第七章 4 『作戦会議』
温泉施設で汗を流したレナ達は、平凡な酒屋で夕食をとる。
ルミナはぐったりと机に突っ伏すと、
「お風呂出たばかりなのに既に汗かきそう……」
「ほら、冷たい飲み物でも飲むと良い」
ミシェルは氷のたくさん入ったフルーツドリンクを差し出す。
手に取ったルミナは、「ありがと……」と一言。頬に一度当てた後、一気に飲み干した。
「それでは、私達の今後の動きについて簡単に話し合おう。ゆっくりと思考を巡らせることが出来る機会は、おそらくこれが最後になるだろうからね」
早速本題に入ろうとするミシェルだが、一瞬考え込むと、パッと表情が明るくなった。
何かを閃いたような、そんな様子である。
「そう言えば、私達は詳しい自己紹介をしていなかったね。私はレディアライト騎士団長、ミシェル・アストレアだ。今、全てを話す時間は無いが、質問があればなんでも聞いてくれ」
「素朴な疑問なんだけれど、騎士団って組織?なのかな、一体何をしているの?フェルズガレアには無いからさ、いまいちぴんと来ないんだ」
「そうだな、アストルディアにとっては、ルミナが所属している"ガーディアン"と同じような存在と言ったら分かりやすいかな。ただ、騎士団は無数に存在する。その中でも、レディアライト騎士団は、"七人の神位権限魔法士"に選ばれた唯一無二の騎士団だ」
「七人の神位権限魔法士? たしか……七神を拝謁する権利を持った者だったか?」
「そうだ。そして、レディアライト騎士団とは、七人の神位権限魔法士のうち、四名以上の推薦で選ばれた騎士団に与えられる名でもある」
「名を与えられた騎士団はどうなるんだ?」
「ああ、それも基本的には君達と同じさ。王都の住民を守る。これは、他の騎士団も同じだ。特殊な点は、"メルゼシオン"の処理を行うことだ」
「そもそも、メルゼシオンは何なのだ?魔獣でないことは明らかだが、精霊でも無ければ、神獣というわけでもあるまい」
「アルテミシアの認識で合っている。だが、"アレ"が一体何か、については、私にも分からん」
「それは、七人の神位権限魔法士でも知り得ないことなのか?」
「さぁ……どうだろうな。私は一度だけ聞いたことがある。だが、教えてはくれなかった。最も、普通は聞くこともままならないらしいがな」
「それはどういう……」
「実際会うことがあれば分かるさ。会っても会えない存在だから、聞くことも一筋縄ではないのが難点なんだが」
「何の話してんのさ……頭おかしくなるよ……」
「はは。この話はまた改めてにしよう。何しろ要領を得ないと思うからね。では、そろそろ、本題に移ろうか」
「まず、経路について。ラガルトセルクを経由し、フレイムグラスを進む最短ルートだ。土地の詳細や、想定される脅威等の情報を知っていたら教えて欲しい」
ミシェルはレナの瞳の奥を見るような、そんな視線である。
それは、レナに対してではなく、アウラに対する視線だろう。
「わしの出番かのう……」
アウラはレナの上にちょこんと座るように姿を見せた。いつもよりかなり距離感が近い、というか密着している。
心境の変化か、なにか事情があるのかもしれないが、今は黙っておくことにした。
「土地についてじゃが、フレイムグラスを少し進むと、当たり前のようにマグマが点在しておる。水場もなければ、空気すらも害となる場所も少なくない」
ルミナは口には出さないものの、明らかに嫌そうな顔をしていた。
「良い部分を強いて挙げるとするならば、あまり脅威となるような魔獣は確認されていないことじゃな。わしらは悪い意味で珍しい事象に巻き込まれる故、油断は禁物じゃ」
「感謝する。害する空気となると、有毒ガスか。私はおそらく問題ないが、どう対策する?」
「おそらく問題ないってどゆこと……」
「私に毒は効かん。別に異能でも何でもなく、ただの耐性だ」
ルミナは「えぇ……」と、信じられないものを見る目でミシェルを見る。
「ま、まあ、それは私に任せろ。毒素を無効化する結界を張ることができる。オレイアスに頼めば常時展開可能だ」
「ありがとう。では、その場合は頼もう。食料や生活必需品の心配はしなくて大丈夫だ。私の魔道具に余分に詰まっているからね。野営に必要な道具も揃っているので安心してほしい」
ミシェルは右手首に装備されている細いリングを見せる。
見れられたところで、レナ達はそれが何なのか分からないのだが。
どうやら、アストルディアでも貴重な魔道具らしい。この細い腕輪の内部に、異空間が存在し、そこに荷物を収納できるというのだ。
「ゼルグ・エインドハルグの言葉によると、期限は一週間と言っていたが、どれくらいのペースで移動すれば間に合うか、アウラの意見を聞かせて貰っても良いか?」
「うむ。そうじゃな……先程の移動速度であれば二日……地形を考えると、多めに見積って三日かのう。いずれにせよ、問題が起きなければ六日かかることは無いだろう。今回はわしもこのままついて行く故、道には困らんだろう」
「ずっと姿を表したまま同行するってことか?」
「うむ……何か不満でもあるのか?」
レナの上に乗ったまま、アウラはレナを睨んだ。
やたら身体をぴったりと寄せてきたり、やはり様子がおかしい。
「いや、そういう訳ではないが……」
歯切れの悪い返答するレナに、アウラはムスッとした表情で再びぴったりとくっつく。
「よし、では明日早朝、出発するとしよう。今夜はゆっくり身体を休めるように」
すっかり日は暮れており、地表も冷めてきていた。
四人、改めアウラを加えた五人は、宿屋に向かい、休息をとることにした。