた。だが、そのどれもが情報不足で繋がらない。


「間違いない。神位権限魔法士の名前は管理されている。と言っても、私が実際に会ったことのある者は、両学院の学院長である、イシス・ネクロシアとアスタロテ・ランヴェレダードのみだがね。どちらも何を考えてるのか想像もつかない。理解できないあまり、恐怖を感じるほどだ」


アスタロテ・ランヴェレダードには会ったことがある。確かに、何を考えてるのかは想像もつかないが、極端に悪い印象もない。

そんなアスタロテが神位権限魔法士だと言う。レナは一つ、腑に落ちないことがあった。


「……いや、おかしくないか? アスタロテはアウレオ・アルヴァイスの旧友だ。だが、アウレオは、アストルディアに目をつけられているのだろう?」


「その通りだ。おかしいことだらけだ。だが、アスタロテがいなければ、賢者アウレオがいなければ、今のフェルズガレアはなかっただろう」


ミシェルの話を退屈そうに聞いていたゼルグは口を開く。


「異端者、と言えば、それはアウレオ・アルヴァイスとアスタロテ・ランヴェレダードのことだろうな。確かにアスタロテの野郎は、"七神"の息がかかっている。だが、あいつだけは別だ。本来であれば、七神を崇拝する立場でありながら、"七神の顔に泥を塗っている"、そんなイカれたやつだ。そして、方やアウレオの野郎は、七神を人工的に生み出そうとしている。あれ以上の異端はそう探してもいるもんじゃねぇ」


「ちょっと待て。七神は神位権限魔法士が唯一会うことの出来る存在じゃなかったのか? アウレオが生み出そうとしていたのは、過去のエリュシオンだ。そしてそれは……」



「話が早えじゃねぇか。レナ・アステル。そうだ──」



そして、ゼルグ・エインドハルグは告げた。



「──奴らの崇拝する"七神"は偽りの存在だ」



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